第11話 夢に焼きついた彼女の横顔
暗く人影だけが薄らと見えるテントの中。
電灯ランタンが彼女にとって、唯一の希望となっていた。
「ごめんなさい。まさかそういう話だったなんて思わず...」
彼女の震えた体に手を伸ばし、申し訳なさそうに顔を覗く館宮さん。
《ガクガクガクガクガクガク》
耳を塞いでこの世界を完全に
〜遡る事10分前〜
「ねぇ、少し聞いてもいい?」
「ん?おぉ、いいよっ」
「さっき、恐らく同じクラスの子に聞かれたのだけれど」
「(えっ...委員長。もう入学して3ヶ月が経ちましたよ?)」
「私にはその内容が全く理解ができなくて...」
「ほほぅ...よし、話してご覧なさい。親友のあたいが聞いてあげんしょう」
「(あっ。親友だったんだ)実はね、、、」
ある日、1人の女の子が急に皆から無視されるようになったらしいの。
でも、その子は特に無視される事をした覚えもなけりゃどちらかと言うとクラスの中心グループだったらしくて、
「(あ〜なるほどね。まぁ、自覚無く傷つけちゃう事って結構あるもんねぇ...それに中心にいた子程敵に回されちゃったりとかよく聞くし)」*ノベル参考
その子は自分が何かしたかと聞いても無視し続ける周りに、色々な工夫をして何とか話してもらおうと何度も会話に入ったり、耳元で話してみたり、一緒に笑って
「(おっ。やっと...)」
ようやく目を向けて話してくれた彼女に、どうしてこんなに無視されていたのか聞こうとしたら、何故かその子は急に泣いて謝ってきたらしくて...
「これどうしてだと思う?って聞かれたの」
「えぇ〜、ん〜〜。普通に無視してごめんねって事じゃ無くて?」
「私もそうだと思ってそう聞いたら違ったの」
「え〜じゃあ何だろう...」
「あっ、後ヒントでこうも言ってたわ」
「え?なになに?」
そのクラスでは1年の間に
「・・・・・・え?」
「え?」
彼女の顔が一瞬にして凍りつく。
「それって...もしかして、さ」
「え、もしかしてあなた分かったの!?」
前のめりで間を詰めてくる館宮さんとは対照的に、彼女は全てを悟ってしまい考える時間が増す度血の気が引いてゆき、小刻みに体が震え出す。
「多分...いや、もう絶対そう」
「凄いわねあなた。私今だに何だか分からないわ」
彼女は震えた声で事の真相を館宮さんに説明した。
〜そして今に至る〜
少し時間を置き、ようやく体の震えが止んで落ち着いてきた彼女。
「大丈夫?」
「ぅん...」
あまりの怖がり具合に館宮さんも、いつも以上に優しい口調で背中を
「あっ、そういや関係無いんだけど、この話を聞いた子の事どうしても思い出せなくて、名前聞いてさっき調べてみたら名簿の
「誘希??もう分かったからその話それ以上話さないで?」
「ご、ごめんなさい...」
その彼女の殺気走った目に、館宮さんが珍しく彼女より頭が低くなった瞬間だった。
---男子テント---
「ねぇ。涼哉...」
「ん?何?」
寝袋に身を覆い、灯りの消えたテント下で薄らと見える骨組みを見上げながら、
「涼哉ってさ...好きな人とかいないの?」
死んだテンション
「あ〜居るよ?」
「だよね〜......え!?マジですかいなん!!?!?」
「どこの言葉それ」
あまりの驚きに、寝袋で身動き縛られてる中腹筋だけで上体を起こして興奮する俺に、冷静なツッコミを入れる涼哉。
「まぁ。好きな人くらい居るよ〜俺も」
中学の時からこういった宿泊イベントや家に泊まりに来た時に毎回、好きな人話を振るも一貫して会話がそこで終わる為、今回も最早作業の様に聞いた恋バナ。
「だっ...誰??」
初めて踏み入るこの会話の先に、息を
「...花澤さん」
「・・・えっ?」
その脳の死角から聞こえた突然の呼び名に、俺は思わず声が詰まる。
