第49話 決戦! VSブライ 4

「【聖なる雪】こと、アイロスお姉さんが、やってきたわよ」


「アイロスさん、あなたは瓦礫の中で押しつぶされていたはずじゃ」


「そんなことで死ぬ程度のエルフじゃ、お姉さんはありませんから。さて、この英雄さんをぶっ殺すんだっけ?」


 アイロスはブライに視線を送る。


「ほう、アイロス。君は寝返るというのかね? 我が【神話】の力を共有させていたというのに、私よりヴィリスたちをとったか」


「ええ、あなたは私たちエルフに【魅惑魔法】を与えてくれた。それは感謝している。でも、残念ながらあなたっていう人は自分の利益しか追求していない。自分のことしか追い求めていない。そんな可哀想な人だと、私は瓦礫の中で再認識したわ」


「知恵がついたか、愚かになったか。果たしてどちらだろうか。私に従ってさえいればよかったというのに」


「いいの。私は、あなたという壁を越えてみたい。越えなくちゃ、いけない。これは私の中で決着をつけるためにやるんだから。ヴィリス君たち、またよろしくね」


「はい!!」


「そうか、なら再度戦闘を開始しようか!!」


 腰から針を十数本取り出し、腕に軽くさす。血が滴る針を素早く指の間に挟み込み、体の前に構えた。


「我が血の元に、ひれ伏すがいい」


 魔力を込め、針に速度がつくようにする。放出されさえすれば、あとは勢いに任せるだけだ。一度魔力を込めれば、調整する必要はない。針は一直線に進む。


「くらえ!!」


 針はヴィリスたち全員の体に直撃するかと思われたが、アイロスに近づいていくたびに、それは急に減速し、辿り着くことなく地面に転がってしまった。高い金属音が響く。


「バカな、これですら止められるのか、不確定要素の大きい【魅惑魔法】で。ここに性的な興奮を引き起こすものはなかったはずだが」


「命の危機ほど、私を昂らせるものはないわ。勝つか負けるかわからない戦いにこそ、私は魅力を感じる。本気を出そうと思える」


「とはいえ、アイロスに力であれば、途中で弱まって消えてしまうはず。そう長くはもたないであろう」


 いくつもの魔法を、すさまじい速度で発動する。氷から炎まで、ありとあらゆるものが撃たれたが、それは空間に飲み込まれたように消え去ってしまった。何度撃とうと、結論は変わらなかった。


「なんという力、見くびっていたな」


「自分の力を過信しすぎていたようですね。ひとつひとつの力を最大限に発揮しさえすれば、あなたひとりなんてすぐに倒せるんです」


「アイロスさん、策はあるんですか?」


「【魅惑魔法】の応用編。【魅惑魔法】は、みんなの力を集めて一つの技を繰り出すの。その原理で、絶大な威力を持つ魔法をぶっ放せると思ってる。私が力を集めて、誰かが一つの大技を撃つ。集められる対象は、私たちが強く思い浮かべた人物だけ。みんなの力で、あのブライを打ち砕こう。じゃあ、誰がいく?」


「僕が、僕がやります」


 ヴィリスが真っ先に声を上げた。


「この戦いのけりは、僕が付けたいんです。父を追い求めてここまで頑張って取れたところもあります。この戦いこそ、これまでの僕の全てのようなものなので」


「私は賛成だよ。隣にずっといたからそこそ、ヴィリス君しかいないと思ってる」


「これが妥当な案でしょう。あなたの魔力さえ存分に引き出せたら、の話ですけど。あなたの力は底知れません。それなら、あるかわからない希望でもすがりたいものですよ」


「ヴィリス。お姉さん、いまから手をつなぐわ。集めた魔力を体に流し込むから、それを全て解き放つイメージでね」


「了解です。確実に、倒します」


「何を企んでいるのかな? 少し手の込んだことをやった程度では、私は倒せない。死力を尽くして、ぶつかってこい!!」


「絶対に、倒しますから!!」


 アイロスはふと目を瞑り魔力を集め出した。それと同時に、ヴィリスたちは祈りはじめる。力を集めていく。そして、信じる。


 そして、氷魔法師の国の人々の力も信じたい。ブライやヴィリスを崇めていたとはいえ、これはやらなくてはいけないことだ。そういいきかせ、ただ願う。


 アイロスから、かなりの魔力が流される。これまで体験したことのないような、体の限界を余裕で打ち砕くほどの魔力が体を満たしていく。


 各自が、ただ信じられるものに祈り捧げていた。そこから生まれるエネルギーは、明るくて熱量があった気がした。この魔力は、生きている。


「ヴィリス、新たな氷魔法を、ブライに向かってぶつけるの。これまでの手を完全に上回る、魔法の限界をぶつけるの。お姉さんを痺れさせすぎて、感電死しちゃうくらいに、クラクラする魔法を!!」


 ヴィリスは考えた。底なしの魔力を、どう放つのか。

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