第16話 親切な気むずかし屋

「きょうも先生に怒られたよ」

めずらしくメシヤくんがしょげている。

「あんたは調子良すぎるのよ。それが先生のカンにさわるんじゃないかしら」

マリアは年長者のような気遣いを見せる。


「私にも何人も恩師がいましたが」

二人がこちらを振り返る。


「よく憶えているのは、そういう厳しかった先達ですね」


「それはそうね! わたしも生活指導の先生が一番記憶に残っているわ!」

なぜ指導されたのかは、聞かない方が良さそうだ。


「それなんだよね」

メシヤくんも納得の表情を浮かべている。

「僕たちの世代ってさ、あまり怒られずに大事に育てられたんだよ。それでスクスク育つ子もいれば、中には度が過ぎて馬鹿なことやっちゃう子も出てくる」


「思い当たる節があるな」

イエスの話も聞いてみよう。

「ウチにも厳しい親方がいるんだが、下の者はそら愚痴をこぼすこともあった。だが、その親方が怪我で長期休養になったとき、全然現場が回らなくなったんだよ。やっぱり親方じゃなきゃ駄目だって気付かされたんだな」


「親方さん、あんまりベタベタするのが好きじゃなくてそういう言い方しか出来ないんだろうけど、これがホントの職人魂だね!」

さといメシヤくんのこと、言わなくても分かっている。


「批判めいた言葉で敵か味方か判断してしまいがちですが、それもすべて受け取り方次第ですね。厳しい指導者の言葉は、即効薬のような効き目があります」

「どうすれば良くなるかを考えているんだから、そういう人が一番優しいのかも知れないね」

メシヤくん以上に、そんな人はいないと言いたいところだった。


「厳しいことを言われるとすぐ拒絶しちゃうけど、じっくり聞き入れて応えられるようにしたいわね」

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