第49話 英雄も事件が無ければただの人6


 寝て起きて飯を食う、それだけで幸せを感じる事が出来る。

 仕事をしなくても良いというのはこんなにも幸福を感じる事が出来るんだぞと世の中の働きすぎるお金持ちに言いたい。


 アニメを見ていたらいつの間にか寝ていたらしく、優しく揺さぶられて目を覚ました。


「ご主人様!お夕飯が出来ましたよ?」


「もうそんな時間か……もう少ししたら行くよ……」

 寝起きは何故こうも眠いのか、寝て起きたのだから眠気も無くなりそうなものなのに不思議だ。

 暫く頭が覚めるのを布団の上で待ってから、居間へと向かった。


 居間にはベルと千尋に純も居た。

 最近は大人数で食事をとる事が増えて、それが妙に嬉しかったりする。


「おかえり!<冒険者協会>の設立はうまく行きそうか?」


 俺が寝ていた間に帰ってきていた純に問いかけた。


「来週には設立は終わる予定だね!まぁ厳密には今日が設立日になるんだけどね!私が会長で千尋ちゃんが副会長にしといたから!今の所は二人しか居ないけど、これからどんどん人を増やしていくから人が増えるまでは結構大変になると思うけどお父様にも協力して貰えるから心配は無いからね!」


「おぉ!これで<冒険者協会>は大きくなる事が約束されたようなもんだな!俺自身は何も出来て無いけど、ありがとう!」


 冒険者協会についてはもう何も心配は無くなった。


「けどお父様から、一つ条件を提示されちゃったんだけど……協力してね旦那様?」

 とても良い笑顔で協力を要請されてしまった、もとより俺に出来る事ならば協力はするつもりなので何も問題は無い。


「勿論俺に出来る事なら協力させてもらうよ」

「わーい!ありがとう!じゃあ明日、お父様をここに招待しても良いかな?」

 まさかの大海博信を我が家に招待したいという申し出。


「どうしてもですか?」


「そうだね、どうしてもだね。それが今回の件で協力して貰う為の相手側からの条件だから。勝手に君の事を喋ってしまった事は謝る、ごめんなさい」


 純はいつになく真剣な顔をしていた。

 何故こんなにも深々と頭を下げているのかは分かるのだが、そんな必要は無い。

 純も俺に頭を下げる必要はあまり無いとは思っている筈だが、これはベルや英美里にも謝罪をしているという事なのだと思った。


「<怠惰>について何も話して無いなら別に構わないよ、だから頭を上げてくれ。……俺も覚悟は決めたよ、明日ここに純のお父さんを連れて来てくれ」

 

「ありがとう!勝手ながらお父様なら、ここの事と<怠惰>についても話した方が良いと私は思ってる。今後の事を考えるなら<怠惰ダンジョン>を覆い隠せるぐらいの大きな隠れ蓑になれる存在はどうしても必要だし<冒険者協会>を大きくする為の時間も然程無い。それに企業や団体を大きくするにはお金と信用が無ければならないからね」


 純は破天荒ではあるが、現実が見えて無い訳じゃない。

 むしろここに居る誰よりも現実主義者だ、そんな人が話した方が良いと言うのだから俺はその意見に従おうと思う。


「良し!じゃあ明日全てを伝えて協力して貰おう!それから純と千尋と俺の個人的な関係も伝える。ぶん殴られるぐらいの覚悟はしておくけど……あんまりにも納得してくれなかったら、純には申し訳無いけど……それなりの事はするつもりだから。例え純の父親でも俺は容赦はしないからな」


