平凡な研究員だった俺が【六元素魔法陣師】に転生したところ最強の文明世界を作ってしまった件

タカシザニート

第1章「ギルド設立編」

001. 脳筋貴族の四男に転生したという悪質なドッキリにかけられた件


 目が覚める



 ・・・どこだここ?



 記憶をたどろうとしたが上手く思い出せない。


 知らない天井、そこにはキラキラ輝くシャンデリアがある。


 豪華な巨大ベッドの上、そこは雲の上にいるようにふわふわで気持ちがいい。



「ぐすん・・くっ・・・・・」「ぐぬぬ・・・あまりにも辛すぎるのだ」「あなた、容態は落ち着いています。回復することを祈りましょう。」「そうだな」「僕も辛いんだよ」



 ・・・この声はなんだ??



 俺は寝返りをうち、声のする方を見る。


 筋肉で服のボタンがはちきれそうになっている筋骨隆々のおっさんがいた。涙と鼻水が入り混じった液体を服の袖で拭っている。


 気品溢れる金髪の美人お姉さんがおっさんをなだめていた。化粧は崩れ、涙の跡がくっきりと残っている。涙が枯れ果てたのか。


 耳の先がとんがった緑色の髪の美少年がうつむいていた。床の絨毯には涙で2つのシミができている。



 3人とも酷い姿だ。どれほどの不幸な出来事があればこうなるのだろうか。目覚めた俺の周りには彼ら以外の人間がいない。この部屋には俺を含めて4人だけのようだ。悲しんでいるところ申し訳ないが、まずは彼らに話を聞こう。



「あのー大丈夫ですか?」



 3人はゆっくりと俺の方に顔を向けた。信じられない、とでも言うような顔だ。驚きすぎて声が出ていない。3人揃って口をパクパクさせている。



「突然話しかけてしまってすいません。ここはどこであなた方は誰なのでしょうか?」



・・・シーン



 無言の時間が過ぎる。気まずい。やっぱり悲しんでいる人に急に話しかけるのは良くなかった。思いやりが足りなかったな。


 俺が1人反省していると、ムキムキおっさんが口を開いた。


「うーむ、トールは病み上がりで混乱しているのであろうな。これだけ流暢に話せるなら病気が回復したと言っても良いだろう!やはり神は見捨てなかったのだ!神様ありがとうなのである!ハッハッハッハッ!」


 おっさんはズタボロに泣いていたかと思えば、破顔一笑。満面の笑みで神様に感謝しだした。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。



 ・・・情緒不安定かよ!!



 何だったんだよ今の気まずすぎる無言タイムは。全く持って訳が分からない。お願いだから俺の質問に答えてほしい。ここはどこであなた方は誰なんですか。


 おっさんが俺に近づいてきた。そして頭をものすごい力で撫で回す。ヨシヨシのつもりなのだろうが、意味不明なくらいに痛くて声が出ない。頭がクラクラしてきた。抵抗しようにも力が異常なくらい強く何もできない。やばい死ぬ。俺はここで終わるのか。


「そうね、やっぱりあなたの息子だわ。肉体の強さはピカイチね。」


 金髪のお姉さんが不穏なことを言い出した。俺はムキムキおっさんの息子になった覚えは全くない。それよりもお願いだからこのヨシヨシを止めてくれ。そして質問に答えてくれ。


「トール様の声をもう一生聞けないかと思ってたけど、今こうやって回復した様子が見れて本当に良かったよ。」


 とんでもない美少年が涙を浮かべながら手を握ってきた。緑色の髪の毛で、緑色の目をしている。新手のコスプレ系ユー〇ューバーかな。これくらいの中性的な美形ならチャンネル登録者数がかなり多そうだなぁ…



 ・・・って誰か、俺の質問に答えてよ!あと本当にお願いだから誰かおっさんのヨシヨシ止めて!もう限界!!



