忍び寄る危機⑩殲滅作戦前夜
オーフライに到着して3日間殲滅作戦に向けて準備をしてきた。最初はリュシ達の両親もまだ10歳の子供たちの集まりでもあるFクラスの学生風情が来ても何もできないだろうという態度であったが、それならとそれぞれの得意な魔法やペアで行う複合魔法などを見せたら驚愕の顔をして態度を改めてくれた。
今までシングルじゃないという理由で冷遇してきた子供たちが、今までの常識とは逆にシングルよりも強くなって戻ってきた事に戸惑いを隠せないようで、リュシ達に対しての蔑みは無くなったが今までの仕打に対する後悔の念に駆られて親子の会話も何かぎこちないような感じだった。
いよいよ明日から殲滅作戦の開始となり、最後の打ち合わせをリュシの実家の会議室で始める。司会は勇者のペイロンが行い明日からの作戦の詳細を説明した。
「まずは先行隊として俺と明日到着のSランク冒険者タイーガが大物を中心に殲滅をしていく。カテリーナは今回は救護隊の指揮をしてもらうが、戦況によっては前線まで出てもらうかもしれない。大型種の魔物は夜間の活動は余り活発ではないので2班に分けて昼の殲滅部隊と夜の警備部隊に分かれてもらう。攻撃魔法の得意なものが殲滅部隊で補助系の魔法使いは警備部隊で魔道具の補給やポーションの作成をして欲しい。数日間は殲滅に掛かるはずなので、無理をして休憩を忘れたりしないように休憩と食事、睡眠をしっかり取れるよう気をつけてくれ。殲滅部隊の中で魔法師団の指揮はリュシ君が執ってくれ、副指揮はマヌエーラさんにお願いする。警備部隊はジュリアさんにお願いするので結界をメインに夜の警備をお願いする。万が一強い魔物が夜間に来ることがあれば俺とかタイーガを叩き起こして構わないからな。とにかく絶対に死なないようにこの街を全員で守ることが一番の任務だということを忘れないでくれ」
「「「「はい」」」」
「ところで、タイーガさんという方を聞いたことが無かったのですがいつ来られるのですか?」
リュシがペイロンに質問をしてきた。
「タイーガは明日の出発までには来るから安心してくれ。来たらみんなに紹介するよ」
「わかりました」
「では、ここからは部隊毎に打ち合わせをしてくれ、その後で領主様が用意してくれた料理で腹ごなしをしてから明日に備えよう」
ペイロンの言葉で殲滅部隊と警備部隊に分かれてどういう戦略でいくかを話し合った。リュシは土魔法しか使えないので、まずは土魔法を使って物見櫓を作りそこからリュシが指揮を取る形にしてマヌエーラを中心に直接魔物に対峙していくことになった。魔法の精度もみんな上がっているし日本から持ってきた銃器の使い方もリュシは完全にマスターしたので余程の魔物以外は殲滅できるだろう。後は、俺がどのタイミングでトラーオからタイーガへ変わるかが問題だな。明日の朝の時点では変わっておかないといけないので、夜中に腹痛で戦線離脱したことにするか。
今回の作戦で領主の戦力に関しては領地の守りだけに専念してもらう事にして近隣の村などから全員を避難させてこの街だけを守り抜くようにしている。連携が取れないので魔道士部隊と一緒に魔法の使えない戦士が戦うのは邪魔にしかならない。それでも多少の打ち漏れはあるかもしれないが王都には伝えているのでその程度は向こうでどうにかしてくれるだろう。話し合いも終わりリュシの父親でもあるダニエル・パブロ・オーフライ子爵の挨拶で壮行会が開催された。
「この度は我が領地オーフライの為に勇者殿方、またリュシを始めとする魔法学園の皆さんに協力を頂き感謝の念に尽きません。今まで火魔法シングルが一番だという以前からの考えに凝り固まり火魔法以外の属性やダブルの魔法使いを下に見ていた事を恥ずかしく思う。申し訳なかった。考えを改めると共にみなさんの活躍を他領の領主にも必ず伝える事を約束しよう。ささやかながらの宴席を設けているので楽しんで頂き明日からの討伐をお願いする」
その挨拶でリュシやマヌエーラはビックリした顔をして顔を見合わせていた。まさか領主が今までの事に対して頭を下げてくるとは思ってもみなかった。ただその挨拶を聞いて二人共完全にわだかまりが無くなった訳ではなさそうだが笑顔で頷いていたので今後の親子関係も良い方向になっていくだろう。明日は早めに出発予定なので皆早めに切り上げて宿舎へ戻っていった。
「さて、ペイロン俺は今から腹痛で王都に戻るから皆に明日言っておいてくれな」
「了解! じゃSランクタイーガ君よろしくな!」
「おう!」
宿舎とは別のペイロンが止まっている宿に向かった。
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