 自分でも気分が悪くなるぐらいには気持ちの悪い事を純に伝えた。

 自分勝手で独善的だとは思うけれど、俺は俺の大切な者達を手放すつもりは全く無い。


「くふふ!愛されてるな私!お父様が何か言ってきたとしても私はもう<怠惰ダンジョン>側の人間だから、そうなった時は一緒に地獄へ行ってくれるかい?」


「おう!比翼連理、一蓮托生!お前は俺の家族だ!もう逃がさないからな?覚悟しとけよ!」


 純に軽く拳を突き出すと、純も拳を突き出してきて互いの拳をぶつけ合った。

 お互いがお互いを逃がすつもりは無い。

 途中下車などさせる訳にはいかないのだ。


「盛り上がってる所申し訳ないが、明日純先輩の父親がここへ来るというのなら、私も明日両親をここへ連れてきても良いか?」


「俺は良いけど……予定とかあったら急には無理じゃないか?迷惑を掛けたくないし、明日以降でも良いんじゃないか?」


 おじさんとおばさんの負担になるような事は避けたい、二人とも結構な年齢だし予定があるかもしれない。


「予定があっても無理やりにでも連れてくる。私も両親に婚約の事を伝えて安心させたいし、純先輩だけ親に紹介するのはなんかずるい」


 若干不貞腐れ気味な千尋の顔を見ると、無性に抱き締めてやりたくなった。


「分かった、明日千尋のおじさんとおばさんもここへ招待させてもらうよ」


 どうせいつかは挨拶はしなければならないのだ、早いか遅いかの違いしかない。


「えぇー!じゃあ私もお母様も一緒に呼んでも良いかい?」


「……わかった」


 明日は胃が痛くなりそうだ。

 リーダーに頼んで胃薬を作ってもらおうかな。


「ありがとう!旦那様!愛してるぜ!」



「じゃあ……詳しい事はご飯を食べてからにしよう」



 いつも通り美味しそうな夕飯を英美里が作ってくれているので、まずはご飯を食べてから明日の詳細を決める事にした。



 ☆ ☆ ☆



 夕食後、明日の詳細を話し合い予定を組んだ。

 千尋のおじさんとおばさんにも連絡を入れて、我が家に招待するとかなり嬉しそうに招待に応じてくれた。

 それと明日、千尋が迎えに行くという事も伝えておいた。


 純の両親にも電話をした。

 初めての会話だったので多少緊張しながらも無事、招待する事が出来た。


 話し会いも終わり、千尋と共に俺の部屋へと向かった。



「……とりあえず、ゲームでもするか?」


 千尋と二人きりの状態に妙に緊張してしまう。

 意識しているからだろう、今夜の事を。

 緊張を解す為にもゲームをやらうと千尋を誘う。


「ふぅ……良し!じゃあ久々に超乱闘で対戦でもしようよ!」


 超乱闘は俺らが小さい頃から続いているシリーズの対戦ゲームで、今なお新作が出ている人気タイトルだ。

 昔から千尋とはこのシリーズで対戦してきた。

 沢山遊んできた思い出深いゲームでもある。

 このゲームでは俺の方が少しだけ強いので、負けず嫌いな

千尋は昔から自分が納得する勝ち方が出来るまで延々と勝負を仕掛けてくる。


「じゃあ、新作の方やるか?買ったは良いけど、俺も結局まだやれて無かったし、その方がお互いスタートが一緒だから良い勝負も出来ると思うし」


「良いやん!私も新作はやっちみたかったけど、結局発売日にハードが買えんかったけん買うの諦めちょったんよ!」


 人気ハードの宿命か千尋は購入タイミングを一度逃してしまったようで、それ以来購入する事が無かったようだ。


「じゃあセッティングするか、しかし久々にこのハードでゲームするなぁ……」


 メインのターゲット層が子供向けのソフトが多いので、中々やる機会が無かったので久々のセッティングをする。

 千尋はセッティングする俺を嬉しそうに眺めていた。



「おぉ!これが噂の……先見堂チェンジ」


 幼い頃に戻ったように千尋はわくわくしているようだった。


「ピケモンも持っちょんやん!良いなぁ……私も買おうかなチェンジ……なんか廉価版も出たっちゃろ?」


 ピケットモンスター通称ピケモンは俺らが小さい頃にアニメやゲームで一番人気のあったタイトルで今も尚新作アニメやゲームが続いている作品で、俺ら世代でやったことも見たことも無いという奴の方が少ない超人気作だ。


「あー廉価版も出たな、完全携帯機仕様だから通常版の方が俺はオススメかな……よっしゃ!準備完了!」


 先見堂チェンジのセッティングも終わり、超乱闘を起動する。


「OP見る?」

「見るに決まっちょんやん!見終わるまで静かにしちょってな?」

「りょーかい」


 さっきまでの緊張はゲームが起動する頃には何処かいってしまった。


 OPムービーが始まった。

 以前よりも綺麗なグラフィックで荘厳な曲が流れる。

 OPが終わるまで無言で画面を見つめる。


 

「OPで既に泣きそうなんやけど……」

「すごいな……こんなにOPに力入れてんのか今回は……超乱闘スーパーは本当にスーパーだな……」


 歳を取ると涙腺が弱くなるというが、対戦アクションゲームのOPを見て二人ともが感動で泣きそうになっていた。


「対戦する?ストーリーする?」

 色々なゲームモードが選べるが、基本は対戦かストーリーモードになっている。

「ストーリーやらんとキャラが出ちょらんやろ?」

「まぁそうだな……じゃあストーリーやるか、新機能とか操作方法も覚えられるし」

「じゃあ一回ずつ交代で進めよう!」

 幼少の頃の様に二人で一緒にストーリーモードを開始した。



















「おい!コンテニューしたら交代だろ!普通!」

「そんなん知らんけん!むしろ普通はクリア交代に決まっちょんやろ!」

 この負けず嫌いは負けると順番を無視するという事を失念していた。

 

 

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