第六話「王様と執事の策略」

001

 ――ゼクスたちが黄金騎士団を倒した次の日。



「ぬぁあああああああ! どいつもこいつも役に立たんではないかぁあああ!」


 王城、お城の中、玉座に座って叫んだのは、アリシアの父親――――ゼクスの言うクソジジイであった。


「格闘家も魔法使いも役に立たず、剣闘士ですら歯が立たないから暗殺者に黄金騎士団まで動かしたというのにぃぃいいいいい!」


 王様はご立腹で、顔を真っ赤にして正面で頭を下げる召使いに喚き散らす。


「なにか手はないのか! ゼクスを殺し、我が娘を取り戻す手は!」

「王様、一つだけ……方法がありますが……」

「なんだ、言ってみろ!」

「失礼ながら……」


 頭を上げた執事は高身長でスラっとしていた。

 ゼクスと同じ黒髪だが肩よりも下に伸びている。眼鏡をクイッと上げると、キリっとした瞳を王様に向けて話し出す。


「かつての魔王をゼクスに差し向けるのです」

「かつての魔王? なんだそれは」


 執事は「この知らず者が……」と内心でバカにしていたが――


「なんだその目は」


 表情に漏れていたらしい。


「い、いえ、目にゴミが……」

「そうか、さっさと話せ」

「はい、(バカな)王様!」

「なんか、妙な間があったが……?」

「気のせいですよ」


 王様が首を傾げる。

 執事は「少し失礼します……」と頭を下げたあと――笑いをこらえていた。


 こいつ、魔王が数百年前に出て行ったことも知らないとかバカなのかな……。しかも、その辺の奴がゼクスに勝てるわけないじゃん、バカなのかな……やっぱりバカなのかな……ぷふっ……。


 ――――執事は隠れて王様をバカにすることを趣味にしていた。


「くくっ……」

「おい、セバスチャン、笑っていないか?」

「いえ、笑ってなどおりませっ……」


 頭を下げたまま答えるが最後に笑い声が入ってしまう執事。


「笑っておるではないか!」


 王様が立ち上がって近寄ろうとした瞬間――――


「まぁまぁ、王様、そう怒ってはいけません。王はどっしりと構えていなくては」

「え……あ、ああ、そうだな」


 サッと顔を上げた執事はスッと王様の肩に手を添えて玉座に座らせた。

 さも、王様を気遣うような仕草だが、王様に顔を背けて隠れて笑っている。


「さてと! では王様、元魔王を呼ぶために魔法陣を描いてもいいですか?」


 至って真面目な顔で執事が言うが――


「え?」


 王様は口を開けて呆然としていた。


「ダメですか?」

「ここに描くのか?」

「そうですけど?」

「ダ、ダ…………!」


 逆になぜダメなのか聞きたそうな顔の執事に、とうとう王様も噴火した。


「ダメに決まっておるだろうがぁあああ!」

「でも、ゼクスを倒すなら元魔王くらい呼ばないと……」


 片膝をついて「王様のためを想って言っているのです」と言わんばかりの屈託のない目を向ける執事。


「だ、だが、ここで魔王が暴れたらどうするんだ……」

「ああ、それなら大丈夫です♪」

「え? 大丈夫なの……?」

「ええ♪」


 執事はニコニコと笑っていた。


 四天王も魔王も倒したなら、あとは元魔王を戦わせればゼクスも強くなるかなぁ。

 でも、その後どうしよう。やることなくなっちゃうしなぁ……。


 この執事――実はゼクスを育てるために執事の地位を手に入れ、ゼクスを育て上げた張本人である。


「魔王を呼んで本当に大丈夫なんだな……?」

「ええ、もし暴れたらぶん殴ってやりますよ♪」


 ニコニコ笑顔で白い手袋をつけた握り拳を見せる執事。

 王様が一瞬だけ怯えていたが、首を横に振って迷いを断ち切った。


「よし、セバスチャン! やれ!」

「(うざ)……」

「おい、どうした!」

「いえ、なんでもありません。では、少しお待ちを」


 執事が玉座から離れて、どこにしまっていたのか分からない手の平サイズの布袋を取り出した。


「魔法陣描くの面倒だなぁ……」

「ん? 今なにか言ったか?」

「……」

「お、おい! 聞こえているのか!」

「はーい」


 執事は「クソッ」と小さく呟いたあと舌打ちをしていた。


「んじゃ、いきますねー」


 布袋に手を突っ込み引き抜く。

 サラサラと白い粉が執事の拳から零れ落ちていく。


「おい、なんだそれは」

「これですか? これは魔法の粉です♪」

「魔法の粉だと? なんだそれは……」

「私、錬金術もかじっておりまして♪」


 ハニかむ執事。


「ほ、ほう……そうか……」


 王様は少し怯えている。


「んじゃ――――――――よいしょっとー!」


 執事が振りかぶって、思い切り床に向かって粉を投げつけた。

 勢いによってモヤのように広がっていく白い粉が円形に広がっていく。


「セ、セバスチャン! 描くのではないのか!?」


 その王の疑問は当然の疑問だった。だが――


「錬金術なので♪」


 錬金術という言葉ならなんでもアリだと言わんばかりに笑顔で答える執事。


「ぬ、ぬう……」

「さてとー♪」


 白い粉が円形に、ドーム状に広がっていく中、執事がその外側へと歩み出た。


「お、おい、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫ですって、鬱陶しいなぁ……」

「え? 今、鬱陶しいって言わなかったか?」

「空耳ですよ。上手くできたなぁって言ったんですよ?」

「……」


 さすがの王様も険しい表情を執事に向けていた。

 ちょっと言い過ぎたかなと……、執事はそのまま仕切り直すように――


「んじゃ、元魔王を呼びますねー」

「え、そんな気安く⁉ ま、待て――」

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