異世界転移ファンタジーで宇宙戦争は無理~オタク知識で何とかなる?~

とまと

第1話

 異世界転生生活108日目。

 108は煩悩の数だとかいうけど、32歳にして異世界転移した俺の煩悩は一つ。この生活ずっと続けたい。

「さぁ、今日はどのチャンネルから見るかなぁ~」

 リモコンを手に……と言いたいが、あいにくと異世界にテレビなんてものはない。お決まりの剣と魔法の中世っぽいナーロッパだからな。

 んが、テレビのようなスキルが俺にはあるんだよなー。

 壁に設置した鏡に、この異世界の見たい場所を映し出す能力。

 名付けて鏡テレビ!って、名づけ下手くそか!

 いいんだよ、誰にも紹介する予定なんてないんだから。

 だって考えてみろよ?”エロチャンネル”も見放題なんだぜ?意味わかるよな?つまり、そういうことだ。

 ばれたら袋叩き間違いない。

 だからまぁわざわざ小さいけれど郊外の一軒家を借りて住んでるわけだよ。

 さ、昨日の続きを見るか。

 っと、その前に。

『コピー』

 朝の日課だ。目の前にある金貨をコピーしておく。

 ユニークスキル。『コピー』

 朝と晩、12時間に1回?物体をコピーできる。

 1回に1つしかコピーできないが、毎日金貨が2枚増える。

 ちなみに、使い続けるうちに能力上がってもっとたくさんコピーできるようになるかと思ったら、コピーできる物の大きさが大きくなるだけだった。初めは手のひらサイズのものしかコピーできなかったが、今は大きな冷蔵庫サイズまで行ける。

 増えた金貨を前に、ニヤニヤが止まらない。

「不労所得万歳!ぐははははっ!」

 働かなくてもお金が増えていく!なんと素晴らしい!

 金貨1枚が1万円くらいの価値。つまり、何もしなくたって2万円ずつ手に入る。贅沢しなきゃ、その辺の庶民よりは豊かな生活ができる。ってかさ、高い物が欲しけりゃ買わずにコピーすりゃ済むしな。パンみたいな安い物は逆にコピーせずに金貨を使った方が得する。

 まぁつまりだ。

 俺は、スローライフを楽しんでいるのだ。……まぁ、単にぐーたら生活ともいう。食って寝てテレビ見て1日過ぎる。時々買い物。引きこもり最高だよ!

 冒険者になりたい?あほらしい。楽して生きていけるのに、なんで仕事しなくちゃなんねぇんだよ。

 前世を思い出す。

 って、ちげーよ。死んでない。転生じゃなくて転移だし。道を歩いてたらマンホールのふたが開いてて落っこちたら異世界だったし。

 マンホールに落っこちるなんて馬鹿だと思うだろ?

 だけどな、毎日毎日朝9時出勤の終電帰りを続けてみろよ。時々意識飛ぶから。歩いてて意識飛ぶから。

 ブラック企業だと思うだろ?いやいや、好きでやってたんだよ。だって、めっちゃ夢のある仕事なんだぜ?民間でロケット飛ばそうみたいな下町でロケットをみたいなそういう夢。実物大ガンダルっていうロボットを歩かせようプロジェクトにかかわってたんだから。

 ま、俺は設計とかプログラミングとかそういう専門的な仕事じゃなくて、板金屋的な、外観、外装、そっち系。趣味でガレキ作りをしてた板金屋で抜擢された。……オタク趣味が仕事に直結。そりゃ、もう、夢のような1か月だった。

 置いまて、誰が瓦礫を作ってたって?違う、ガレージキットだよ、ガレキ、ガレキ!……って、美少女フィギュアみたいなやつ……ああ、そうだよ。実際ガンダルプロジェクトには関係ない技術だよ。でもオタクだから情熱を買われただけだよ。

 さて、鏡テレビ。残念ながらガンダルみたいなロボット物は見られないんだけどな。

「まずは、悪役令嬢チャンネルでも見るか」

 3日前に皇太子から卒業パーティーに婚約破棄を突き付けられた公爵令嬢。

「うーん、まだ今日も泣いてるのか……?」

 真っ黒な腰まで伸びた綺麗なストレートヘア。意思の強そうな少し釣った目。瞳の色は濃い紫色だ。口紅を差さなくても赤みのあるサクランボのような唇。肌が白いからあんなに赤く見えるのかな。