もう初夏も過ぎ、夏も日暮れに差し掛かるも夏の虫が鳴く度、暑さが増していくように感じる熱帯夜。そんな中、俺はこの一瞬。冷たい汗が
「後、館宮さんも好きっ」
「...はい??」
「家族皆も好きだし、サッカー部の皆もちょー好き!」
「はぁ...」
俺は大きく息を落として吐いた。
「あっ、勿論。功樹も大好きだぞっ」
「あっ。ごめん...一回頭突きしていい?」
「ごめんごめんっ」
涼哉は楽しそうに笑い謝るも、そこからは反省の色など
「はぁ〜〜。やっぱ功樹は最高だね」
「嬉しくねぇ」
顔を
「それで?どうだった?」
「何が」
「ヒヤッとした...??」
「なっ!?してねぇよ!!」
綺麗に転がされた俺を更に笑って茶化す涼哉に、俺は思わず大きな声が出る。
「へぇ〜あれだけ夢子さんが一番って言ってたのに、薄情なやつだな〜」
「俺は今でも夢子さん一筋だ!」
「ふ〜ん。ちなみになんだけど俺が花澤さんの名前出した時、功樹の中で夢子さんの事一回でも頭
それを見た涼哉がまたも笑いながら、呆れてそれが愛くるしいような口調で語り掛ける。
「ほんっと功樹は分かりやすいなぁ〜」
「んんん〜〜〜...うっせぇえ!!」
こうして自分でも薄々気付いてた感情を、改めて突かれるとこうも恥ずかしいのかと、首から上を赤くして重々思い知らされた1日目となった。
---7月8日---
~月曜日~林間学校2日目〈昼〉
その上で焼かれる香ばしいウインナーの香り。
「あぁ〜!もう何で、そ・う・な・る・ん・だ・よ!!」
俺は今、珍しくキレていた。
「いや〜あたい料理はからっきしでさ...」
皿に移された焦げて丸く縮こまってもはや墨と化した玉ねぎを手に、何故か照れくさそうにする彼女。
『コンロとフライパンを使い、目を離した一瞬で起きた玉ねぎ焼死事件』
「功樹〜出来たよ〜」
まな板の上に綺麗に並べられた、厚さ0.1m程のにんじん。そう、にんじん。
満足げにお手を覚えた子犬のように、褒めを待ちわびる涼哉。
『皮剥きを頼んだ
《ズドッ》
《ズドッ》
《ズドッ》
机に転がるカボチャ1玉を、色んな角度からグサグサと包丁を刺し込み、串刺しになったガボチャを見て首を傾げる館宮さん。
「......駄目ね。全然実を開かないわ、このカボチャ」
『包丁持たせた俺が悪かった。
「もうストッープ!!!今すぐ皆手洗って席着いて座ってて!もうお願いだから食材に触れないで!!」
必死に心の叫びを叫ぶ俺に、皆はションげりと席へと移動していく。
「(はぁ...こういう事ならカレー選ぶんじゃなかった。隣と同じ置いて焼くだけバーベキューにしておけば、きっとまだマシだった)」
バーベキュウーとカレーの2択を間違え後悔しつつ、俺は母直伝カレーの調理へと取り掛かる。
~30分後~
座る3人の長机に並べられた真っ白な皿。
「えっ...」
現状に困惑して言葉を詰まらせる彼女。
「嘘っ...あり得ないわ」
口を手で覆い、彼女と同様何が起きたのか理解できていない館宮さん。
「やばいね...これ」
珍しく
それは——
「「「(((気付いたらカレー食べ終わってたんだが!?!)))」」」
彼、彼女達の記憶は運ばれてきたカレーのスパイシーな香辛料と共に糸切れ、戻ったのはカレールーの跡形も無い綺麗な皿を目にしてからだった。
「どう?やばいでしょ
腕を振るった渾身のカレーの感想を聞こうとするが、3人共記憶は無くとも膨れたお腹と謎の満足感に浸り、あんぐりと空を眺め茫然状態が続いていた。
嗅いだら終わり。目にして瞬殺。
そうこれが今日最大の事件。
『あれ?私何食べたっけ...謎めく薬物並満足感。味とカレー記憶疾走未解決事件』
「お〜い、感想は〜?」
「あっ、あぁ!美味しかった美味しかった!」
