第3話 もっとぎゅっと絡めてほしいから
狭い部屋。
テーブルとベッド、そしてテレビを並べて置いているものだから部屋が狭く見えて仕方ない。
俺はベッドに腰掛けて、正面にあるテレビを見ていた。テーブルには、冷めかけた紅茶入りのマグカップが二つ。
彼女は今、風呂の真っ最中。
一人残された俺はとても暇なわけでして。
「(面白い番組ないな……)」
ピッピッ、と何度もチャンネルを往復させる。
そろそろそれにも飽きて、いい加減に彼女をからかいにでもいこうかと思った丁度その時。
「お先ですー」
タオルで髪を拭きながら彼女は現れた。ちっ、と心の中でしたうちをする。
「もう少し遅かったら覗きにいけたのに」
「なんて事を言うんですか!」
手に持っていたタオルで思いっきり頭を叩いた。
「いてっ」
「もうっ」
そういいつつも、彼女は俺の座っている隣……ベッドに腰掛ける。ギシッとベッドが揺れた。
そこが二人にとってのソファー代わり。
「花羽、水も滴るなんとやらだな」
「……っ。それは男性によく使われる言い回しでは?」
ニヤニヤと隣から眺めれば、彼女はだんだんと染まっていく頬を膨らませていく。
「ちゃんと頭乾かそうね、風邪引く」
「ん」
言葉とほぼ同時に彼女からタオルを奪って彼女の頭をわしゃわしゃと撫でるでもなく拭いた。
花羽は、子どもみたいで扱いやすくておまけに可愛い。おまけはむしろ、扱いやすいの方かもしれないけれど。
彼女は拗ねながらもおとなしく拭かれている。
口の中で何かもごもごと文句なり何なりを言っているようだが、適当に聞き流す。
「朋樹はずるい、気分やです」
「うんうん」
「朋樹ばかりいつも楽しそうです」
「そう?」
「いつも私をからかって」
可愛いからね、とは流石に口にまで出さなかった。
「……朋樹っ」
「ん?」
そろそろ腕も疲れて来たというところ。彼女と眼を合わせてきょとんとする。
「て」
「て?」
「そう、手、出して」
彼女は何を思ってか、手を出せという。
ん、とためらいもなく手を出した。“お手”になる方ではなくてどちらかといえば向かい合って手を合わせるように。
彼女の意図するところが分からずに言われるがままに手を出して彼女の様子を窺う。彼女はちょっと満足げ。
すると、彼女はそっと彼の手に自分の手を重ねた。
指と指を絡めあって、それから照れくさそうに笑った。
「へへへ」
「…っ」
「照れた、照れた~」
「花、羽……それ、ずるい……」
俺はもう片方の手で照れて赤く染まっている顔を隠した。
そんな様子を見て、彼女はもっとぎゅっと握った。
「朋樹」
「な、に?」
「すきです」
「……俺も、です」
「今の間とその敬語なにー?」
「移ったの!」
彼女の不意の行動に、繋いでいる手からもしかしたら早くなった鼓動が彼女に聞こえているかもしれない、なんて事を思った。
「朋樹、今ドキドキしてる?」
「えっ!」
「私からこういうことするの、初めてだもんね」
伝わっているかもしれない。
ほら、なんとなく。
君のも、
貴方のも、
繋いだこの手から、心から。
伝わっている、はず。
【もっとぎゅっと絡めてほしいから】
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