第8話 恐竜たちの夏
最後の質問では、最初の攻撃に使用されるものが細菌なのかウイルスなのかを切り分けた。予想通りウイルスだった。
材料はそろった。俺たちはカリスの人類絶滅のシナリオを次のように推理した。
非常に感染力の強い致死性のウイルスが、カリスの精神操作を受けた人間により遺伝子操作で作り出される。
そのウイルスによるパンデミックが発生し、人類の大多数が死亡する中で、ワクチンが開発される。
ワクチンは、接種漏れした集団からの再感染を防止するため、国連及び各国政府の緊密な連携の基に、生き残った人類すべてに強制的に短期間で接種される。
ワクチンはDNAまたはRNAを成分とする、(ここに回答を1問使うこととなる)もので、本来は細胞内でウイルスのたんぱく質を合成し、ウイルスに対する免疫反応を賦活するものだ。しかしワクチンに含まれる遺伝子は精神操作を受けた人間により置換されている。
細胞内に注入された遺伝子は、接種後、数か月のタイムラグを経て致死性の反応を起こし生き残った人類を滅ぼしてしまう。
最初の回答でRNAワクチンと答えて否定され、2回目の回答でワクチンの種類をDNAワクチンに変えてカリスの判定を待っている。
「どうです? 当たっていますか? いませんか?」
「……もう少し待って、今、細部を判定している。致死性の反応の内容まで答えてもらおうかしら?」
「ちょっと待って! 聞いてません! そこまで詳細に答えるとは‼」
思わず3人とも腰を浮かした。画面には安田とユメコの胸のあたりが映っている。
「冗談よ。判定が今、終わったわ!」
「……」
「……」
「もう待ちきれません!」
「……」
「正解よ!」
『やった‼』『先輩、やりましたね‼ 最高です』チャットにユメコからのお祝いの絵文字が満載のメッセージが届いた。安田の画面、ひっくり返って天井が映っているようだ!
カリスの言葉が淡々と感想を告げている。
「この星は、前回の粛清戦争の末期に発見され、小惑星を衝突させて滅ぼす対象となっていたの。直径100㎞の小惑星が手配されたけれど、輸送の途中で砕けて13㎞の隕石になった為、多くの生命が生き残ったようね。恐竜を滅ぼしたチクシュルーブ隕石のことよ」
「カリスの監視は解けるけれど、凡そ1億年後に次の粛清戦争の為にドゥーハンが覚醒するわ。それまでは、恐竜たちには訪れなかった夏を楽しみなさい!」
「カリス、とんでもないファースト・コンタクトだったけれど、とても感慨深いものがある」
「そうね、楽しかったわ。もう2度と会うことはないでしょう…… さよなら」
『カリスが会議室から退室しました。』とのメッセージが表示され彼女の画面が閉じた。
会議時間は58分だった。
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