「賞金稼ぎ」
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「賞金稼ぎ」
色付いた木々の葉が山々を彩る秋のただ中、澄んだ空気と陽光が明るく照らす、なだらかな丘陵地帯のいなか道を、小さな荷車がゴトゴトと揺れながら、フォークンの宿場町へと向かっていた。
穏やかな目をした荷ロバの手綱を握り、小さな御者席に収まっている初老の男は、色あせくたびれた帽子かぶり短く刈った白髭の、いかにもな農夫のとっつあんと言った風で、古びた馬車(失礼、驢馬車)には、麦藁の束を間に挟んだ小さめの樽が三つほど、幾重にもしっかりとロープをかけられ収まっている。
誰もが彼と馬車の荷を見れば、彼の素性と今日の予定を言い当てられただろう。
もっとも、荷台の後ろで樽に居心地よさげに寄りかかり、傍らに斧槍を立て掛け、手にリンゴを持った娘を見た途端、かれらは再考を迫られる事になる。
山中の盆地の小さな果樹農園の農夫は、手綱を握りながら、ちらりと荷台を振り返り、一体どうしてこんな事になってしまったのかをゆられながら思いだそうとしてみた。
いつもの道、いつもの風景、いつもの揺れと従順な手綱・・、そして、いつもと変わらぬ街道と交わる四つ辻・・・。
そう、その四つ辻の道しるべの柱に、彼女は寄りかかっていたのだ。まるで、いつもそうしていたようにして。
「こんにちは!、ずいぶん人が通らないから心配しちゃった!」
彼女は言ったものだ、そして、
「ボクはティーリス!、フォークンの町まで行くなら、乗せてくれませんか?」
にっこりと屈託のない笑顔で彼女は言った、まるで断られることなど考えていないような無邪気な表情で・・。
どうやらつられてつい頷いてしまったようで、気が付くと娘は荷台に乗り込むところだった。そうして、ここまで来てしまったのである。
ことわっておくが、この農夫はけっしてけちでも不親切でもなかった。しかし地元民が流れ者に対する、一種の偏見のような物を彼も持っており、こうして人を乗せることなど滅多になかった。しかも武器を持った者はなおさらだった。
ほこりっぽく曲がりくねりながらゆるく下る道の先を、ぼうと見ながら、農夫は一体どうして自分が頷いたかを考えようとした。
「いいお天気ですね!、春みたい。このあたりの秋は、みんなこんなお天気なんですか?」
出し抜けに荷台の娘が話しかけたので農夫は考えを中断し、あわてて相づちをうった。そして考えを見透かされているような気がして、やや動揺しつつ前を見据え、道に目を凝らした。
一方ティーリスはそんなことはつゆ知らず、揺れる荷台の上で、起き上がって両手を後ろにつき、道の両脇の木々が伸ばした枝の間から見える、晴れ渡った秋の青空を見上げている。
輝く日の光が紅と黄の木漏れ日となって降り注ぎ、ゆるやかに風が流れ、鼻歌でも歌いたくなるような、そんな日だ。
農夫はしばらくしきりと考えていたが、考えている内に、唐突にこの娘に対する関心に気が付き、やがて勇気を出し、何気ない調子で後ろに話しかけた。
「あ~娘さん、そのぉ、フォークンまで何をしにゆくンかね・・?」
実際フォークンは街道の宿場町で、荷駄の人足や商人や流れ者の集まる場所で、農夫は用がない限り近寄ろうとはしなかった。ましてや、(武器を持っているとはいえ)この娘のような若い娘が行くところではない。
その認識に対し、娘の答えはあっけらかんとして、実に驚くべき物だった。
「あー、ボクね、賞金稼ぎをやってるんだ!」
まるで、雑用でもやっているかのような、何気ない返事だった。
農夫は聞くなり慄然として身をすくめたが、当の彼女は農夫のようすがつかめず、続けた。
「最近、他のところじゃ手頃な人がいなくなって・・、こっちには、いろいろいるようだから来てみたんです!、えーっと、おじさん、アイラルの盗賊って知ってますか?」
ティーリスのこの言葉に、農夫はさすがに身をすくめてはいられなくなり、慌てて馬車を止めると、振り返ってまじまじと娘を見つめた。
「あ、あの?、ボク何か悪いこと言った・・の?」
突然の農夫の反応に、荷台の縁を掴みながら彼女は驚きながら尋ねた。
農夫が驚くのも無理はなかった。『アイラルの盗賊』とはこの近くの、アイラルの森を稼ぎ場としている盗賊団で有名である。
当人達は「義賊」を名のっているようだったが、農夫達からすれば彼等はまともでない稼業をしている連中で、とどのつまり、「ならずもの」であった。
そんな連中と関わろうなんてどうかしている!。農夫は年長者として良き忠告を娘に与えようと、言葉を捜し息を飲み込んで口を開いたが、出てきたのは何とも弱々しい声だった。
「あ~、その、娘さん・・、そんな連中とかかわらん方が・・、ええと思うがのぅ・・」
「ありがとう、心配なんですね?、大丈夫!、ボク決して無理はしませんし、この子は・・」
と彼女は傍らの斧槍の柄に手を触れ、
「とてもしっかりしていて、大勢を相手にするのにとてもよいのです!」
農夫はもはや、絶句するしかなかった・・・。
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