遅咲きの最強氷魔法師〜『無能』だとパーティーを追放された英雄の息子の俺、発動時間が一日の最弱氷魔法がついに覚醒!! ハーレムを築いて無双するほうが幸せなので、今更帰ってこいだなんて『もう遅い』〜

まちかぜ レオン

第1話 英雄の息子、失望され追放

夕陽が地上を、背を、赤く染めてきた。


 パーティー支部の建物にも、光が降り注ぐ。




 寒さも深まってきていて、風が強く吹き付ける。




「我が英雄の命日ですね、【深淵】のジェーン」




「時の流れは早いもんだ、【旋風】、いやルートニ。ブライ様は素晴らしい方だった…… それなのに、息子の【氷華】のヴィリス。あいつはどうしてあれほどに『無能』なんだ。一年経っても何も変わっていない」




「確かに。氷魔法の使い手でありながら、力を全く使いこなせてないですからね…… 決別には時期が良さそうですね。追放ですか」




「今日、決行する。英雄の息子だからって忖度していた俺たちが間違いだったな。追放だ」




 ***




 ヴィリスの父、ブライは素晴らしい英雄だった。




 この国では"神"として崇められるほどの魔法の使い手であり、最強とも名高い人物であった。




 その圧倒的な力は、国に平穏をもたらしていたのだが。去年、ブライは何者かによって暗殺された。




 幾多もの魔法を使いこなし、肉弾戦から魔法対策まで至るところまで万全だったブライが、だ。




 幸運にも、暗殺の前日にブライは息子ヴィリスをはじめとする七人の魔術師に力の一部を授けていた。


 炎・風・土・氷・闇・光、そして謎の能力。




 それぞれ【炎舞】【旋風】【大地】【氷華】【深淵】【閃光】【神話】という異名を授かったのである。




 ヴィリスは、氷魔法を習得し、異名は【氷華】。




 七種の力を手に入れた人物たちは 【英雄パーティー】 として特別扱いされた。




 ほとんどがすぐに自分の魔法に対する理解を深め、めきめきと実力を伸ばしてきたものの。








 ヴィリスだけは違った。










 氷魔法の詠唱を、他の属性に倣ってやってもいっさい発動の兆しは見られなかったのである。


 半年以上かけて試行錯誤した結果がほぼ成長なしであったから、ヴィリスは自分の能力に絶望した。




 氷魔法は、発動までの準備にほぼ一日かかること。


 そうしてようやく放てるのが、最弱モンスターを一掃できる程度のものである。




 ヴィリスはそんな能力のせいでほとんどの戦いでは指を加えてみるほかなかった。






 ヴィリスの父が、かの英雄であることから、メンバーの誰もがパーティーから追い出すなどという行動には移せずにいた。


 多くのメンバーは薄々感づきつつあった。




 そして、英雄ブライが亡くなってから一年の今日。


 ここほど、踏ん切りをつけるにふさわしい日はなかった。




 決別するなら、今しかないと。


 ***




【英雄パーティー】のメンバーは、ジェーンの指示のもとに外に呼び出されていた。




 パーティー支部は広大な森を切り拓いてできた土地が使われている。




 外は森にいるかのような澄んだ空気である。




「なあ、ヴィリス。きいてくれないか。大事な話があるんだ」




「あ、あの…… 【深淵】のジェーン、どうしたんですか。大事な話って」




「英雄パーティーから追放する」




「え」




 ヴィリスは言葉を失い、他のメンバーはこの言葉に動揺を隠せずにいた。




「それってひどいじゃない!!」




 感傷的になって、【閃光】のフライスはいった。




「いきなり過ぎると思いますが、どういった心境であればそのようなお言葉が出せるのでしょうか」




【炎舞】のリーナは、それとは対照的に冷静に言葉を紡ぐ。




「正常な反応だ。でも、ここで忖度は終わりにしないか? これまでの一年間を思い出してみればわかるだろう。【旋風】、試しにいってみろ」




「魔族討伐戦、氷魔法の試用のために戦いをすっぽかす。戦争が起こりそうになった日、氷魔法の練習で三徹したために爆睡。遠くにいた窃盗犯を彼が見つけたものの、魔法が使えなかったために取り逃す…… 」




「ここまできいて、少しは思い出したんじゃないか?? どれほどヴィリスが愚行だったのか。英雄の息子とは思えぬほど、不名誉な功績ばかり残しているじゃないかって。これでもお前らは "追放" しないというのか??」




「ぼ、ぼくだってみなさんに迷惑をかけないために、動いてきました。そのための夜更かしです。ぼくの魔法は発動までに一日かかりますから」




「きいたか、お前ら。どうしてこんなに弱い奴がパーティーに堂々と居座れる。これまでおかしいってことを無視してきただけじゃないのか」




 少しずつ、ヴィリス追放の意見が優勢になっていく。








「みなさんとぼくは、初めに与えられた能力のレベルが違うんです。みなさんに追いつくために精一杯やってきたんです」




「その結果がこれか。笑えるな!!!! いや、親の七光りとはこのことなんじゃないのか? さあみんな、もうあいつが英雄の息子だというフィルターは外していいんじゃないのか」




 うまく、うまく、パーティーのメンバーを煽っていく。


 多くのメンバーは考えが揺らいできており、彼の言葉に強くいい返せない。




「それではジェーン。私が考えるに、この局面を正当に乗り切るのであれば、多数決で最終決定に持っていくのが妥当だと思われますが」




「素晴らしいな、リーナ。それでは、みなにきこうか。英雄の息子でありながら『無能』を晒し、【英雄パーティー】の名に泥を塗った!!!! 恥多きヴィリスの追放に賛成のメンバー」




 もともといない【神話】と、ヴィリスを除いた五人。


 全員が、手を挙げていた。




「はっ!! ざまぁ見やがれ三下の無能君!! 自分の親の栄光を汚すようなやつは、全会一致でさようならだ!! これで長年の鬱憤が晴らされたな!! さっさとここから立ち去れ!!」




 そういって、ジェーンはヴィリスの背中を何度も、強く蹴りつけた。

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