006

 霞む視界で格闘家の姿がぼやける……。

 砂を投げつけるとか、格闘家にも、剣士の風上にもおけない……。

 そっちがその気なら、全力でやってやらねば剣士として廃るというもの……。


「おいくそ格闘家、もう手加減はなしだ……」

「こちらとてあまりこういった戦法は使いたくなかったが、魔王相手ならば仕方なかろう!」

「はぁ……もういい……」


 目を伏せて息を止める。


「ふっ! 詠唱などさせぬぞ!」


 走り込み……手前で左にステップ……、右腕を引いて……放った格闘家の拳を受け止める。


「なにっ……⁉」

「音を立てすぎだ。あと、無駄な動きが混じっているぞ」

「こ、この……放せ!」

「なら、斬り離してやろうか」


 右手で刀を振り上げる。


「わ、悪かった! 頼む! 腕だけはやめてくれ!」

「大の男が喚くな、一度決めた覚悟ならば全うしろ」

「ち、違うんだ! 私は王様に頼まれて……!」

「王様に……?」


 振り上げた刀をそのままに――


「どういうことだ?」

「姫を連れ去った、剣を持った魔王が居るからと! 退治してくれと頼まれたんだ!」

「あのクソジジイ……俺を魔王扱いとは……」

「な? 頼む! 私には妻子がいるんだ!」


 腕は斬り落とさずとも、拳を握りつぶそうかと思っていたが……。

 妻子という言葉でアリシアとフウたちがなぜか脳裏をよぎっていく。


「クソっ……」


 イライラが収まりそうもないので腹いせに男を投げ捨てる。


「ぐふっ……!」

「帰ったらクソ野郎に伝えてくれ、『そっちがその気なら全力でかかってこい』ってな」

「わ、分かった! 其方の慈悲、決して忘れはしない!」

「分かったから早く行け……鬱陶しい……」

「かたじけない!」


 格闘家が走り去っていく音を耳に入れる。

 本当に離れていったのを確認してから刀をしまう。

 それにしても……アリシアの父親と言えども魔王から世界を救った俺を魔王に仕立てるとは――――


「絶対に許さん……」

「お兄ちゃーん!」


 ライが駆け寄ってくるのを片目を開けながら見つめる。


「お兄ちゃん強いんだね!」

「まぁ、お前たちと戦ってるからな……、あの程度の人間なんか赤子と一緒だ」

「お兄ちゃん目はだいじょうぶ?」

「ああ、大丈夫だが、水で洗い流したいな」

「もう一回おフロ入る?」

「いや、それは遠慮しておこう……、みんなの所に帰ろうか」

「うん!」


 フウの部屋へと帰ろうとするが、なにか手に物足りなさを感じる。

 楽しそうに前を歩くライの頭に自然と手が伸びていく。


「ん、なでてくれるの?」

「まぁ、そうなるかな」


 頭のサイズといい、形といい、手のフィット感がピッタリなんだよな……。


「えへへ~、なでなでー♪」

「……」


 まぁ、可愛いからいいか。


「よし、帰るぞ」

「はーい!」


 この後、フウの手料理を食べて満足したゼクスとアリシア。


 夜、アリシアはライと一緒に眠り、ゼクスは念のため、魔王城の入り口で眠ることにしたのであった。






 ――――《afterstory》――――


「ライちゃん、寝よっか!」


 アリシアは「雷」と書かれた部屋――つまり、ライの部屋に居た。


「寝るー!」


 言い終えたライは、なぜか着ていた服を脱ぎ始める。


「え、ライちゃんなんで脱ぐの⁉」

「なにも着ないで寝た方が気持ちいいんだよ?」


 さも当たり前であるかのように言うライ。

 綺麗な金色の瞳を輝かせて、不思議そうに首を傾げる。


「それはそうかもしれないけど……」

「アリシアは脱がないの?」


 気が付けばライは全裸になっていた。


「うぅ……でもゼクスが来たら恥ずかしいし……」

「はだか見られるの恥ずかしいの?」

「そ、そうだね」


 アリシアの正面に立つライは前かがみで、アリシアの顔を覗き込む。


「アリシアきれいだから大丈夫だよ!」

「そ、そういうことじゃなくて! 男の人に裸を見られると恥ずかしいんだよ!」


 ニコニコと笑うライに、アリシアは照れながら言った。

 ライはアリシアの太ももをじっと見つめる。


「でもでも! アリシアも足だしてるよ!」

「こ、これはそういうズボンだからね!」


 ゼクスの目を引こうというやましい考えがあったことは、ライには言わないでおくアリシア。


「と、とりあえず寝よう――って、ひゃうっ……!」

「スゴイすべすべー!」


 アリシアの太ももを触ったライが、その触り心地にたまらず撫で回し始めた。


「やっ……ライちゃんダメだって……!」

「すべすべひんやりで気持ちいいー♪」


 あれよあれよという間に、太ももの間に顔を沈めたライ。

 アリシアは口を押さえて出そうな声を我慢している。


「ん……んんっ……!」

「すべすべつるつるー♪」


 アリシアは似たようなことが前にもあったような気がしていた。だが、その記憶を振り返ることを目の前のライが許してくれない。


「ほれほれー!」

「んっ! ラ、ライちゃん……! ほんとダメだってば……――――んぁあっ!」


 ライの手が勢いよくアリシアのズボンと肌の間に入っていった瞬間――アリシアは大きな声を漏らした。


「はぁ……はぁ……ライちゃん、それ以上は……ダメ……!」

「アリシアどうしたの?」


「……」


 なんで無自覚なの……と、ベッドに倒れ込むアリシア。

 残りの力を振り絞ってベッドの上に足を乗せて寝転ぶ。


「あー! アリシアずるい! ライも一緒に寝たい!」

「はぁ……はぁ……」


 先ほどまでの余裕がなくなったアリシア。

 その背中に全裸でくっつくライ。


「……(初日でこんなにされて、わたし耐えられるのかな……)」

「アリシア息があらいけどだいじょうぶ?」

「う、うん……」

「ん~?」


 ライが不思議そうにアリシアを見つめる。

 どうやら、本当に自覚がないらしい。


「――ラ、ライちゃん!?」

「アリシアのおっぱいおっきい!」


 背後から伸びてきたライの手。

 だが、アリシアの胸はその手には収まらなかった。


「こ、こらぁ……ライちゃん……ダメって言って……んっ……」

「すごいふにふにー! やわらかーい! 気持ちいいー!」

「あんっ……、いやっ……ライちゃんってばぁ……!」

「ほれほれほれー!」



 その後、ライが寝るまで揉みしだかれるアリシアであった……。

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