ユートピアはどこに
きょんきょん
いつかあった御伽噺
遥か遥か遠い昔。
まだクニという概念すら存在しない遠い昔。そこは、神に祝福された土地と呼ばれていました。
そこに住まう人々は、神によって永久の安寧と幸福を約束され、何不自由なく暮らしていたのです。
そんな土地に、ある日一人の男性が訪れます。彼は初めて出会った住人に、こう訊ねました。
「貴女は、どうして服を着ていらっしゃらないのですか?」
住人は、フクというものを知りませんでした。どうやら、よその土地では服というものを肌の上から身に付けるようで、ナゼそのようなものが必要か理解できませんでした。
今度は別の住人に訊ねてみました。
「貴方は、どうしてお家を建てないのですか?」
住人はオウチというものを知りませんでした。どうやらよその土地では、木で囲った檻のようなものの中で暮らすようで、ナゼそのようなものが必要か理解できませんでした。
また別の住人に訊ねました。
「どうして水しか口にしないのですか?」
住人はタベモノというものを知りませんでした。川の水を飲めば清らかでいられるということしか知らないのです。なぜそのようなものが必要か理解できませんでした。
住人達は、得体の知らない男の知識を聞く度に、ナゼだか考えるようになりました。
するとどうでしょう。自分達が裸でいることが、急に恥ずかしくなったのです。
恥ずかしいので服を作りました。
服を着るようになると、家が無いことがおかしいと思うようになりました。
おかしいので、家を作りました。
家を作ると、急にお腹が減ってきました。
お腹が減ったので、川魚を食べました。
男は、どうしてどうしてと頻繁に聞いてきます。住人達もナゼナゼと考えるようになりました。
それからは
木が足らなければ、森を切り。
肉が足らなければ、獣を狩り。
米を食べたければ、畑を耕し。
子供が欲しければ、子を成し。
規律を守りたければ、法を作り。
富を増やしたければ、財を成し。
土地が欲しければ、余所から奪い。
人手が欲しければ、奴隷を奪い。
敵を倒したければ、武器を造り。
さらに倒したければ、さらに強い武器をつくり。
ナゼを追求し続けた結果、クニが誕生し、世界一裕福な住民となれたのです。
住人達は歓喜しました。考えることは幸福に繋がると。ですが、余所から奪うということが意味することを考えてなかったのです。
その光景を目にした男は、首を横に振ると、何処かに行ってしまいました。
もう男は必要ないと感じていた住人達は、さして気にも止めず、ナゼを追求し続けました。
すると、他所の土地も同じようなクニとなり、それがいくつもできた結果、大きな戦争となり、核爆弾で滅んでしまいました。
その光景を、男は遠くから眺めていました。
理想の世界には、まだまだ程遠いようです。
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