「あの何度もすいません、ここはどこであなた方は誰なのでしょうか?」



 俺は酷い頭痛に耐えながら最後の力を振り絞って尋ねた。



「あなた、お医者様を呼んできてちょうだい。セロはトールのために水を持ってきてあげて。」


 あのーすいません、質問無視しないでくれますか?


「おう、任せておくのだ」


「リリアナお母様、かしこまりました。トール様、ちょっと待っていてくださいね。」


 金髪のお姉さんがそう言うと、筋肉のおっさんは急いで部屋を飛び出していった。 とりあえずヨシヨシ?で気絶せずに助かった。セロと呼ばれた超絶美少年も後に続いて部屋を出て行った。


 部屋に残されたのは俺と気品溢れる金髪お姉さんの2人。よく見るとお姉さんが巨大すぎる気がする。頭痛はまだ治まっていないが、このままではどうしようもない。お姉さんに改めて質問をしよう。


「ここはどこなのですか?」


「へ?ここはユピテル王国の王都にあるアレス侯爵家の屋敷よ。それがどうかしたのかしら。」


 全く聞いたことのない冗談のような王国の首都にいるらしい。少なくとも国連に加盟してないな。怪しすぎる。


「えっと、お姉さんのお名前は何ですか?」


「あらら、やはり混乱しているようね。私の名前はリリアナ・アレス。34才ぴっちぴちのお姉さんで、あなたのお母さんよ。お母様って呼んでね。」


 リリアナという名前の女はそう言って俺にウインクをした。キュン。確かに34才には見えないくらい美しい。20代前半と言われても違和感がなくらいだ。



・・・てか、さっきから薄々気づいていたけどこれもう完全にドッキリだよね!



 設定が無茶苦茶すぎるわ!


 一般人をモニタリングするやつかな!!



「本当にお姉さんは私の母親なのですか。私をよく見てください。」


「ええ、どう見てもあなたは私の愛する可愛い息子よ。さっきのスマートで若々しいヘクトル・アレスの息子だわ。アレス侯爵家の四男で3歳のトールよ。」


 スマート?若々しい?


 リリアナの目にヘクトルがどう映っているのか分からないが、ガッチガチの中年の間違いだろう。


「ほらお母様が鏡を持ってきますから自分の顔をよく見てみなさい。」


 リリアナは鏡を取りに部屋の奥に行った。


 あーね『ドッキリ大成功』の札を取りに行ったのね。ここは気づかなかったフリをしてノッてあげるとするか。


 改めて今回のモニタリング系ドッキリの設定を振り返る。リリアナという金髪美人のお姉さんとヘクトルというムキムキおっさんは夫婦。その息子がトール・アレスであり、アレス侯爵家の四男で3才の"俺"ということか。



・・・うん!それ絶対に俺じゃないね!!



 西洋風のムキムキ脳筋貴族の家に生まれた覚えはない。両親共に一般的な純ジャパ。俺の名前は堺徹(さかいとおる)。27歳で食品メーカーに勤める研究員だ。確かにトールとトオルの発音は似ているが別人だろう。流石にドッキリの設定が滅茶苦茶すぎる。


「あったわ、ほら鏡を見てみなさい」


 しばらく部屋の奥に下がっていたリリアナが鏡を持ってきた。ドッキリ終盤だな。



 俺はリリアナの方を振り返った。





 それは本当にただの鏡だった。





 映っているのは茶髪の可愛い幼児。手を降ると向こうも振り返す。不思議だね。って、えどういうこと?



 俺はパニックに陥った。意味がわからない。鏡の中の幼児も焦っている。



 思考を巡らせる。鏡に映る幼児はあまりにも自然で合成のレベルではない。だけどそれは俺が脳筋貴族の四男であることを示していて。それは俺が非現実的すぎて考慮に入れなかった可能性であって。



――想像以上の現実に気づいた俺は脳の処理が追いつかず、気を失った

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