【コラボ企画第三弾】『きみと桜の木の下で』×『純白の魔法少女はその身を紅く染め直す』
細木あすか
序章:始まりはいつだって
クリスマス。
それは、恋人たちが寒い季節に寄り添い、甘い時間を過ごすイベント。
はたまた、大きな靴下をぶら下げ、架空の人物「サンタクロース」からプレゼントをもらうイベントのことである。
しかし、本来のクリスマスは上記2つとは少々異なるもの。
元々は、イエス・キリストの降誕祭として受け継がれている行事なのだ。たまに、イエス・キリストの誕生日だと言う人もいるが、それはまた別の日であることを覚えておこう。
と、堅苦しい説明はここまでにして……。
「太陽ぅー。今、大丈夫?」
「はい、姫さま。なんでしょうか」
「あのね、カップケーキを作ったんだけど。飾りつけどうしようかなって」
「…………えっと、どなたに差し上げるものでしょうか」
「ん、ん〜? えっとね。太陽と月と、相原くんと」
ここは、
現在の家の主である桜木
すると、リビングで掃除機をかけていた太陽はスイッチを切り、彼女の手に収まっているカップケーキに視線を向ける。
「……」
「太陽?」
綺麗な焼き目がついた、まるでお店に売っているような出来栄えのカップケーキである。しかし、太陽の表情からして何か事情がありそうだ。
でなければ、主人である彼女が作ったお菓子に敵意を向けるはずがない。
「い、いえ。……そろそろクリスマスなので、ツリーやジンジャーの模様をチョコレートで描くのはどうでしょうか?」
「あ、そっか! クリスマス!」
「はい。赤や緑色のチョコペンやマーブルチョコレート、アラザンなどがよろしいかと」
「うん、そうする! 太陽に相談して良かった。お礼に、太陽と月にはみんなのより大きなカップケーキあげるから期待しててね!」
「……おい、俺は関係な「わかりました! 楽しみにしていますね!!」」
と、太陽の身体から別の声が聞こえるも、すぐさまいつも通りの声に戻る。一瞬髪色も変わったが、今は元の白だ。
彼の名は、坂本
本来であれば、太陽が押さえ込んでいるため出てくることはない。……と言うことは、それを押してまで表に出て言いたいことがあったのだろう。
すぐさま、太陽によって強制退場させられてしまったが。
太陽の言葉を聞いた風花は、嬉しそうにキッチンへと戻っていく。
「……胃薬、どこにありましたっけ」
その後ろ姿を見ながら、太陽はポツリと呟いた。
***
場所は変わって、レンジュ国城に設置された演習場での出来事である。
「せえんせええええええええええええええええ!!!」
「ぅわぶっっっ!?」
……誤字ではない。文字通り、飛んできたのだ。物凄いスピードで。
無論、2人して地面に転がったのは言うまでもない。
「ちょっと先生! ちゃんと受け止めてくださいよ、か弱い女の子なんですからね!」
「か弱い女の子はこんな風に飛んでこないよ……」
「今時のか弱い女の子は飛んでくるんですよ。知らなかったんですか?」
「……はあ」
彼は、どう頑張ってもユキの口には勝てそうにない。ため息をつきながら先に立ち上がると、いつも通り真っ白なワンピースを身に纏うユキへ手を伸ばした。
今日は、風音にとって久しぶりの休日である。
忙しさにかまけて自主練が疎かになっていたこともあり、こうやって演習場へと足を運んだのだが、まあ、中断するしかなさそうだ。
諦めた風音は、足元に置かれていたガスマスクを手に取り、刺青の入った顔を覆い隠した。これがないと、彼の身体からは女性に害を出すレベルのリリーサフェロモンを制限なく撒き散らしてしまうらしい。
「で、用事は?」
「えっとですn「ユキー。風音さん捕まえた?」」
「げっ」
立ち上がったユキは、ワンピースの汚れを手で払い落しながら風音に話しかけようと口を開く。しかし、それは後ろから来たもう1人の人物によって遮られてしまった。
「げってなんだよ、風音さん」
「……お前が関わってるとロクなことがないんだよ」
「僕もその言葉そっくり返すよ」
「ちょっとー。2人して喧嘩しないでください!」
やってきたのは、何やら大きなプレゼント袋を持った
風音とは、「犬猿の仲」と言う言葉がこれほどまでにしっくりくる組み合わせはないだろうと思わせるほど、仲がよろしくない。……いや、普通にしていればそこまででもない。お互いの恋人が絡むと、話が変わってくる間柄というだけ。
無論、双方嫉妬深いので、周囲としては「またやってら」くらいの温度感で見守っているのが日常だ。
「はあ。せっかくの休日が……」
「何言ってんですか、先生! 教師に休日はないんですよ!」
「いや、あってよ。労働基準法って知ってる?」
「知ってますよ。可愛い生徒を担当する先生には関係ない法律でしょう?」
「……そっか」
と、ここでも口に勝てそうにない。
実際、ユキは見た目だけは可愛らしいのだ。
隣でアカネが笑っているのも、気に食わないらしい。面白くない風音は、キッと彼を睨みつける。が、まあ、効果は期待できるようなものではない。
「と言うことで、行きましょう!」
「え、どこに?」
「やだなあ。先生ってば、もうトシですか?」
「御年20ですが」
「私は12の美少女です」
「ユキ、多分風音さんに説明してないでしょ」
「あ……」
そうなのだ。風音は、何も聞いていない。
それに気づいたユキは、一瞬だけ「しまった!」と言う表情になるもすぐさまいつもの堂々とした態度に戻る。これも、一種の才能だろう。流石のアカネも、風音に同情するしかない。
「えっとですね、そろそろクリスマスじゃないですか。だから、その」
「……ああ。あっち行きたいってこと?」
「そうですそうです! やっぱり、先生は話が早い」
これだけで伝わったらしい。
風音の理解力は、知らない間にユキに鍛えられているに違いない……。
「クリスマスの飾りをたくさん用意したので、プレゼントしたくて」
「で、僕が荷物持ち」
「なるほどね。じゃあ、オレは扉開けるだけで良いか「何言ってんですか、一緒に行きますよ」」
「……ですよね」
ここまで、生徒に逆らえない先生が居て良いのだろうか。
ただの先生生徒の関係ならよろしくないが、ユキは風音の上司でもある立場。このくらいの無茶振りは、日常茶飯なのだ……。
「じゃあ、サツキに許可もらって「サツキちゃんには、今日1日先生を好きに使い倒して良い権利をもらいました」」
「抜かりねぇ……」
「はい、これ。以前置いてった太陽くんの上着も」
「…………抜かりねぇ」
と、恋人であるサツキを口実に逃げようとするも、八方塞がりである。
諦めた風音は太陽の上着を受け取ると、そのままユキの方へ向かって腕を伸ばした。
「じゃあ、行きますか!」
「はいよ」
「よろしく」
それに従ってユキも手をかざすと、すぐさま演習場をまるごと包み込むほどの眩い光が現れる。
初めて目の当たりにしたアカネは、その光に目を細めつつ、突如現れたゲートへと視線を向けた。……大きなプレゼント袋をしっかりと握りしめて。
「いざ! 風花ちゃんのところへ!!」
ユキの掛け声と共に、3人は光に飲み込まれていく。
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