「え、えぇ。ほんと、記憶が飛ぶくらい美味だったわ」
「あっ...やばい。スプーンに残ったカレーの残香でまた意識がっ~***~」
「ちょっ、しっかりしなさい!って、あれっ?...何だか私まで~**~」
「おい!だいじょうぶ...かっ...~**~」
たわいも無い会話。いつもは考えもしない風の音。自然と焼き付く記憶の風景。
この時、カメラのように鮮明に切り取られた光景と未来まで根付き何度も鼻から呼び起こされる空気の匂い。耳に焼き付く会話の記憶は、この先の何十年後もふとした瞬間、まとめて脳裏に走り。思い出というベールを
未来、
そんな事を今の俺が考えれたのは、ほんの一瞬で。
時は待ってはくれず、空を茜色へと染められていった。
夕日は沈み。顔は見えずとも薄く残った夕焼けの僅かな灯りを頼りに、用意された木々を四方形になるように積み上げていく。
3泊2日の林間学校も、もうこれで締め括り。
一番の定番でありメインなる
「キャンプファイヤー。一緒に見ないか?」
つい数分前。
彼女から通り過ぎに流れるように交わされた約束。
「おっおう。いいよ」
突然の誘いに俺は言葉を詰まらせながらも頷いた。
一昔前。いや...それも定かで無い昔の
この地で起きた領土を巡って起きた戦。その戦いの
あるいは、昨今
この地では様々な根源の噂が飛び交うこのイベント。今となってはただ火を眺め、何となくそれを囲い火花より少し
そんな現在。ここ数年もう人は根源などには関心を持たず、新たな効能の噂だけが現地から各地へと飛び交っていた。
「ねぇ知ってる?」
「え?」
約人1人分程の
名前の通り、黒の大きく分厚い
しかし...
「時々ニュースでも噂。
「...あっ。へぇえ〜!そうなんだ!」
かなり話し方の癖が強い。俺は未だに丸ノ内君と会話のキャッチボールが出来た試しが無い。
「(言ってる事は分かるんだけどなぁ〜...上手く会話に続けない)」
ここ最近の俺の小さな悩みのひとつである。
鈴虫達が羽を擦り、夏音を弾きだした頃。
僅かに人影見えていた薄い夕灯りはもう、明かりがないと見えない程に沈みきり、涼しい夜風が山の頭上を掠るように靡いていた。
井の字に高く積み上げられた薪木の枠組みの中に小枝が詰められ完成した土台。
それを囲う形で約120名の生徒が円になりそれぞれ
そして——
隣には花澤 栞。彼女がいる。
いつもなら、意識する筈もない彼女との距離感。それが場所と状況が違うだけでこうも話せなくなる事を初めて知る。
「「・・・」」
ウィンカーを出して停車する僕たちの前を、時速80キロで飛び交う生徒達の笑い声。ここを平坦な下道だとするならば、車線を
「(流石にこの間はまずい...友達の妹と2人きりのエレベーターくらいに気まずい!何か切り込まねばっ...何か、何か話題をっ)」
「で、でかいな...手」
「え?」
俺より数秒早く
「そ、そう?俺男の中では結構小さいって言われるんだけど...」
「あっ...そうなんだ!」
「「・・・・・」」
「あっ」
「手相!手相見てあげようか?」
またも彼女にコンマ数秒の差で話負けてしまうも、俺は無意識に心内ホッとしてしまう。
「う、うん!」
もっと『へぇ〜手相見れるんだね』とか『どっちの手がいいとかある?』やら話を広げられた筈にも関わらず、何故か俺はそれら全てを頭の中へと仕舞い込み。二つ返事で返してしまう失態。同時に広げる右手の後悔。
「ん〜とねぇ...」
広げた右の掌をジッと見つめる彼女。
「そうだな〜...え〜と。...うん!いい感じだ!」
「あっ、よかった!」
冴えないツッコミ。食い付いた竿をそのまま海へと投げ込む所業。
どうやら以前まで俺の中に在住していた勘は、現在出張中らしい...
