第6話 名前と噂の夢




俺たちは、閉じ込められた・・・



「......未帆さあぁぁあああん!!?!??」

俺は慌てて扉の前まで行き、ドアノブを回し引く。

「...開かない」

そう彼女の方へと投げ掛ける。頭を抱えた彼女はゆっくりと顔を上げ、小さく呟く。

「油断した。まさかここまでしてくるとは」

「どうしよう...」

額から変な汗が流れ、頬をつたう。

「諦めるしかない...この部屋にあった鍵はもう未帆さんが没収済みだし、力尽くで開く様な扉でもない。詰み...だな」

そう言う彼女に俺は同様、諦めるしか他無かった。

彼女はそのまま椅子に腰掛け、一息つく。

「俺。ソファーで寝るよ」

「当たり前だ」

「(即答...まあ、これだけ広い部屋だとなんか一つの部屋って感じしないし、大丈夫か。それにこれが初めて女子とのお泊まりって訳じゃないし...小さい頃よく妹と同じ部屋で寝てたしっ)」

動揺する自分を落ち着かせ、小さく深呼吸をする。すると、扉下に落ちた一枚の紙切れに気付く。

「(ん?何だこれ...?)」

拾い上げ見てみると、真っ白な紙に部屋の明かりが当たり、何やら黒いインクが透けて写る。どうやら裏面に何か書かれいるらしい。俺は何かと思いひっくり返す。



そこには——



———————————————————


これにて本日の

私のお役目は以上となります。


また日が昇りましたらお会いしましょう。


イチャコラ♡チュッチュッ♡   未帆

———————————————————




俺はそれを一瞬にして丸め、ポケットに突っ込んだ。


「はあ、はあ。...何言ってんだあの人っ...‼︎」

「どうした?」

それを不思議そうに見つめる彼女。

「あっ、いや!ちょっとゴミが落ちてて...」

「...そうか」

「うんっ...(危ねぇ〜...きっとこれを見られたら、またあの理不尽なビンタを喰らう所だった)」

何とか誤魔化せ、汗を拭う。

すると彼女が大きく背伸びをし、眠たそうに口を開く。

「もう寝るわ...」

「そうだね」

時間はもう夜12時を回ろうとしており、俺も流石に微少ながらも眠気が襲う。

「少し...目、つむってなさい」

「え?...どうして?」

彼女の急な要望に、さっきの未帆さんからの置き手紙が頭を過ぎる。

「いいからっ!」

「はっ、はい!」


俺は言われた通りに目を瞑る。が...意識せずにといようとも、思春期男子出来ぬもの。手紙のせいもあり意識が敏感に働き、心臓が細かく鳴り打つ。


「(こっ、これってやっぱり、あれ...なのか?アニメ展開的にもこれは、あれ...なんだろうか。いやいやいやっ...そんな急展開があるわけ。それに俺にはもう心に決めた人が...)」

心の中で葛藤する中、俺の目は開こうとしなかった。

そんな中、彼女は何やら物音をたて引き出しを開け引きしていた。

「あの〜もういいですか?」

「まだだ」

そう言われ、大人しく座って待っていると、椅子の引く音がし足音がこちらへ近付いてくるのが分かる。

「(え...こっちに来てる?どうしよう...流石に目を開けて断るべきか。...いや、でもまだそうと決まった訳じゃないし)」


俺はほんの少しだけまぶたの隙間に光を加え、近付いてくる彼女の足元を見ながら心は葛藤するも、体はもうその空気に身をゆだねていた。


「(近付いてくる..こっちに、段々と、距離が、近く...‼︎)」

徐々に高鳴る胸に合わせ、俺は瞼の隙間を閉じて身構える。

「(・・・あれ?逸れた??)」

彼女の足音は目の前でくるりと方向を変え、左へと逸れて行く。


俺はまた瞼に隙間を作って状況を確認しようとしたその時——


隙間から見えてた明かりが一瞬にして真っ暗になった。


「もういいよ」

「えっ...」

突然消えた明かりに戸惑いながらも目を開けると、見渡す視界は薄暗く、ベットの枕元にある淡いオレンジの常夜灯が部屋に僅かな光を与えていた。辺りを見渡しても彼女の姿は無く、ベットの隅が山形に膨らんでいた。

