第45話 ブライの真実

「ああ、懐かしいヴィリス。私の息子よ」




「久しいですね」




ようやく会えたその人物は、さほど老けてはいなかった。ヴィリスと接していたときから何一つ変わらない様子に、ヴィリスは驚いていた。




すべてを見通すようなはっきりとした眼光と立ち振舞、がっつりとした体型に濃い顔立ち。




まさに、英雄を語るにふさわしい風格の男である。




「ここまでヴィリスがたどり着けるだろうと、私はずっと信じていた。君が私の使命を全うできるはずだと」




「どういうことなんですか、父さん」




「すべては私の手の中で踊らされていたに過ぎなかった、というわけなのだよ。君が私に接近し、こうして再度出会うことも、私の計画通りなのさ」




「あなたの魔法は、一味違うようですね。どんな能力ですか」




「勝負の相手には、自分の手の内を気安く教えるものではないんだよ。とはいえ、これだけは教えてやろう。私こそ、【七選抜魔法師】、【神話】だということ」




「やはりそうでしたか」




姿をいっさい見せず、完全に自分たちの動きを止めることができた【神話】に、ヴィリスはただならぬものを感じ取っていた。




「なるほど、さすが私の息子、といったところかな。動揺しない、か」




「動揺はしていますよ、あなたが僕を勝負の相手というものですから」

「なあヴィリス、どうしてわざわざ私は力を与えたと思う?」




「戯れ程度、なんじゃありませんか。あなたは魔法を極めた男でしょう。それ以上力を求める必要なんてないでしょうから」




「そうさ、私は強くなりすぎた。強さを求めた果てには、勝てない敵のいない退屈な世界が広がっていた。手っ取り早く、互角に戦える相手がほしいと、思った」




 どこかで、ヴィリスは似たような言葉を耳にしたことがあった。そう、【漆黒】の剣士、ミランダ。彼もまた、過剰な強さの先には虚しさがあるだけだと悟っていた。




「僕らに力を授けたのは、『自分を勝る存在に出会うため』、そんなところですか」




「ほとんど合ってている。勘がいいものだな。だがヴィリス。君は私の力を授けられただけの存在であることを忘れたか? まだ完全な答えではない。それはさておき、これを見てみるといい、ヴィリス」




 ブライは左手を前に伸ばす。手を開き、体の魔力をそこへ集中させていく。




「ハッ!!」




 すると、同時に9つもの種類の魔法が展開された。




「同時に、そこまで」




「いいや、私でもそれは無理だ。今は炎・風・精霊・光・土・闇・精神干渉・氷の魔法を、同時に3つ展開しているにすぎない。魔法の出し入れを高速化させることで、あたかもすべてを同時に展開しているようなことになるのだよ。徐々に精度は上がり、ほとんど9つ同時に展開しているようなものだけどね。それに対して、ヴィリス。君はたったひとりだ。勝てると思うか?」




「……」




「ジェーンがヴィリスを追放しようだなんて余計なことを考えなければ、すべてはうまくいったはずだ。最終的に【七選魔法師】が一同に会し、おのおのが持ち合わせる魔法の上位互換を軽々と使う私に苦戦を強いられる。そんな脚本に沿って話は進むはずだったんだが。ヴィリス、既に半分は殺めてしまっただろう?」




「僕が、殺しました。間違いありません」




「実につまらないことをしてくれたよね。思い通りにいかないとさ、この年でも腹は立つものだうよ。だが、君は己の隠されていた力を覚醒させた。一生まともに魔法も使えずくすぶっていたことだろうに」




「そうだ、なぜ僕だけ弱かったんですか。どの魔法師よりも、ずっとずっと」




「君には他の【七選魔法師】と同じように遺伝させられなかったからね」




「何?」




「【七選魔法師】は、すべて私の子さ。すべて、すべて。ヴィリス、実をいうと君は自分の兄弟を殺していたことになるんだよ」




「どうして、どうして今更」




 感じてこなかったはずの罪の意識に、突然さいなまれる。殺してもいい相手だと思っていた。なのに、なのに。知らず知らず、兄弟を殺していただなんて。




「もう遅かったか? 」




「なぜ、なぜあなたは僕を産んだんですか」




「利用するためだ」




「なぜ力なんか授けて……」




「利用するためだ」




「ここまで来させたのも」




「利用するためだ、それがお前の全てだ。お前にとっては辛いかもしれないが、このブライに感謝するといい。最強の男に殺させて死ぬという、名誉ある死が君には待ち受けているからね」




 ブライは今、両手にで計18個の魔法を展開している。




「何なんですか…… ここまできて、それだけですか……」




「そうだ。はじめから同じことしかいっていないぞ」




「そんなの……あんまりじゃないですか!!」

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