第4話 元いじめられっ子は女の敵を成敗しました

「美鈴ちゃんがバンに乗っているお陰で全員乗れて良かったなぁ」


 私の後部の座席で1年生の美夜受麗衣みやずれいいさんが言った。


 金髪褐色で見た目も派手な彼女は教師の間では不良と言う評判だけれど、ああ見えて勉強の成績は何時もトップ20に入るし、校内の喧嘩の理由が何時も苛めを止めていたという事が多く、苛められていた子から凄く感謝されている話を聞くと結構優しい子なんじゃないかと思う。


「一寸、麗衣。靴載せて座席汚しちゃダメだろ?」


 美夜受さんの隣では彼女の同級生の小碓武おうすたける君が指摘していた。


 少し前までは苛められているという噂があって、如何にかしたいと思っていたし、苛め現場を取り押さえようと思っていたけれど、そんな事をするまでもなく最近は苛められているという話を一切聞かなくなった。


 美夜受さんや周佐さんと仲が良いらしく、それが原因で苛められなくなったのかな?


「るせーなぁ……。これからカチコミかけるって時に細かい事でグダグダ言うなよ」


「まぁまぁ麗衣さん。武君の言う通りお行儀が悪いよ」


 緑成す長い黒髪を後ろに束ね、凛々しく鉢巻を頭に巻いた十戸武恵とのたけめぐみさんは苦笑していた。


 彼女達は周佐さんが呼んでくれた助っ人との事だけれど……美夜受さんは女子としては強そうだけれど十戸武さんと小碓君は大丈夫かな?


 少し不安になりながら半グレの男から奪った名刺に書かれた住所の近くの駐輪場に車を止めた。



 ◇



「さてと……住所のビルはここで間違えなさそうだけれど、これからどうするよ?」


 美夜受さんは周佐さんに訊ねた。


「カチコミとかは十戸武の方がよくやっていただろうから詳しいでしょ? どうすれば良い?」


 一寸待って? 十戸武さんカチコミなんかした事あるの?


「そうだね。まず事務所に入室する手段を確保しないとね」


「ピッキングでもするのか? あたしは珍走シメた時、警察から逃げる時に奪ったバイクのキーシリンダーぶっ壊して走らせたぐらいしかねーよ?」


 この子、教師の前で何て話題をするんだろう……。


「いいえ、今時のオフィスは電子ロックが普通だからね。大体社員証が必要になるよ」


「じゃあどうすれば良い?」


「外にある喫煙所でそれらしい社員が現れるのを待とう」


 半グレが喫煙所を利用すると言うのもおかしな話だが、フロント企業の類が事務所を構えるのであれば表向きに体裁を整える必要があるのかもしれない。


 私達はビルの下にある喫煙所に向かった。



 ◇



「JKなんざ馬鹿だからよぉ……すぐに釣れやがったぜ」


 喫煙所が作られた壁の外に立つと、そこでは喫煙中の男達が周りも憚らず、大声で話をしていた。


「アイツらの感覚だと25歳以上はオッサンなんだよ。で、こっちは敢えて26歳って事にして、『26のオッサンだけど良いかな?』ってわざとへりくだるのがコツだぜ。すると『全然オッサンじゃないよ!』とか言い出してこっちの事信じるんだぜ。俺34歳なのによぉ! 馬鹿だよなアイツら!」


「それでJK二人引っかけたか。てか、女毎に携帯四つもあるとどの偽名使っていたか忘れねーか?」


「あぁ~それ何だけどよぉ、電話じゃまだ間違えた事ねーけど、家に連れ込んだ時に表札見られて名前バレたっけな」


「ハハハッ! ソイツは災難だったな」


「まっ、今度連れてきたJKだけどよぉ、まだ食べてねーけど睡眠薬で眠らせた後犯して動画撮ったなんて嘘ついたらあっさり信じてやんの」


「じゃあ処女なのか?」


「アレは処女だろ。世の中舐めた感じで如何にも経験してますよっ、て背伸びしてる奴程処女だからな」


 この人達で決まりだな。


 しかも、玖珠薇さんを陥れた本人っぽい。


「どうするの?」


 周佐さんに訊ねると小碓君がスッと喫煙所の中に入って行った。


「その話、もう少し詳しく聞かせてくれませんか?」


「一寸! 小碓君!」


 私が小碓君を止め様とするのを周佐さんが止めた。


「大丈夫ですよ。多分私達がやり過ぎない様にアイツから行ったと思います」


「そんな事言ったって! 小碓君あんなに小さくて喧嘩なんか出来ないでしょ!」


 身長160センチ程度で、私よりもずっと小さく、苛められていたという噂の小碓君に何が出来るのか?


 そう思っていたのも束の間、「ぎゃあっ!」と言う男達の短い悲鳴が聞こえた。


「もう終わったみたいだな」


 美夜受さんが手招きしたので、喫煙所の中を覗くと、小碓君の足元に二人の男性が転がっていた。


「おっ……小碓君凄く強いんだね。何かやっているの?」


「キックボクシングやってます。でも、俺、この中で一番弱いですよ?」


 成人男性二人をあっという間にKOした美少年は目の前の出来事以上に信じがたい事をサラッと言ってのけた。

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