第103話 夢を追うもの笑うもの30


 布団に横たわり思考する。


 いつもなら布団に入って数分もすれば安眠出来ていたのに今日はとても眼が冴えていて安眠どころか、眠る事も出来ないでいる。


「……犠牲、囮、隠れ蓑」


 どうしてもベルの言い放った言葉が頭から離れない。


 頭ではベルの言い分も理解出来ている。


 けれど納得はしていない。


 俺の頭ではベルの言い分を覆すだけの計画も目指すべき道も思い付かない。


「……純なら何か良い案を考えてくれるかもしれない」


 考えても何も思い付かない挙句、結局は他力本願。


 自分で自分の性格が嫌になるのは久しぶりかもしれない。


 いつだって俺は自分で出来ない場合や、自分よりも上手く出来る人が居れば任せてきた。


 過去にはこんな性格が嫌で悩んだ時もあったが、今では吹っ切れていたと思っていた。


 けれど今回は久しぶりに心がざわついて仕方が無い。


 頭では理解出来ても、心がそれを否定する感覚。


 俺のわがままだという事は分かっているのだ、それでも俺は犠牲とか囮とかそういう事が嫌で嫌で仕方が無い。


 別に過去に何かあったとか、トラウマがあるとか、そういう事では無く、只々嫌悪感を感じているだけ。


「俺の頭が悪いからこんなにモヤモヤしてんのかな……」


 純は俺と違って頭が良い、だからこそ何か良い考えが思いつくかもしれないと期待してしまう。


「良し!寝よう!明日また考えて答えが出なければ純に相談しよう!そうしよう!」


 頭の悪い俺があれこれと考えるよりも頭の良い誰かに相談した方が良い事は多い。


 心はモヤモヤとしたままだが、俺にはもうどうしようもない事も理解しているのだ。


 俺は馬鹿で我儘で他力本願で自分では何も出来ない事ぐらいは短くない人生経験の中で理解している。


 結局は結論も答えも対策も何も思い付かず、いつも通り寝る事にした。



 ☆ ☆ ☆



 寝て起きれば気分爽快、昨夜のモヤモヤも一度寝てしまえばある程度は軽減していた。


「さぁてと!今日も一日がんばるぞい!」


 午前中はいつものように過ごし、午後の自由時間は今日も今日とて修行に励んだ。


 レベルの影響もあってか、気の扱いにも大分慣れてきたようで内気功に関してはほぼ無意識に使えるようになってきた。


 ベル大先生の指導の賜物であるのは間違いないが、ここまで頑張ってきた自分を自分で褒めてあげたい。


 そんなこんなで明日からはやっと、外気功の指導が始まる予定になっている。


 ベル大先生との模擬戦はとても良い戦闘訓練になるし、スライムを利用しての実戦訓練もレベリングを兼ねてやれるので無駄が無い。


 怠惰ダンジョンは今日も平和だ。


 英美里は着々とレベリングを続けている。


 リーダーは博士と助手ちゃんと一緒に研究を続けている。


 リーダー以外のエルフルズの皆は今日も農業を頑張ってくれている。


 番長率いる鬼人娘衆は家畜の世話という仕事柄、暇があまりないようだが個人個人のスペックが高いので交代制で休憩を取っているようで今日も午後の地下広場では番長がレベリングに来ていた。


そして今日のノルマを達成した俺の目の前には、今日の午前中に助手ちゃんが届けてくれた魔法銃が5丁並んでいる。


「助手ちゃんの説明では一つは俺のらしいが……好きなのを選んで良いんだよな?」


 地下広場でベルと共に魔法銃を眺めながらベルに問いかけた。


「ですです!マスター!私的には大きくて長いのが好きです!」


 ベルが並べられた魔法銃の中でも一際大きく、目立っている物を指差した。


「これは流石になぁ……大きすぎて俺にはキツイと思うんだが」


「大丈夫ですよマスター!マスターならこの大きくて長い大砲でも全然イケますよ!」


「えぇ……でもこっちのマグナムの方が扱いやすそうだし、連続でパンパン出来て気持ちよさそうじゃないか?」


「それはそうかも知れないですが……絶対にこっちの大きくて長い大砲の方が一発の気持ち良さは味わえますよ!」


「いやいや、俺の基本スタイルは自慢の槍で突きまくる事だから流石にこの大きいのは扱いきれ無いって……」


「ガチ両刀ですよ!マスター!その方が恰好良いです!」


「ベルがそこまで言うんなら……一回だけ試してみるか」


「流石です!マスター!」


 俺はベルにお勧めされた大きくて長い大砲を優しく手で包み込むようにして持ち上げた。


「えーっと……リーダーメモによると、これは魔法銃の大口径型で出力が一番高く、魔力の充填量も多いので撃つ時は気を付けて下さい……だって。一応一番遠い壁に向かって撃ってみるか……」


「何かあっても私が何とかするので、マスターはぶっ放しちゃって下さい!」


「オーケー!じゃあ……3,2,1、発射!」


 掛け声と共にトリガーに指を掛けて魔法銃に魔力を込める。


 魔力を幾分か吸われながらも引き金を引くと魔法銃の銃口から眩しい光と共に何かが炸裂したような音を立てて銃口と大差ない大きさの光輝く弾が高速で壁に向かって行った。


 俺の目で視認できるギリギリの速度で壁に向かって行った弾は壁に直撃した後にとてつもない爆発音を響かせながら爆発した。


 爆発による爆風がこちらまで届くが、俺の前には傘を体の前で開きながら悠々と爆風を受け流してくれているベルが居た。


「……」


 俺は無言で魔法銃を並べてある場所まで歩いて行き、魔法銃を地面に優しく丁寧に置いた。


「マスター!どうでしたか!やっぱりこの魔法銃で決定ですよね!見ましたか、今の威力を!」


 興奮気味に俺に語り掛けるベル。


「……これは助手ちゃんに返そう」


「何故ですかマスター!威力も申し分無いですし、魔法銃なだけあって撃った時の反動も無いんですよ!最高じゃないですか!」


「……とりあえず他のも一通り試し撃ちしてから、爆発の規模が比較的少ない魔法銃を新人の子らに渡そうかな」


 俺はベルの言葉を無視しながら、魔法銃を試し撃ちしようと次の魔法銃を手に取った。
























 魔法銃の試し撃ちを終え、全ての魔法銃を一旦アイテムボックスに収納してから俺は研究施設へと足早に向かう。


「結局、全部爆発の規模がデカすぎるんだよなぁ。助手ちゃんには悪いけど、全体的に少しダウングレードしてもらおう……これじゃ味方諸共吹き飛んじまうよ」


 助手ちゃんが張り切り過ぎたのか、魔法銃はこの間リーダー達が試し撃ちしていた物とはまるで別物だった。







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