「はぁ...(一体、俺は何を期待していたんだろう)」

「結局今の何だったの?」

「何でもない」

「何じゃそりゃ...」

彼女はベットに横になり、そっぽ向いたままそう答える。



「・・・・・・」



「(...寝よう)」

何も喋らなくなった彼女との少しの沈黙の後、俺はソファーに横になり目を閉じた。



              ◯

              ◯

              ◯

              ◯



滝宮功樹16歳。女子の匂いがする部屋に女子と2人きり。

言うまでもなく中々寝付けずにいた。


「(んんん〜...寝れん。ソファーはめっちゃ寝心地良いのに...)」


すると、ふと1つ気になることが頭を過ぎる。

「(そういや、彼女の家族にまだ一度も会ってないや...家にお邪魔させて頂いてるのに挨拶も出来ていない。挨拶とお礼の出来ない奴はクソだと、パート帰りの母さんが言ってた)」

もう寝たかと様子をうかがいつつ、小さく声を掛けてみる。


「「あのさ」」


「えっ」

とてもタイミングよく2人の声が重なり驚く。

「あっ。ごめん何?」

動揺しつつも彼女に用を聞く。

「いやっ、何でもない。どうした?」

彼女もあまりに重なったタイミングに驚いたのか、取り下げ質問を返す。

「あ〜、いや。大した事じゃないんだけど、ちょっと気になったと言いますか...ここに来てまだ一回もご両親に挨拶してないな〜って...」

そう聞くと何処か、空気が重くなったような感じがした。

彼女は少し間を置いて口を開く。


この時の俺は、彼女が言葉にする前にもう分かっていた。踏み込んではいけない一線だと...彼女の口から話さしてはいけない言葉だと。だが、この刹那せつなの間で俺はそれを止める事は出来ず、ただその後悔に気付く事しか出来なかった。


いや...疑問を抱いていまった時点でもう俺は、片道切符を手にしていたのだろう。


「実は、小さい頃両親2人共、交通事故で亡くなったんだ」


「えっ...」

「未帆さんは住み込みじゃ無いから夜には帰っちゃて、今はあたいと婆さんの二人暮らし。まあ、その婆さんも最近は仕事場に泊まっててあんまり帰ってこないんだけど...」

「...そう、なんだ」


俺は何て言葉を掛けたらいいのか分からず、ただ。そう答えるしか出来なかった。

重くなった空気を気にしたのか、彼女が慌てて弁明する。


「あっ。でも全然辛いとか、寂しいとかじゃないからな!もうこの生活にも慣れっこだし」

「......」

「おいっ、なんか喋れよっ」

「また...」

こんな大きな家に夜一人で居る事が、寂しくない訳が無い。親がいないのが辛いはずが無い。俺が彼女にしてやれる事なんてたかが知れてる。たかが知れてる...だけどっ、俺はそれでも、そのたかが少しでも...彼女の力になってあげたい。心の底からそう思った。


