第7話 始まりは突然に7


 所有する土地を全てダンジョン化し、更に拠点化することに成功した俺は目的を果たしたので、一旦家に戻ろうとベルに話しかける。

「さてベル俺がここに居て出来る事はもう無さそうなんで一旦家に戻ることにするよ」

『はいマスター、私は不必要なものをDPに変換したのち、マスターの期待に応えられるようにダンジョンの改造を行いたいと思いますが、私の判断で動いてよろしいですか?』

「あぁ、構わないよダンジョンの事はベルに任せるから、明日またここに顔を出すから、よろしくね」

『はい!マスター!』

 こうして、面倒な事は全てベルに任せて家に戻ることにした。

 家に戻る途中荒れ果てていた山や畑が綺麗に整っているのを見てここはもう

ダンジョンになったのだと感心しながら、整えてくれたベルに感謝していた。


 ☆ ☆ ☆


 誰も居ない家に帰宅し広い玄関で長靴を脱ぎ捨て居間を通り過ぎキッチンにある冷蔵庫からお茶を取り出してから自身の部屋へと戻る。

 (ふぅ、とりあえず拠点化も無事行えたしダンジョンはベルに任せていれば大丈夫、そういえば<娯楽神の加護>について何も調べて無かったな)

 無事当初の目的を果たし家に戻った安心からか、緊張が解けたからなのか、<怠惰>のインパクトが強すぎたからなのか、今まで良く調べていなかった自身の加護について考える余裕が生まれていた。

(まずは、鑑定からだな……鑑定)


 <娯楽神の加護>

・鑑定(鑑定対象の情報が分かる)

・同類言語理解(同類の言語が理解出来る)

・アイテムボックス(自身に所有権のある物を収納出来る)

・娯楽の謳歌(娯楽を行っている場合、経験値を取得し、能力値、成長値上昇効果)


「なにっ!こいつもやべーじゃねーか!」

<娯楽神の加護>を鑑定してみて、思わず叫んでしまう。

(そもそも、鑑定って娯楽神の加護のおかげなんじゃねーか!まじでありがとうございます!娯楽神様!こりゃ、娯楽神様の神殿でも作るか?)

 驚きから思考が脇道に逸れるがそんなことよりも、加護の鑑定結果で気になるものについて思考を巡らせる。

(<娯楽神の加護>これはまさに異世界もののテンプレ詰め合わせセットだな、鑑定、言語理解系、アイテムボックス、娯楽の謳歌に関してはちょっと良く分からんが、このテンプレ3種の神器だけで充分チートだろ、とりあえず鑑定は理解しているとして、<同類言語理解>こいつの効果の詳細が気になるが今は検証出来ないか、それよりもなによりもアイテムボックス……これは色々と検証しとかないとな……)

 色々と気になる事はあるが、まずはアイテムボックスについての詳細を検証することにした。


 ☆ ☆ ☆


「こんなもんかな?ふぅ……」

 あれから一時間程、アイテムボックスについて検証を行い、一段落したところで空中に漂う黒い靄のようなものに手を入れペットボトルのお茶を取り出し一口飲む。

「お茶は冷えたままか……メモに追加しとくか」

 検証の際に最初にアイテムボックスに入れたお茶を飲み一言呟き、検証結果を忘れないうちに色々な検証結果を書いたメモに追記した。


(さて、とりあえず分かったことは、念じるだけで発動できる、アイテムボックスとは黒い靄が発生しそこに物が収納出来る、容量不明、重量制限不明、生き物は入れられない、黒い靄は自身の周囲1メートル程までしか発生させられない、自動車程の大きさの物も収納可能、取り出すときは取り出したいものをイメージする、物を入れると重さを感じなくなるが、手で取りだした瞬間重さを感じる、火の付いた蝋燭を入れると取り出した時にも火はついたままだったが、蝋燭が燃えたような形跡はなし、お茶は冷たいままだった……これだけの検証結果だけでも相当にヤバイってのがわかるな、アイテムボックス内部は恐らく時間が停止しているか、時間が遅くなっているし、自分の物だけっていう制限はあるが、自動車みたいな大きくて重いものを入れて持ち運べる、容量については、家の物をかなり入れてみたが限界が分からなかった……引っ越しが楽になりそうだな)


「チートじゃん」

 アイテムボックスの検証結果に思わず呟いた。


「後は<娯楽の謳歌>についても検証してみるか、といってもこいつも<怠惰の業>と一緒で、効果適用条件が曖昧なんだよなぁ、娯楽か……ゲームでもやってみるか?」

 難しい事を考えるのが面倒になり、いつものようにネトゲを始めたが、いつもは事務的なチーム募集発言しか書かれていないゲーム内全体のチャット欄がざわついていた。

(なんだ?加護ゲットしたやつが動画上げてるだって?えぇと……これか)

 ゲーム内のチャットに書かれていた加護をゲットしたという人の名前を検索し生放送のURLにアクセスし動画を視聴する。

(こんなに早く動画上げてる馬鹿はこいつか?顔は馬の被り物で隠してるけど、声から察するに男だよな?この人の加護はどんなんだろう?)


『どうもこんにちは、初めまして馬鹿(うましか)です!今から私の得た加護について分かったことを皆さんにお伝えします、ちなみにこの動画の目的は、自身のレベルアップと、ちょっとした正義感からです!拡散希望です!まずは、私の得た加護は何なのか説明しますね、私が得た加護は<芸能神の加護>です、この加護は芸能に関することを行うと、経験値を得られて、能力値、成長値が上昇するというものです、そして私が何故このように効果がわかるのかといいますと、この加護には他にも鑑定、同類言語理解、アイテムボックスという効果もあるからです!そして私はこの鑑定を自身に使ってこの加護の効果を知ることが出来ました!この動画はある種実験です!実際にこの動画を上げる事で本当に経験値を得られるかどうかの!この後、実際に経験値が得られたのかと、アイテムボックスや加護について分かった事を動画にして上げます!ではまた!』


 短い動画を見終わり、この馬鹿の言っていた事を考える。

(こいつは良い人なのか、馬鹿なのか、それとも誰よりも早くアドバンテージを得ようとした愚か者なのか……こんな情報、こんなに早く出すのが恐くは無いのかコイツは、それよりも鑑定、同類言語理解、アイテムボックス……これらは加護持ちは全員所持しているという事なんだろう、そしてこれから先こういう奴らがたくさん現れるのかと思うと心が痛いな……こんなの持たざる者達に目の敵にされるに決まってる、加護持ち格差スキル格差、政府がどう動くか次第では世界が荒れるだろうなぁ……)


 勇気ある馬鹿の行動に尊敬と同情のような感情を抱きながらも、今後の馬鹿の動向を追おうと決め、自分自身はスキルや加護の事を他人には明かさないようにしようと、決めた。


 

「まぁ馬鹿のことは置いといて、明日店長に電話してとりあえずバイト当分休むか辞めるかしよう……あぁ働きたくねぇなぁ」


 そう呟いて俺はいつものようにネトゲを再開した。

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