忍び寄る危機⑨オーフライへの旅路

 日本から戻り、いよいよ出発間際になり各自準備を始めた。クラスメイトの魔法もかなり上達してちょっとやそっとでは死ぬ心配もないだろう。身代わりの魔道具がそこまでないのでクラスメイトは死ぬ事は無いが、周りで戦う現地の兵士達には死の危険は十分あり、万が一自分だけ助かった時の精神的な負担を考えるとできるだけ現地の兵士が死ぬ危険性も減らさなければならない。日本から持ってきた銃火器はリュシとマヌエーラに銃火器の使い方を覚えてもらい現地についたらすぐに指導してもらうようにした。特殊な魔道具で銃弾を打ち終わったらもう使えない事をしっかり理解してもらい戦争に使えるような銃火器がこちらの世界で広がらないように釘を刺しておく。そんな事をしていると出発の日となり、今回はリュシがこの隊の隊長ということで挨拶をさせた。


「みんな、僕らの領地の為に危険な場所に出向いてもらう事に感謝しかない。トラーオのおかげで死ぬ心配は限りなく小さいが決してゼロではないので絶対に死ぬ事なく全員でまたこの学校へ戻ってこよう!」


「ちゃんと討伐終わったら美味しいもんよろしくな!」


 ティモがすかさず茶々をいれるとみんな笑って出発の緊張感が吹っ飛んでしまった。ガチガチの緊張の中出発するより笑顔で出発した方がFクラスらしいな。


「おう! 任せとけ! うちとマヌエーラの所の最高の料理を出してやるよ!」


「どんな料理か楽しみだね」


「ティモには名物の極辛料理の最高ランクを食わせてやるから心配するな」


「それって美味しさが最高なの? 辛さが最高なの?」


「そりゃ両方だよ」


「とりあえずみんな美味しい料理の為に頑張ろう!」


「嫌、そこはリュシとマヌエーラの為にでしょ!」


「ジュリア、だってあんまりリュシ達に負わせてもなんだから、名物料理に責任を負わせようかと……」


「何それ? バッカじゃないの?」


「バカっていう人がバカなんだよ?」


 ジュリアとティモの漫才をいつまでも聞いている時間もないのでさっさと出発させよう。


「リュシ、そこの二人の夫婦喧嘩は放っておいて出発しようよ」


「そうだね、じゃ出発するよ!」


 リュシの号令で馬車が動き出す。馬車3台に分かれオーフライに向けて3日の予定での旅路だが俺やジュリアの空間魔法で荷物は預かっているので馬車の中も余裕がありゆっくりできる。馬車の中ではワイワイと今から魔物の討伐にいくような雰囲気ではなく、どこか修学旅行に行く学生のように見えてしまう。


「リュシ、ちょっといいかい?」


「なんだい?」


「現地についてからの戦略だけど、まず着いた翌日に信頼のおける兵士のみに教えた銃火器の使い方を教えてやってくれ。できれば勇者様と聖女様が前線を叩くのでうち漏らした魔物を学園の生徒が撃退をさせてからそれでもうち漏れがあったものを兵士にお願いしたい。たぶんみんな兵士の人たちが死んだりすると精神的にきついかもしれない。それを掻い潜って先に進める魔物はそんなに多くないし、王都は近衛兵も含めて防衛するらしいから問題はない。とにかく誰も死なないようにしたいんだ。兵士に死んだら無駄死にくらいのつもりで命を懸けないように徹底してほしい」


「わかったけど、普通は逆だよね? 俺らの為に死ねとか絶対撤退はしては駄目だとか」


「俺らの命も兵士の命も一つしかないからね? 無くなったら終わりだよ……」


「とにかく全員生きて帰ろうをモットーに頑張るようにみんなに言うよ」


「それで充分だ、どうしても数人は犠牲が出るかもしれないけどそれが少ないに越したことはない」


「じゃ着いたらみんなに呼びかけるよ。あまり得意な事では無いんだけどね」


「さっきの話は十分できていたよ」


「それならいいんだけど……」


 それから3日目の昼に無事にオーフライに到着した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る