 とにかくすごい美人。

 婚約破棄を言われてからの彼女……サラは大変だった。

 もともと魔力過多で、体内の魔力が漏れ出さないように抑えながらの生活で苦労していたのに。

 突然婚約破棄を言い渡され、ありもしない罪を着せられたことで感情が乱れ、魔力が暴走。学園が吹っ飛びかけた。

「もう、ふっとばしちゃえよ!そんなクズ皇太子!」

 とか思ったのは内緒。

 だってさ、サラは何も悪くないんだよ。

 無表情で感情が分からない。冷たい女とか言われてたけど、感情で魔力が暴走するから。めっちゃ抑えてたんだよ。頑張ってたんだよ。

 日記にはさ、ちゃんとプレゼントが嬉しかった。とか、今度一緒に出掛けられるから楽しみ、何を着ていこう。とか、書いてるのを見ちゃったし。

 サラは誰も傷つかないように、魔力暴走で学園が吹っ飛ぶすんでのところで転移魔法を発動して、学園からも王都からも遠く離れた山奥へと飛んだ。

 人っ子一人いない、ドラゴンの巣の片隅で両足を抱えて涙を流し続けていた。

 まっすぐなストレートの髪が、まるで激しい静電気を浴びているかのように四方に立ち上がっていた。押さえきれない魔力が外に漏れていたのだ。

 地上最強と言われる生物であるドラゴンさえ、サラを恐れて近づかずにいた。

 今日も膝を抱えて泣いている。もう3日目だぞ?お腹空かないのかな。

 どうにも変化がないようなのでチャンネルチェンジ。

「その皇太子は何をしてるかと言えば……」

 ピンクのふわふわの髪の毛の、脳みそマシュマロかっていう聖女と「あーん」とか言いながらケーキを食べていた。

「いや、まじ、なんでふっとばさなかったの?クズ皇太子」

 ピンク頭は、メリシャ。男爵令嬢で、癒し魔法が使える聖女らしい。

 メリシャの正面には皇太子。右側には宰相子息。左側には将軍子息。斜め右前には隣国の第三王子。左前には別の隣国の王弟。さらに後ろには伯爵令息×2、侯爵令息×3が立っている。

 見事な逆ハーレムを作っている。信じられるか?なんで皇太子の狙ってる女を狙える?普通は身を引くというか譲るだろ?

 それが誰もあきらめずにメリシャを取り囲んでるんだぜ?いったい、メリシャのどこにそんな魅力があるのか!

 まぁ、可愛いよ。美少女。でもな、可愛いだけで人生棒に振るほどのめりこむか?

 俺は思ったね。メリシャはくそビッチで、体の方が特に最高なんじゃねぇのかと。でも、誰とも寝てないんだ。身持ちが硬いんだよ!信じられない!エロチャンネル期待してずっと監視して俺の時間を返せ!……ごほん。

 まぁ、もうこいつの逆ハーはどうでもいい。

「次はどのチャンネル見ようかな……」

『ナーナ右前方5mに氷魔法を打ち込んで!エース、後方に注意、ミーヤはゴブリンロードに集中』

 戦闘チャンネル。うん。このパーティーは安心して見られるんだよな。

 連携もうまく、先読みでもしているのか無駄な動きが全くない。モンスターにやられる心配せずに戦闘が見られるのはありがたい。

 ぶっちゃけ、人が死ぬのを見るのは気が滅入るし、死なないまでも黒焦げになったり腕が食いちぎられたりとかスプラッタは勘弁してほしいんだよ。

「いいぞー、がんばれー!危ない!壁に擬態したやつがいるぞ!」

『エース、左の壁』

 そうそう!よく気が付いた。

 30分ほどダンジョンで戦った後に、ドロップ品とモンスターから回収した魔石を持ってパーティーがダンジョンを出てきた。

『エルク、お前をパーティーから追放する』

 え?ちょっと待て、何を言っているんだ?

『前から思ってたのよね。あんたさ、人に指図ばっかりで、全然戦わないじゃん』

『そうそう、戦力になってないくせに、しっかり報酬もらうのとかずるくない?今日なんて、何回支援魔法使った?』

 ちょっと待てよ、待ってくれよ!いったい、俺がチャンネルから目を離している間に何があったんだ、なぁ、おい!

 安心して見られるパーティーだったのに!もう、おしまいだ!

 お前らなぁ、エルクは指図してたんじゃねぇ、的確な指示を飛ばしてたんだ!

 エルクあってこそ、支援魔法なんかに頼らなくても、難なくダンジョンを攻略してくことができたんだぞ?

 なんで、それが分からないんだぁぁぁぁ!

 エルクがとぼとぼと歩き始めた。

 頼むよエルク、新しいパーティーに入って活躍してくれよ!俺はお前を追いかけるよ。

『やっぱり、僕は冒険者には向いてないのかなぁ。ろくに戦えないし、支援魔法といっても……大した魔法も使えないし……』

 ああああっ!心が折れてる!心が、折れてる!

「エルク、俺はお前がパーティーに必要な人間だって知ってるからな!俺は、知ってるからなぁ!」

 鏡テレビを両手でグラグラとゆすりながら、画面のこちら側で涙を流して話しかける。いや、伝わらないけど。

 立ち去るエルクの後姿を見つめる。冒険者辞めたりしないで!

 なんかダンジョンからナーナとエースとミーヤの悲鳴が聞こえ……スプラッタは苦手なのでチャンネルチェンジ。

 落ち着こう。

 はぁ。

『カーン、コーン、カーン』

 ハンマーで金属を打ち付ける音が耳に心地いい。

 板金屋だったから。こういう音聞いてると落ち着く。

 鏡テレビに映っているのは、いかにもドワーフって容姿の、おひげがふさふさしたずんぐりしたおじさん。

 仕事は丁寧ですごくいい剣や防具を作るんだけど。

『あかん。魔力が切れたわい』

 ……めっちゃ魔力が少ないのが玉にきず。……じゃなくって、致命的な欠点なんだよね。

 板金屋目線では、ハンマーを振り下ろす位置、力加減、思った通りに金属を形作っていく姿。もちろん鍛冶と板金は違うんだけれど、一目見ただけで「師匠!」と言いたくなるくらいの人物。

 んが、魔力を通して作るからこそ、冒険者がモンスターとの戦闘に耐えうる武器や武具が出来上がる。ただの金属じゃぁ、あっという間に傷つき壊れてしまう。つまり、魔力が切れたらもう、武器も武具も作れない。いや、作っても初期装備レベルのものが出来上がる。売っても大した金額ではないので、金属を仕入れるお金にも事欠くのである。

「師匠……腕があるのにもったいない……」

 明らかに貧乏生活。今日も一番安い干し肉をかじって水を飲む。

『酒が飲みたいのぉ……』

 おごってあげたいです!師匠!

 さて。次は何を見るかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る