「また、遊びに来ても...いい、かな?」


その言葉に彼女は一言。少しの間を置いて答える。


「...特別になっ」


そう口にした彼女の声は、背中越しだが少し明るく聞こえた気がした。





「んっ、へえっ...へぁあっくしゅん!」

少し冷えたのか、空気の読めない特大くしゃみが俺の口から盛大に吹き出る。

「えっ、大丈夫?風邪か...?」

彼女が体を起こし心配そうに覗く。

「ん〜、多分大丈夫。少し冷えただけだと思う」

鼻をすすりながら答える俺を見た彼女が、自分のベットと俺の寝るソファーを何度か見比べて少しの沈黙の後、口を開ける。


「......こっち、来るか?」


「ひぇ?」

その思わぬ発言に俺は声が裏返る。


「風邪...引かれても困るし。毛布一枚しかないし。端っこだけなら...」

「...いいのか?」

「寝相悪くないならなっ」

そう言い残し、彼女はベットに入り横向きになって毛布を肩まで被る。

「(...悪くは、無いけど)」

このありえない状況の中、許可されたものの揺れる葛藤が脳を駆け回ってしばらく動けず。そのまま10分が経ち、ようやく覚悟を決めてベットに恐る恐る足を入れる。


「(さっきまで自分が寝てたベットなのに、何でこんなに緊張するんだ...)」

大きく低音が響く胸の音に冷えていた体の温度はみるみるうちに上がっていく。

ベットに入り毛布をゆっくりと肩まで持ってくる。


「どれだけ時間掛かってんのさっ」

起きていたのか、彼女が溜息混じりでツッコむ。


「わっ。起きてたのか...」

「だって、まだ私の話終わってないし」

「え?」

俺は完全に何の事か忘れていて、彼女に言われてようやく思い出す。

「ここに来た理由!何忘れてんのさっ...」

忘れていたのに腹を立てたのか少し強めな口調で言う彼女。

「あ〜!(確かあの時、何か言おうとした彼女の前に未帆さんが部屋の鍵閉めたせいで、結局何か聞けなかったんだ)」

背を向けた彼女は、今思い出した俺に大きく息をつく。


「ごめんごめん。それで、何だったの?」


「......」


「ん?」

聞いても何故か彼女は黙ったまま。


「.........」


「え〜っと」


 ・

 ・

 ・


数分の沈黙の後、ようやく彼女が口を開く。


「......呼び方」

「えっ?(寝たかと思った...)」


「名前...栞......」

「名前?」

この時の俺は彼女が何を伝えたかったのかよく分からず、それに痺れを切らした彼女が声を張る。


「呼び方!...栞っ!」

「呼び方...あっ。ぁぁああ!名前ね!」

ようやく彼女の伝えたい事が理解でき、彼女は疲れたのか大きく息を吐く。


「はぁぁ。『友達』なんだろ?名前で呼ばないと変だろっ」

その言葉に、俺はとても胸が熱くなり、今日の記憶がまた鮮明に頭を過った。



「彼女に...彼女に触れるなっ!!」

「あぁ?何だテメェ」


「あんたっ...なんで」


『俺はっ...彼女の《友達》です』


あの時言った事、ちゃんと届いてたんだ...



