部活動を始めてみた 後編

「え?子供が危険な目にあってるかもしれないですって?」

 急いで学園に戻った四人は、未だ浮かれ気分だったマリー先生を見つけると、自分達が確認した事実をありのまま伝えることにした。

 責任者はマリーであるから、大人の意見を仰ごうとしたのだが、当のマリーは気軽に頼まれたクラブ活動の一環なのに、一体どうしてそのような面倒事をもって帰ってくれるんだと、怒りで震えていた。


「ちょっと待ちなさい。貴方達の活動ってそもそも何かしら」

 このタイミングで聞いてもとうに遅いのだが、マリーは確認せずにはいられなかった。そして聞かなければ良かったとすぐに思い知ることになる。


「アリスを見習って、困っている人を助ける部活動です」

(またあの子絡みかっ!なんで貴族の子達までアリスの真似事してるのよ!)

「あら、そうだったの、あの、やっぱ顧問の話は、なしで」と、ひきつった笑顔とうまく回らない口で、そっと顧問を辞退しようとしたのだが、部員は簡単には諦めてくれなかった。


「先生。ちゃんと署名されましたよね?」

「え?」

「ルーシー?」

 なんだかルーシーの様子がおかしいと、マリーは嫌な予感がし、ダリルとエレーナの背中には悪寒が走った。

「どうしても辞めたいというのでしたら、引き留める権利はありませんけど……でも」

「で、でも?」

 ゴクッと、マリーは生唾を飲む。

(あれ?この子、こんな怖かったかしら?)

「今現在、顧問なのは間違いありませんよね?」

「え、ええ」

(なんで淡々と語るの?)

「でしたら、部活動中の責任はどなたにあると思いますか?」

「……」

「マリー先生?」

「はい!私の責任です!」(やっぱあの子の影響をもろに受けてるわ!ちくしょうめっ!)


 今度は馬車で現場まで直行した。日は傾き始め、オレンジ色の夕陽が行く先を照らしている。

「あのね、貴方達が行っていた場所というのは、この国の地図には本来載ってない場所なのよ」

 もう諦めることにしたマリーが、馬車の揺れに身を任せ、どうにでもなれと詳細に語り始めた。

「そんな場所が王都のなかにあるんですの?」

「ええ……。公にしてはいないけど、そのような土地は残念ながら存在するの。見て見ぬ振り、というやつね。そういった土地は、昔から忌み地と言われて、普通は立ち寄ることもはばかられてるんだけど、そんな土地のさらに奥の地下から子供の声なんて、聞こえると思うかしら?」

「でも……本当に聞こえたんです……」

「まあ先生も確認して、何もなけければ帰るしかねぇよ」


 目的地に到着すると、想像以上の暗さに腰が引けた。

「この通りですか……正直、入りたくないですが。ちょっと待っててください。衛兵を呼んできますので」

 そこから動かないようにというと、マリー先生は衛兵の詰所まで走っていった。

 日が沈みそうな時間帯は、夜よりもよっぽど暗い闇がその小道に満ち、暗闇の向こうには、目には見えないナニかが潜んでいて、無力な私達を引きずり込んで食べてしまう――そんな妄想をしてしまった。


「クロエちゃん。まだ声が聞こえる?」

「……うん。でも、さっきより声が小さい」

「地下になにがあるのかしら」

「子供の鳴き声が聞こえるってぐらいだから、ヤバそうな施設とかあるんじゃねぇか?どこかに人体実験を行ってる施設があるって聞いたことあるぞ」

「あんなの噂話に決まっているじゃありませんか。誇り高い王国がそのようなおぞましい実験など行いませんわ」

「クロエちゃん、どうしたの?」

「ううん……なんでもない」

 エレーナの発言に、クロエはなにか言いたげな顔をしてうつむいたが、それっきり口をつぐんでしまった。


 しばらく立ち話をしていると、マリー先生が呼びにいった衛兵達が到着したのだが、なぜか先生は一緒ではなく、衛兵達は一様に厳しい表情をしていた。

 その中のリーダー格と思われる人間が、四人に詰問するように訊ねてきた。

「君たちは、奥で、何か見たかい?」

「いえ、なにも見ていません」

「それならよろしい。悪いがこの先には行かせられない。報告感謝する」

 感謝などまるでしていないような物言いで、四人は強制的に帰宅させられた。

 まるで邪魔物をその場から掃き捨てるように。





 結果的に、ランスター騎士団は、あの通路の先の地下に、何があるのか確認することは出来なかった。

 それどころか謹慎を命じられ、学校にも通うことが出来ない日が一週間続き、もう二度とあの通りには近づかないと念書まで書かされた。

 謹慎の理由は、部活動の範囲から逸脱した行為が原因と告げられたが、それを鵜呑みにするほど、馬鹿ではない――恐らく、私たちが突き止めようとしたあの通路の地下に、バレては不味いものが存在するのだと、誰でも想像はつく。

 後日改めて通りに向かうと、そこは高い塀が立てられ、よじ登ることも、侵入することも不可能となっていた。



 こうして初の部活動は、モヤモヤだけが残る結果で幕を閉じた――

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