第5話 女子教師と女子高生と苛められっこで半グレにカチコミをかけました
「カチコミだ! 潰されたくなきゃ玖珠薇を返せや!」
社員証を奪い、事務所に入った美夜受さんは先頭に立つと勇ましく声をあげた。
「えっ……美夜受に……美鈴ちゃんまでどうして?」
事務所の中央にある机には泣きはらした顔の玖珠薇さんが座っていて、私達の顔を見て驚愕の表情を浮かべた。
「玖珠薇さん! 助けに来たよっ! 直ぐ帰ろう!」
玖珠薇さんの元へ行こうとすると如何にも暴力を生業としている風なガラの悪い男が立ちはだかった。
「ああっ! 何だテメーらっ!」
私に怒鳴りつけてきた男に対し、美夜受さんはいきなり左ハイキックを放ち、男の頭を打つと、男は前のめりの姿勢で倒れた。
「テメーら……犯されるだけじゃ済まねーぞ!」
「やれるもんならやってみやがれ! 不能野郎!」
二十人位居る半グレ達が襲い掛かって来た。
もう腹を括るしかない。
「せいっ!」
私は日本拳法の中段の構えを取り、目の前の男に向かって前面前突きから後ろ拳面突きのワンツーで素早く顎を突く。
「がはっ!」
間髪入れず、中段の構えから後ろ足刀の反対側を前足に一回つけると、体重が蹴り足に乗る様にして胸を反らさない様にして前足で男の顎を蹴り上げた。
「ぐふっ!」
男は後ろに吹き飛ばされると床に後頭部をぶつけ、動かなくなった。
皆が大丈夫なのか見渡してみると―
「やあっ!」
十戸武さんは背負い投げで男を勢いよく床に叩きつけ、素早く倒れた男に面突きを打ち、男を失神させた。
その十戸武さんに他の男が掴みかかろうとした時、美夜受さんが前蹴りでその男を突き放した。
「このアマァっ! ぐふっ!」
前蹴りで突き放された男が拳を振り上げて美夜受さんに襲い掛かると、美夜受さんはカウンターの膝蹴りで男の腹を突き刺し、男は地面に蹲り胃液を吐き出した。
「セイッ!」
小碓君は素早く腕を引くキレのある右ストレートを武器に男達を次々と地面に沈めて行った。
人は見かけによらないというが、十戸武さんや小碓君以上に見かけによらないのは周佐さんだ。
「アハハッ! アンタら弱すぎいっ!」
まるで漫画みたいに殴られた男達が吹き飛ばされていた。
1年ながら空手部の指導を任せているから強いのは知っていたけれど桁違いだ。
「女子供相手に何苦戦しているんだ! もう良い。山川! お前が行け!」
半グレどもが道を空けると、肩を怒らせ、腹を突き出しながら海坊主の様な大男が前に立った。
「俺は元力士だぜ? テメーら格闘技を使うみたいだが、俺には通用しないぜ!」
身長は190センチぐらいあるし、体重は100キロを軽く超えるだろう。
狭い事務所の天井に届かんばかりの大男を見上げ、流石の美夜受さんも息を飲んでいた。
「確かにコイツはヤバそうだ……でも、コレはタイマンじゃねー! 武! 行くぞ!」
「ああっ!」
息ピッタリに美夜受さんと小碓君が大男の両側に立つと同時に左右の足にローキックを入れた。
「喰らいやがれ!」
美夜受さんは左手を振り、身体を斜め前に倒しながら放たれた矢の様なハイキックを山川と呼ばれた大男の側頭部に決めた。
「うおおおっ!」
小碓君は間髪入れず、左ボディブローを放った。
左右の足へのローキックからハイキック、更にボディブロー。
これだけの連打をまともに喰らえば常人であれば間違いなく倒れる一撃だが、山川は常人じゃなかった。
二人の攻撃の終わりのタイミング、巨体からは信じられない速さの突っぱりで、小碓君と美夜受さんが紙の様に宙を舞い、出入り口付近の壁まで飛ばされた。
「くっ!」
二人は苦し気に呻いていた。
「小碓君! 美夜受さん!」
私が悲鳴をあげると山川はゲラゲラと笑い出した。
「力士にそんな攻撃通用すると思ったのかよ?」
「ならば……これなら如何だっ!」
果敢にも十戸武さんは足刀で山川の関節を蹴りつけた。
「幾ら力士でも足関節を蹴られれば……きゃあっ!」
信じられない事に、山川は蹴られた方の足で前蹴りを放ち、十戸武さんを吹き飛ばした。
「十戸武さん!」
「ハハハッ! 言い忘れたけどよぉ、俺は暴力沙汰で力士首になった後プロレスもやっていたんだぜ! 力士だから蹴りが出来ねーと思うなよ?」
元力士が蹴りまで使えば弱点は無い様に思えるけど、それは誤りだ。
「今度は私が相手よ!」
手を蹴る方向と反対側の耳の横に持っていきつつ、膝を小さく上げると、手を一気に振りながら、山川の膝関節に目掛けて足刀で蹴りつけた。
「懲りねー奴らだな!」
予想通り、山川が前蹴りで返してきたので半歩後退しながら掌拳前腕部内手首の箇所で下から掬い取る様に受け、一方の手は巴形 に上から重ねる所謂巴受けで蹴りを止め、間髪入れず股間部を蹴り上げると山川は悶絶した。
「あがぁっ!」
日本拳法の必殺・返し蹴りだ。
寸止めではあるが、日本拳法は試合でも金的への攻撃が許可されている数少ない競技である。
相撲の技だけでかかって来られたら勝ち目は無かったが、蹴りを使ってきたのは幸運だった。
止めに蹲る山川を裸締めで落とそうとしたが、山川は私を背負いながらも立ち上がった。
これで壁にでも叩きつけられれば万事休すだが。
「せいっ!」
裂帛の気合と共に周佐さんが山川の足関節を蹴ると、山川はバランスを崩して倒れる、その弾みで腕が強く締まり、山川は気を失った。
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