そう思うと、何故か涙が溢れて止まらなかった。

「ぐすっ...うぅ。ぐすっ」

今日一日。きっと今の今まで張っていた気持ちの糸が、彼女の言葉でプツンと切られたように、溢れ出す涙を必死に袖で拭う。


「え!!何!?もしかしてあんた泣いてんの?!」

「泣いで..な”い”」

「泣いてるじゃない!えっ、なんで。なんか傷つくような事言った!?」

突然泣き出す俺に流石の彼女も慌てふためく。

「ぢがう...ただ嬉じくて。ありがと゛」

「えぇ〜〜〜〜。そんなっ...助けられたのは私の方でっ。こちらこそありがとっ...ん?こちらこそって合ってんの??あれっ...?」

「ありがどう......ありがと...」

「あぁ〜!それ以上言うなっ!!私のキャラが崩壊する!!!」

「ありがどっ...」

「あぁ〜!!もう分かったから!どういたしまして!!」




そんなこんななやり取りが、数分に渡り続き。ようやく落ち着きを取り戻した2人。



「ごめん。取り乱した...」

涙を拭き、ベットの端に仰向けに寝る彼女に鼻を啜った様な声で謝る。

「はあ...疲れた。もうこれっきりにしてくれ」

そう、ひたいに手の甲を乗せ疲れ切った様子で頼む。


俺は毛布を剥ぎベットから体を起こして正座を組み、彼女へと視線を送る。

「え...何?」

突然起き上がった俺を、頭を枕から少し浮かして不審がりながら見つめる。

そんな彼女の目を真っ直ぐ見て、俺は友達としての初めての言葉を交わす。



「よろしく...栞」



それを聞いた時の彼女の顔は暗くてあまり見えなかったけど


「おっ、おぉ...よっ、よろしく」

彼女は珍しく、あからさまに動揺しているのだけは分かった。


「んっ...」

俺はそのまま正座して彼女の言葉を心待ちにする。


「えっ?」

まだ何のことか分かっていない彼女に俺は優しく答える。

「名前...あるんだけど...??」

「っつ〜〜〜...分かった。分かったから」



こうして、〈俺〉滝宮 功樹と〈彼女〉花澤 栞 は正式に



「よろしくっ......功樹」



《友達》になった







---4月21日---


~水曜日~




日が昇り、朝日が差し込む。


「くしゅん...んっ。うぅ、さむっ」

あれからいつの間にか寝てしまってたらしく。目が覚めると何故か、ベットから転げ落ち床に丸くなっていた。


「おはようございます。功樹様」

転がる俺に、朝からにこやかな笑顔を放つ未帆さんがしゃがんでこちらを覗く。


「おはようございます...」

「朝ですよ。学校のお時間です」

「あっ、はい」

重たい体を起こし、寝ぼけてかすむ視界に瞼をこすりながら辺りを見渡す。すると、俺はベットから数メートル程離れた所まで転げていた。


「(えっ...俺確か、ベットで寝てたよな...?)」


不思議に思いベットに寝る彼女を見ると、あれだけでかかった毛布を何重にも体に巻き付け爆睡していた。


「(そう言うことか...寝相注意してたのどこの誰だよ...)」

「いかがでしたか?ちゃんと“イチャコラチュッチュッ”出来ましたか?」

期待の眼差しを向け、こちらに微笑む未帆さん。

「なっ!してません!ほんとにもう...勘弁してくださいよ。緊張で心臓はち切れるかと...」

「そうですか、残念です。次こそは功樹様のご期待に応えられるように、精進致しますね!」

更に火を付けてしまったのか、どうやらよりやる気にさせてしまったらしい。

「もう頼むんで、ほんと辞めてください...」

そんな俺の言葉に耳もくれず、立ち上がり彼女の方へと足を運ぶ。


「栞お嬢様〜起きてください。朝ですよ〜」

包まる彼女に優艶ゆうえんで柔らかい口調で声を掛ける。

「(未帆さんの声って、朝に向いてないよな...こっちまで眠たくなってくる)」

「んんん〜〜。もうちょっと〜」

もごもごと毛布の中で動きながらごねる彼女。それを聞いた未帆さんが耳元で呟く。


「〈ビクッ!〉はい。すみません...」


すると、彼女が飛び起き顔を青くして正座でベットに座る。

「(え。何言ったんだ...あの人)」

きっと、とても恐ろしい事をささやいたのだろうと思い、聞いてもないのに何故かこっちまで背筋が震え伸び切る。

「はいっ。では広間にて朝食をご用意しておりますので、制服に着替えお越しください。あっ、功樹様の制服は別室にてご用意しておりますので、そちらでお着替えの程お願い致します。では」

そう言い残し未帆さんは部屋を後にした。




俺は言われた通り、別室にて綺麗にたとまれアイロンまでほどこされた制服に袖を通し。俺の部屋3個分程の洗面所で顔を洗い。広間でこれまた豪華過ぎる朝食を済まし。見送られながら彼女と一緒に家を出た。


「では、お気を付けて行ってらっしゃいませ」

「行ってきま〜す」

「お邪魔しました」





家の玄関から門の敷居しきいまたぐだけで数分掛かり、巨大な門に口をポカンと開けながら潜って外に出ると。続く道はとても豊かな森で囲まれていて、とても気持ちいい緑の空気が鼻を透き通る。

前髪を少し揺らす優しい風と、橋の下を流れる川のせせらぎ。


そして、5メートル先に歩く彼女。どうやら一緒に登校してるのを、他の人に見られたくないらしい。

「ねぇ〜どうして、未帆さんに送ってもらわないの?」

家から学校まではそこそこ距離があり、歩きだと30分は掛かる距離。それに山道なので女子だとかなり険しい道のりの筈。

「......」

声を掛けても反応が無い。すると彼女は何やら鞄を漁って取り出す。



〈ピロンッ〉


[一件の新着メッセージが届きました]




          4月21日(水)07:20

             [ dogomo ]

——————————————————

From::栞

To:kouki0221@dogomo...

