第127話 しふくの時と言われても14
全員無事に帰り着き、千尋と純と一馬さんはそのまま道場に残り残りのメンツは一旦湯布院ダンジョンを経由して怠惰ダンジョンへと戻って来た。
夕食後、リーダーと助手ちゃんは新しいスキルを試すようで地下広場へと向かった。
俺は俺で今回の件がどのような影響を世間に及ぼしているのか調べる為に部屋に戻ってネットサーフィン中だ。
「世間の反応は賛否両論って感じだな……」
ダンジョンをそもそも信用していない人達は反対意見や否定的な意見が多い。
ダンジョンから生まれたんだからモンスターと何も変わらない、そもそもダンジョン側なんだから敵、とかまぁ他にも過激な事も色々と言っている。
そんな中にもダンジョンは悪でも知性を持った者とは手を組めると言った意見を言っている人たちも中には居る。
「時間を掛けてでもダンジョンが有益でコントロール可能だって事を広めていくしか無いかなぁ……」
実力行使で世間を黙らせる事は出来るかもしれないが、それは本当に最終手段でしかない。
ある程度ダンジョンという存在が市民権を得られなければ、ダンジョンによって生み出された新たな種族は何時まで経っても外へ出る事が叶わない。
「でもまぁ肯定的な意見を言ってる人がこんなに多いとは思わなかったけどな……」
やはり日本という国はある意味で特殊なのかもしれないと思う。
他種族であっても日本に居て、国が認めるのであれば日本国民で良いんじゃないかという意見も結構多いのだ。
そもそもファンタジーに幻想を抱いている人が圧倒的に多い国でもある上に、よっぽどこちらに敵意や悪意が無ければ許容してしまうのが日本人というものだ。
礼には礼を、恩には恩を。
これから先得られるであろうダンジョンから齎される恩恵に瞳を輝かせている者も多いだろう。
特に今回はエルフというファンタジー界でも人気の種族が実在し更には想像通り美形だったのだ、心が躍らない者は少数派だと俺は思う。
「リーダー人気に感謝感謝だな!」
俺と同じで隠れエルフスキーが多いのだろう。
これからは隠れる事無く、エルフという種族を愛でる事が出来るようになればと心の底から思う。
「というか番長も助手ちゃんも美形だから人気は高いんだよなぁ……」
やはり容姿というのは大事なようで、賛成派の人達の多くはリーダー達が美形だから日本で受け入れようという風な流れに持って行っている気がしなくも無い。
「これはそろそろ本格的に男を増やして異種族アイドルグループ作って丸儲け計画するしか無いかもな……」
男性人気はもう取れるだけ取った、次はやはり女性人気を獲得して国民的スターに祭り上げる事が出来れば、ダンジョン出身でも国民として認めて貰う事が可能になる時代が来るかも知れない。
「……安相さんは結構バッシングされてんなぁ。まあ独断でリーダー達を日本国民にしてるんだからそりゃそうだよなぁ……越権行為も甚だしいと言われても仕方が無い」
国民からの支持は高いのっだが、政治家からの評判は頗る悪いのが安相さんだ。
世界が変わってからの安相さんの行動や言動は国民からすれば支持するに値するものが多いのかもしれないが、政治家からすれば鬱陶しい事この上ないのだろう。
国難を前にして国民を第一に考え、利権や柵何か糞くらえと言わんばかりの即時対応をしているのを目の当たりにすれば誰だって応援したくなるものだ。
今は昔と違ってメディアはテレビ、新聞、ラジオの独断上では無く情報操作も難しくなってきているので、いくら政治家共が安相さんの足を引っ張ろうとした所で一昔前に比べれば効果は薄い。
国民も馬鹿じゃないのだ、情報を見聞きしてその情報が間違っているどうかの精査を自分で調べて出す事ぐらい誰だってやっている。
中には未だにテレビ局が編集して態と誤解させるような報道をしたり、国民を煽ったりしているのを鵜呑みにしているアナログな人達も居るがそれもかなり減ってきている。
情報は今や受信するだけの時代では無く、発信も受信も個人で自由に簡単に行える時代になっているのだから当たり前といえば当たり前だ。
「千尋は凄い人気だな……純もだけど」
今やスターといえば千尋、英雄といば千尋、そういう流れになっている。
ちょっと前まで批判していた人も掌を返すように千尋を褒め称えていたのには流石に笑ってしまったが、それだけの偉業を成し遂げたのは間違いない。
ダンジョンから生まれた新たな種族と交流を図り、協力を取り付け、ダンジョンをある程度コントロール出来る事を証明し、それによって超常的な力を身に着け、無謀だと思われていたダンジョンを世界で初めて攻略し、更には現在世界でも一番規模の大きいとされている中国のダンジョンを仲間と共に攻略したのだ。
英雄以外の何物でもない。
今回の一件で各国から千尋にダンジョン攻略の依頼が更に殺到しているが基本的には断っている。
代わりに湯布院合宿所ダンジョンで指導や訓練を行っている事は明らかにしているので、今後は国外からも色々な国から信頼出来る人達が派遣されてくる事になっている。
「冒険者協会とPCHが協力して北京近郊のモンスターを駆除開始……今日から駆除して回ってるのか」
冒険者協会からは藤堂光輝をリーダーとした4人。
PCHからは馬場秋豊をリーダーとした6人が派遣され、ダンジョン外に出てしまったモンスターの討伐を中国から依頼されて開始している。
この10人は千尋が最初に指導した者達であり、世界にとっては第二の英雄候補でもある。
実力は千尋には遠く及ばないが、現状ダンジョンの外に漏れ出てきているモンスター程度であれば後れを取る事は無い。
冒険者協会の4人は加護を持っていないが、千尋や一馬さんのスパルタ教育によって鍛え上げられている。
PCHの6人は全員が加護持ちであり、実力も冒険者協会の4人よりも上なので何も心配はしていないが連携という点では全く取れていないのが欠点ではある。
「良くも悪くも加護持ちの奴らは個性的過ぎるんだよなぁ……特に馬場が酷いらしいけど、知名度と人気はあいつが一番上なんだよなぁ」
馬場秋豊、通称馬鹿は日本で初めて加護持ちであると暴露して一躍時の人となった男であり、超常現象対策本部(PCH)の顔でもある。
だが本人は戦いには不向きな性格であり、レベルと加護の恩恵によって向上した身体能力を十全に活かす事が出来ていないし、連携も取れないという駄目っぷりらしい。
それでも必死に皆の為に立ち上がり、戦っているのだから素直に凄いと思う。
人間やはり向き不向き、得手不得手はあるものだ。
普通の人は不向き不得手の事を避けたがる。
それなのに馬鹿は命の危険があるならば尚更辞めているだろう事に今なお挑戦している。
「何か憎めないんだよなぁ……」
PCHの顔でありリーダーポジションには収まっているのは馬場だが、実質的なリーダーは加藤大地という年齢も実力も一番高い男であるのは周知の事実となっている。
「アメリカも本格的にダンジョン調査を開始……か」
地球上で最強の国家アメリカが本格的にダンジョン攻略に動き出したようだ。
「まぁアメリカなら中国みたいな事にはならない……よな?」
今回の中国派遣で何かあっても千尋が何とかしてくれると考えての行動であるなら、アメリカもかなりの痛手を負う事になる。
今回は日本のダンジョンがまだ未成熟だったからタイミング的に何とか派遣出来たが、今後はどうなるか分からない。
世界がモンスターで溢れ返るまでのリミットは約4カ月を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます