第48話 決戦! VSブライ 3

 


 実に18種類もの要素を融合した魔法。最強と名高い英雄ブライは、それを使えるほどまでに魔法を極めていた。


「さあ、私は撃つぞ? その様子だと、何も抵抗しないのかな」


「冷静に考えて、私たちの勝機はありません。このまま、魔法によって【七選魔法師】はすべて消滅するんです。ブライという男の手の平に、踊らさられたまま」


 リーナは、ここにきてようやく口を開いた。ようやく状況を飲み込み、完全に先を読めたからこそ、彼女は口を開けた。彼女にとって、ブライの存在はイレギュラーすぎた。強さの格が違すぎることを、ようやく受け止められた。


「ヴィリス、私こんなところで死にたくないよ。こんなあっけなく、戦いは終わるの?」


「いいえ。僕たちは死にません。戦いにも勝てるはずです」


「どうしてそんなことを堂々といえるの? ヴィリス、あんたとうとう狂ったの?」


 命の危機に瀕して、すでに余裕はなかった。幻想など、今更信じられるはずもなかった。


「フライスさん、いってくれたじゃないですか。『私はヴィリスを信じてる』って。だから、こんなときこそ、僕を信じて欲しいんです」


「策はあるの? 」


「ありませんよ。なくても、僕は最後まで抗い続けます」


「強くなったね、ヴィリス」


「もうよいかな? では、我が真の魔法の力、ここで受け止めるが良いッッ!!」


 上にあげていた腕が降ろされ、標準はこちら側へと向いた。うごめく球体は、さまざまな色が、互いを打ち消し合うことなく共存していた。


「これで終わりだッッ!!」


 球体が、射出される。


「魔法で対抗するんだ!!」


 氷魔法・炎魔法・光魔法をそれぞれで展開する。こんなのはただの悪足掻きに過ぎないなんて、わかっていた。ただ、無抵抗で殺されるのは各自のプライドが許さなかった。


「残念だが、私の魔法の前に、そんなちゃっちいもので対抗できると思っているのか?」


 魔法はどんどん迫ってくる。周りの木々を消失させるほどの高威力、人が跡形もなく消え去ってもおかしくないような力。


 それに、たった三つの魔法で対抗できるだろうか。


「魔力、全開!!」


 ヴィリスの体内に溜め込まれた魔力を、外へ外へと送っていく。出せば出すほど、体は苦しくなるが、今はそんな悠長なことをいっている場合ではなかった。秘められた魔力は、常人を軽く凌駕する。


 炎龍をも仕留めた力。

 聖樹と呼ばれる大樹すら、直した力。

【氷炎】という剣のモンスターをも破った力。


 魔力を、絞り切る。限界は、まだ迎えていないはず。そうだと信じ、ヴィリスは命を削った。


「【氷柱アイシクル】!!」


 無数の氷柱が、ブライの魔法に吸い込まれる。



「素晴らしい、やはりその魔力量、素晴らしい」


 どうにか、ブライの魔法と拮抗した状態を作れている。


「みんな、さらに魔力を」


「こちらもさらに力を使う必要がありそうだな!!」


 さらなる力を、ブライはこめる。


「私はまだまだ余裕だぞ。息子と娘たちの本気は、まだそんなものではないだろうに」


 ヴィリスが魔力を出すペースは、これまでにもなく早い。いつバタリと倒れてもおかしくないだろう。さらに体を追い込むことは、ブライの攻撃を止め切れた後に対処できなくなるのでやめておいた方がいいと判断した。


「くっ」


「貧弱だな。どうやらもうキツいようだな。私もかなり遊びすぎたよ…… さて、お遊びは、もうここまでだ。どんなに追い込んでも、私を苦しませることすらできぬ惨めな実力だな。失望したよ。今度こそ、消えてもらおう」



 魔法の力が強まる。地表がごっそり削れていき、草がすさまじい風圧で逆立っている。ヴィリスたちは後ろに押し出されてしまう。そのまま流れに身をまかせれば、生きて帰れることはできないだろう。


「絶対死なないって信じてるけど、ここから私たちに残された道は、ほとんどないわ。ヴィリス、何かないの、何か」


 策がなくても良いと思っていたが、一刻の猶予も残されていないこのときに、どうすべきかわからないのは恐怖だった。


「現状維持です。現状維持をするんです」


「そんなのわかってるよ!! みんなわかってる。まだ奥の手ってないわけ?」


 ヴィリスは黙ってしまった。フライスたちにかけられる言葉なんて、ありそうにもなかった。何をいっても、今のフライスには諦めるという選択肢を直視できずにいるのだから。


「ない。それでも今、できることはある。祈るんだ。祈る、とにかく祈る。君が僕を信じればいい。僕は、自分の運命と、仲間を信じる」


「希望に満ち溢れているみたいだね」


「こうやってから元気でも出さないと、辛いだろう?」


 神頼みしか、頼りはなかった。魔法がこちらを押し負かすたびに、ヴィリスは「頼む、誰か。誰か、この命を長く伸ばしてくれ」とそれだけを祈り続けていた。


「何を今更後悔しようともう遅い。我が究極の魔法の前に、君た……」


 ここで、突然ブライの声は遮られた。それは、ときが止まったかのように。


 時が、止まる? ヴィリスには、ひとつ心当たりがあった。それは。


 瓦礫を跳ね除け、薄い衣装についた埃や塵、砂を払って、止まった時を進んでいく女。



「ねえ、そんな激しいプレイなんて、ブライさんっていっつもそうなんだから。とはいえ、私たちのヴィリス君も容赦なくヤろうだなんて、腐った男ね。ヴィリスを傷つけるなんて、私は許せない。彼が生きたいと思うのなら、私が動く」



 時が動き出すと、魔法の球体はなぜかなくなっていた。


「?」


 ヴィリスは、何が起こったのかを理解できなかった。魔法が消えたこと。そして。


「このアイロスが、やってきたよ」


瓦礫に押し潰されていたはずのアイロスが、ここに立っていた。

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