件名:森

——————————————————

           2021年4月21日



朝。歩く。好き。








——————————————————






「(えっ...なんでカタコト...??)」

ついさっき、彼女がメアドを交換したいと言ってきたのはどうやらこの為だったらしい。

「(にしても、これ。必要...?)」







〈ピロンッ〉



          4月21日(水)07:23

             [ dogomo ]

——————————————————

From::滝宮 功樹

To:siori0816@dogomo...

件名:何でカタコト...?

——————————————————

           2021年4月21日




まあ。俺も好きだけど...







——————————————————







〈ピロンッ〉




          4月21日(水)07:24

             [ dogomo ]

——————————————————

From::栞

To:kouki0221@dogomo...

件名:うっさい

——————————————————

           2021年4月21日




真似すんなっ。







——————————————————





「(返信はやっ。)って...んな理不尽な...」




そんなやり取りを何度か繰り返し、学校に着いた。

「(思ってたより早く着いたな...)」

彼女は靴を履き替え、颯爽と階段を登って行く。


「おっはよ〜今日は珍しく早いな。って何その怪我!」

靴を履き替える俺の背後から涼哉が声を掛け、その俺の乱闘後のような怪我を見て驚く。

「おは〜。ちょっと色々あってさ...」

「色々で済ませられる怪我の度合いじゃないよそれ...」

「後で話すよ...」

学校内でもその大怪我具合は目を引き、すれ違う生徒は間違いなく2度見して行く。それを見て俺は階段を上りながら大きくため息を溢す。


「流石に目立つな...」

隣を歩く涼哉が苦笑いをしながら、辺りを見渡す。


「まあ、仕方ないよ...なあ、涼哉」

「何?」

「教室入ったら、全力で盆踊りしてくんない?」

「やだよ」

即答で嫌がり断る。

「はぁ...」

教室に入ったら、クラスの皆から一斉に視線と言う名の心の破壊光線ライト・オブ・ブローキングハートを食うのを覚悟し、扉を開ける。



《ガラララ》



すると。予想に反し、皆話に夢中でこちらを見たのはほんの数人だけだった。


「...皆忙しいんだね」

「そだね...」


涼哉が軽くフォローしてくれるも、無駄だった緊張と覚悟に顔から表情が消え色素が抜け落ちる。

「皆、俺の事なんて興味の欠片も無いんだよ。いっそ盆踊りでもしてみようか...」

「まあまあ。そう気を落とさずに、さ?」

軽く落ち込む俺をなだめながら、席へと誘導する。

席に着き、肩から鞄を下ろしていると気になる会話が隣の席から聞こえてくる。



{ねぇ。聞いた?}

{聞いた聞いた。マジやばいよね...}

{私そういうことする奴まじ嫌い}

{ほんとなのかな...?委員長がそんな}

{見た目通り。って感じだよね、花澤さん}



「(ん?館宮さんと栞の事?何の話だ?)」

俺はその珍しい、彼女と館宮さんの話題に耳を立てる。



{でも流石にちょっと、引くよね...}

{まあね〜...}



俺はその身近の話題に堪らず、まだ一度も話した事の無い隣の女子に話しかける。


「あのっ...えっと、花澤さんがどうかしたの?」

すると、急に話しかけられ驚いた様子の女子達が俺の怪我を見て少し戸惑いながらも、何度かその女子達の間でアイコンタクトを取り合い。その内の女子1人が顔を近づけ小さく答える。


「実は...花澤さんと先輩の男子3人が......」

「え?」


俺はその話に耳を疑った。


彼女達が言うには、彼女と2個上の男子複数人がいかがわしい関係を持ち、昨日コンビニの裏でもそういった行為をしていたと言う根も歯もない話。それに加え、彼女と館宮さんが二人掛かりでクラスメイトの女子1人を放課後いじめていたと言う。そんな嘘に嘘を重ねた話を聞き、俺は友達と幼馴染が馬鹿にされている事に苛立ちを隠せずにいた。


