第21話 決戦!! 【漆黒】の"剣士"ミランダ 中編 ーーー勝利への活路

「僕らも、全力でいきますよ!」


 ミランダの言葉を受け、ヴィリスも言葉に熱がこもる。

 戦闘狂いの、【漆黒】の剣士、ミランダ。力を失おうとも、剣士としての実力は一品級。


 戦いを愉しむための力が、次第に方向性がずれ、退屈になっていた日々。そこに、ヴィリスたちが火をつけた。


 自分より強いかもしれない相手を前に、ミランダは燃え上がっていた。


 地面に刺さっていた剣は、もう抜かれている。また体勢を立て直し、新たな攻撃へと向かわんとする。


「いざ!!」


 手首を後ろにかえし、しなりを使った攻撃。


「【氷柱】!!」


「同じ攻撃は効かないといったはずだ、愚かな」


 手のうちの知れた技の効き目が薄いことなど、ヴィリスは重々承知だ。しかし魔法を斬れてしまい、そうでなくても躱せるミランダだ。


 大きな魔法ですら、瞬時に斬り裂くであろう、とヴィリスは読んでいた。

 発動までの準備時間がだいぶ必要な、大掛かりな魔法は剣士との戦闘にとって不利である。


 隙を見せてしまえば、命取り。

 少しでも足止めできる、連続技【氷柱】が無難な選択肢だと踏んだ。


 それでどうにか時間を稼ぎ、倒し方を模索する考えだった。


「つまらない、それなら軌道は見えている!!」


 さきほどよりも早いペースで、ミランダはヴィリスに近寄る。


「【光の矢】!!」


 フライスが援護射撃をするものの、常人を凌駕する身のこなしが、それをもろともしない。


「だから甘いといったはずだ!!」


 氷魔法が砕かれ、今度こそ剣が迫る。

 ヴィリスはなんとか後ろに体をひき、剣の軌道から外れる。


「やるじゃないか、魔法師とは思えぬ身のこなし」


「僕は魔法なんて最近まで使えませんでしたから」


 連撃を躱しつつ、ヴィリスはいう。


「どういうことだ?」


「魔法に目覚めていなかった頃は、魔法のひとつすら使えていなかったものですから、剣士として戦闘に参加していたこともあったんです、よ!」


 細かく後ろにひいていたところから、一気に地面を踏みつけ、後方に一気に下がる。

 靴が地面と擦れ合う音が響く。


「なるほど、どうりで動きが悪くないわけ、かっ!!」


 語る間も与えぬよう、フライスは【光の矢】を撃ち込んでいた。


「まだ勝負の途中ですからね!」


「それはそうだ。ただ、語りることすら許されない戦闘など、退屈他ならない」


 フライスは、一度魔法の発動を止める。


「では氷魔法師。提案がある。貴様とはどうも剣で斬り合いたいと思う。持っているか?」


「フライスの剣、借りていい?」


「どうぞ。不利にならない?」


 ミランダの口車に乗せられているのではないかと、心配したらしかった。


「いや、ミランダとは剣を交えてみたい」


 フライスが剣を取りに後方へと走る。置きっぱなしにしていた剣を拾い、ヴィリスに渡す。


「これで条件は同じになったわけだ! どちらも初心者用の剣。不平等はない、だが貴様らは三人で勝負をしているわけだ!! 魔法の使用も自由だ!! 一見不利な状況でも、この【漆黒】の剣士様が斬るだけ!!」


「よほど戦いに関して変態で、頭のはたらかない阿呆なのですね。条件など付けず、真っ向から捻り潰せばいいものを」


 ふだん観客がいる場所で、【炎舞】のリーナは痺れを切らし、つい口走る。


「とにかく、頑張って〜 お姉さん、あとでイイことしてあげるから」


 それに便乗して、アイロスもいう。


「いや、アイロスは戦いに参加しているだろう?」


「だって、やることないでしょう?」


 ヴィリスが首を横に振る。


「アイロスさんにも、しっかり役割がありますから」


「あの変態に何ができるか、と思うのだがな」


 また、ミランダはヴィリスの方へと寄る。

 もう一度、氷魔法【氷柱】で抵抗するか。その思考と、それでは勝機がない、という思考がヴィリスの中で同時に発生していた。


 確実に、今の状況を打破するには新たな術式が必須。しかし、これまでに使ってきた術式の転用では、勝てそうにない。


 瞬時に撃つことが可能であり、汎用性があり、連続技の要領で使える魔法。


『思考を止めるな。常に考え続け、深い境地に辿りついたものだけが勝利を手にする。もしヴィリスが天才でなければな』


 英雄ブライが、ヴィリスの幼い頃に語った言葉。

 それが、脳裏によぎる。


「思考、思考、思考、より深く……」


「何をブツブツいっていやがる? 容赦なく斬るぞ」


 考えようと考えまいと、剣は迫ってくる。

 どうにか思考を止めることなく、剣を合わせる。


 剣先が交わる、金属音。


「その程度の力!!」


 圧倒されそうになる、ヴィリス。負荷がかかったタイミングで引き、すぐにフライスの魔法が入る。


 それに動じることなく、ミランダは華麗に避ける。


「女、もしやそれ以外の光魔法が離れないのか? それでは氷魔法師が倒れた後、すぐに斬り倒されるぞ」


「忠告どうも。私だって他の魔法くらい……」


「フライス、今は他の魔法を放たないでくれ」


「どうして、ヴィリス」


「いいから、今は」


 ヴィリスの中で、あるひとつの可能性が浮上してくる。なぜ、これまで気づかなかったのだろうか。


 アイロスの、【魅惑魔法】。

 高まった性欲が、魔法の力を打ち消すという能力。


 それを、敵に対してしか使えないものだと、ヴィリスは勝手に認識していた。


 「アイロス、頼みだ。『いけ!』 といったら欲求をブチまけろ!!」


 ヴィリスには珍しい、激しい口調ではやしたてる。脳内の思考が加速し、口調まで気にする余裕さえ与えない。深まっていく思考に、ヴィリスは高揚していた。


「いいの? 私のすべてを捧げても? どんなに激しいことも? 気持ち良くなっても?」


「なんでもいい。とにかく、今は高めて、呼んだらブチまけてほしい」


「そんな、ブチまけて、なんて……」


「頼む。そして、フライス。今は【光の矢】を撃つことだけを考えてください!」


 口調はどうにか戻っていく。


「仕方ないな」


 再度、ミランダの剣が迫る。


 耳障りな金属音。


 その間に、ヴィリスは、初の試みをおこなう。

 無詠唱魔法。

 そして、魔法の同時発動。


 これこそ、勝つための条件。


「アイロス!! 僕が呼んだら最高に破廉恥になってください!!」


「もちろん! お姉さんの生きがい、そしてカラダが求める本能なんだから!!」


 いける。

 ひとり、ヴィリスは確信していた。


「ミランダ、あなたはもう負けます、アイロスを軽く見たことによって!!」


「どういうことだ、氷魔法師!!」

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