何がどういい感じで何が良かったんだよ。苦し紛れに脳内で自分と彼女へとツッコむ。
「「・・・」」
そして三度訪れる沈黙の間。すると突然——
「おぉ〜!!」
隣の男子生徒が大きく声を上げる。
その声から秒も無く周りがそれに続く。
俺達はその彼の声の真意を考えるより先に、頬にあたる暖かい光の元へと目を奪われる。
波々と遥か頭上で燃え上がる炎柱。それを支える薪々から鳴る火花散る音。
迫り来るような熱気と混じり感じる優しい温かみ。どこか懐かしく、触れるにつれ落ち着いてしまう耳触り。しかしながらそれと同時に肌を震わせ、熱が昇る程の圧巻なる威圧的感動。それに伴う言葉の自失。棒立ちの心。
「「すげぇ...」」
彼女の胸の奥底から出たような声が、俺の声と四隅綺麗に被さる。
「なぁ...」
「なに...?」
目を奪われた彼女が、心を置いて徐に口を開く。
「またさ...来年、見よう。...これ」
「1年だけだよ...?ここ来れるの」
口を一度も閉ざさず虚で話す彼女は、俺の言葉に耳を貸そうとせず
「やろう...夏、絶対」
「...そうだね」
長い
「約束...」
その綺麗な言葉と共に、初めてこちらを向く彼女。
胸元まで寄せられた彼女の小指を立てた小さな左手。
自然と引き寄せられ上がる俺の小指と右腕。
交差する二人の小指。
曲げれず止まった俺の小指を、彼女がそっと優しく結び込む。
力の抜けた俺の小指は、そのまま彼女の優しさにもたれて倒れる。
触れ合う体温、高鳴る鼓動。
交える指先から伝わり聞こえてるんじゃないかと不安になる。
そんな中、目の前の光景を見て浮かぶひとつの感情。
この長くも短かった林間学校。
色んな話をして、たくさんの時を共にした。
寝れない前日、寝落ちのメール。
広大な自然に囲まれながらの皆でご飯。
婆さん達の癖の強さに困惑した初めてのランタン作り。裏主任の存在。
夜に浮かび上がる数百ものランタンの灯りと同じくらい記憶に残る
館宮さんのラーメンに浮かぶフルーツポンチ。
涼哉だけが盛り上がった夜でのテント。
2日目にして知る、皆の壊滅的調理センスと伝説の4大事件。
丸の内君。
そして、彼女と交わした夏の約束。
この2日間での出来事は、これから先自分を突き動かす思い出として、人生に刻み込まれるだろう。
こうして、
彼と彼女の林間学校は、この一言に尽きて幕を閉じた。
あぁ...ほんと。
「「((キャンプファイヤー最高...))」」
2人の頬は、今も“熱く”焼けている
【ある日の番外編】
〜職員室での日常会話〜
龍円寺先生(うちの担任)
小森 奈々先生(隣2組担任)
奈「...」
龍「...」
奈「...すごい今更なんですけど」
龍「えっ?何?便秘?」
奈「
龍「あぁ〜。まあ、色々。朝起きる時とか通勤中とか、飯やトイレとかでよく...ね?」
奈「え?先生のよくがよく分からないんですが...」
龍「あれだよ、例えば朝アラーム止めようとして突き指とか」
奈「先生の指はアスパラかなんかですか?」
龍「トイレの便座に勢い余って
奈「どこで勢い余ってんですか...」
龍「あ、あと夜寝ながらスマホ見てたら落ちてきて突き指とか」
奈「JKか。...なぜに突き指!!??!」
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