「(は?...何だよその話)誰に聞いたのそれ...」

そう聞くと、彼女達は目を交わした後、小さい声で答える。


「...エリカちゃん」

「(エリカ...やっぱりあいつらだ。館宮さんをいじめてた奴ら)」

そいつらの方に目をやると、泣くふりをしたもう一人のいじめてた奴の背中を、さすなぐさめるエリカって名前の女子生徒。泣くふりをした奴の両腕に巻かれた包帯。その周りをたむろうように囲み、心配そうに見つめる他の女子達。嘘の噂を鵜呑うのみにして隅で笑う男子。その全てに虫唾むしずが走った。


すると、背中を摩る女子と目が合い不敵な笑みを浮かべこちらを見る。


「(あいつらっ...)」


栞の方を見ても、栞は何事もないようにいつも通りに振る舞っている。館宮さんはまだ来ていないのか、席に姿は無い。だけど館宮さんにもいずれ伝わるのも時間の問題。いや...これだけ皆大きな声で言ってたら、きっと栞の耳にも嫌でも入ってるだろう。


俺は今にもあいつらを殴りかかりそうな勢いにまで怒りが湧き上がっていた。


《ガタッ》

我慢出来ず、席を立ちあいつらの所へ行こうとする俺の左腕を涼哉が掴み止める。



「...離してくれっ、涼哉」

「それは...駄目だっ」


そう言った涼哉の顔を見ると、今まで見た事のない程。怒っているのが掴む右手からひしひしと伝わってきた。


「でもっ...このままじゃ(...力ずくじゃ解決にはならない。そんなことは分かってる。だからと言ってクラスの輪にも入れていない俺が、全部説明して弁明しても聞く耳を持つ者はいないだろう。じゃあ、どうしたら...)」


飛び交う罵倒軽蔑暴言嘲笑が耳に触れる度、掌に爪が食い込む。



{いじめだって...酷すぎっ}

{マジありえないよね〜}

{よくのうのうと来れたな}

{あみちゃん可愛そ〜}

{公共の場でよくやるよ...}

{俺も頼んだらやらしてくれるかなっ?}

{いけんじゃない?今聞いてこいよっ}

{よくこんな酷い事して委員長やってるよな}

{実は、前々からそうじゃないかって思ってたんだよね〜}

{キモすぎっ}

{まじよくそんなんで生きてられるわ}



「昨日!!」


立ち上がり声を上げる俺に皆の視線が集中する。


{え...何あの怪我}

{急に何...?}


「あいつっ...何を...」

栞が驚いた様子でこちらを見る。




俺は大きく息を吸い教室全体に行き渡るように声を上げる。



「俺は!昨日!彼女と同じベットで寝たあぁああああ!!!」






「「「「・・・・・は???」」」」






「なっ!あいつ何言って...!」

栞がその予想だにしない発言に、顔を赤らめ椅子から身を乗り出す。


一同がその一言に唖然あぜんになる中、涼哉が頭を抱え笑いをこらえる。



「だから!栞が先輩の男とそんな関係な訳ないしっ」



{栞..?}

{花澤さんの事?}



「それに!あいつら男3人ってたかって無理やり嫌がる栞に手出して、それで俺もこんなにボコされてっ...でも何とか守り切れて!友達にもなって!」



{どういう事...?}

{ベットで寝たって、付き合ってるって事...?}



「話していく内に、優しくてめっちゃいい奴なんだって思ったし...館宮さんも!ずっと幼馴染として一緒に過ごして来て分かる!あいつらはそんな事するような奴じゃない!!」



{あの子って、ずっと寝てた子?}

{多分...}



「はぁ...はぁ。後っ!いじめてたって言うのも、いじめられてたのは館宮さんの方で!俺っ...それ気付けなくて...」



{えっ?館宮さんがいじめられてたの?}

{どう言う事...?}



「そのっ、いじめてた奴らこそ...嘘の噂ばらいて。泣いたふりして。被害者ぶってる...そいつらだ!!!」

俺の今の感情を全て言葉にしてそのまま吐き出し、いじめてた2人を指差す。


「なっ!なに適当なこと言って!!」

「そうよ!実際、あみはこうやって怪我してるんだからっ!」

彼女達は慌てた様子で席を立ち、こちらに声をあげる。


その時——



《ガラララ》



教室の扉が開き、担任が何故か館宮さんを連れて入って来た。



「は〜い。お前ら席に着け〜」

担任はいつも通り、だらけた口調で生徒達に声を掛ける。

でも、何故か館宮さんは担任の横に立ったまま席に着こうとはしなかった。

それを担任が注意する事も無く、話しを続ける。口元の絆創膏はとれていた。


「よ〜し、席に着いたな。今日は皆に伝えないといけない事がある」

いつに無く真剣な表情になる担任に、クラスの皆はより一層真剣な面持ちで担任を見つめる。

「実は...残念な事に、このクラスでいじめがあった」

その事にクラスの皆は驚く事なく、息を呑み耳を傾ける。


「(まさか、あいつ先生にチクって...)」

怪我をしたふりをする彼女が、館宮さんを強く睨み心に焦りが走る。


「それで、そのいじめなんだが」

すると、話を続けようとする担任の話をいじめの主犯のあみがさえぎり。ばらされると思ったのか、怪我をしたと言う腕を見せつけながら担任に迫って抗議する。

「先生!そうなんです!実は私...いじめられてて、この怪我もそこに居る館宮さんにっ!」

そう必死に話す彼女を前に、表情ひとつ変えず担任が言葉を掛ける。


「...そうか。話してくれてありがとな」

担任は彼女の頭を優しくでる。


「はいっ...!!」

涙目になる彼女。そのわざとらしい演技をする彼女の態度もそうだが、それを鵜呑うのみにする担任にも腹が立つ。


「(あいつっ...まだあんな事。先生もなんで演技だって気付かないんだよ...もう我慢出来ねぇ)」


俺は堪らず席を立って物申そうとした時、担任の低い声が響く。


「なあ三山?」


「はいっ!」


彼女の苗字だろうか。そんな事より、担任の口調が明らかに変わった事に生徒皆の背筋が凍る。


「腕...怪我してんだよな?」

そう担任が頭を撫でた反対の手で掴んでいた彼女の腕を見ながら、低い声で問う。


「え...?」


彼女は状況がまだよく理解できず、しかし後から次第に噴き出す冷や汗に、理解が追いついたのか鳥肌が立つ。


「あっ、あの。これは違っ...」

咄嗟とっさに隠そうと担任の掴む手を振り払おうとするが、担任は掴んだまま離さず、館宮さんを近くへと呼ぶ。

「館宮...」

「はい」

すると館宮さんはポケットからはさみを取り出し、持ち手を向けて担任へと渡す。


「なっ。何をっ...」


「動いたら、切れるぞ...」


抵抗しようとした彼女も、担任のその一言で怖気おじけずく。

担任はその鋏で彼女の包帯を切り裂いていく。両腕の包帯が取れ、傷一つのない綺麗な腕がさらされる。

彼女は何も言わず、ただ下を向き下唇を噛み締める。




「三山あゆ。加藤エリカ。生徒指導室に来なさい」



彼女達はそのまま黙って担任に連れられ、教室を出て行き。

後日、自主退学といった形でこの学校を去っていく事になった。




そして、俺と花澤さんは同じベットで一夜を過ごしたという「噂」......いや、「真実」が学校中に広まったのだった。






√龍円寺 泉°

1984年2月3日生まれ 37歳 獅子座O型 父が現校長 担当教科:数学

やる気の無さは超一流 

趣味:特になし 特技:一夜漬けでの記憶力 ゲーム全般

好きなもの;音楽  嫌いなもの:ゲーム全般

短所:目つきの悪さで人が避けていく(本人的には交流が少なくて済むので問題無いらしい)




未帆「失礼致します。おはようございます、朝ですよ〜」

功「んん〜どう考えてもパン派だろ〜(寝)」

栞「クロワッサン!!!...すぴぃ〜(寝)」

未帆「...とても気が合いそうですねっ。おはようございます。功樹様」

功「おはようございます...」







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