第95話 火に油を注ぐJK
リビングで住人たちと一緒に軽い世間話を終えた後、芳樹はつくしちゃんに女子寮の案内を開始した。
まずは二階へと上がり、住人たちのプライベートスペースへ。
「二階は基本住人たちのプライベートの場所だね。
つくしちゃんに説明をしつつ、芳樹はとある部屋の扉をノックした。
「はーい!」
中から元気な声が聞こえてきて、がちゃりと扉が開かれる。
部屋から顔を覗かせたのはかっしーだ。
「悪いかっしー。ちょっとつくしちゃんに部屋を見学させてあげてもいいかな?」
「いいっすよ。まあ、学生同士似たり寄ったりの部屋になるでしょうし」
そう言って、
かっしーの部屋は、窓際の方に机が置いてあり、そこにノートPCや大学で使用している専門書などが置かれていた。
机の対面側には白いベッドとハンガーラックが設置してあり、多くのコート類や衣類がハンガーラックに掛けられている
流石は都内の大学に通う女子大生。
ファッション服は沢山常備しているようだ。
「結構広いんですね!」
「まあほら、学生には結構お高めな寮だからねここって」
「加志子さんは、ご両親に寮のお金は仕送りで負担してもらっているんですか?」
「そうっすよ。でも、寮代だけでも結構かかるから、うちの場合はそのほかの遊び代とか服とか日用品に関しては、全部自分でアルバイトしたお金で賄ってるって感じっすかね」
「なるほど……私もここに住む場合。同じことをした方がいいのかな」
ふむふむと顎に手を当てて、難しい顔で考えるつくしちゃん。
「まあ、つくしちゃんの場合ご両親が優しいから、寮代にプラスして生活費も仕送り送ってくれそうな気がするけどね」
つくしちゃんは一人っ子のため、ご両親は彼女を
大事な娘にお金をつぎ込むことに関して、ケチなことはしないだろう。
「そう言えばかっしー。最近はアルバイトの回数減らしてるように見えるけど、お金は大丈夫なの?」
「まあ一応。今までの貯蓄があるんで何とかなってるっすよ。今は就職活動のために健康維持が大事なんで、回数は減らしてますけど」
「そっか。もし本当に困ったときは、俺に言ってくれればいくらか負担は出来るから、気軽に言ってね」
「いやいや、管理人のよっぴーにこれ以上仮りを作ることは出来ないっすよ! それに、うちばっかり借りを受けっぱなしで、全然返せてないですし……」
「そんなこと、気にしなくていいのになぁ……」
芳樹も経済的に余裕があるわけではないけれど、少なくとも学生のかっしーよりは社会人としてある程度の貯蓄は蓄えている。
そんな会話をかっしーと話していると、突然隣で聞いていたつくしちゃんが芳樹の腕に
「それじゃあ、私が困ったときは、芳樹さんに助けてもらうことにしますね♪」
「つくしちゃん!?」
いきなり
「何ですか芳樹さん? もしかして、私は助けてくれないんですか?」
その瞳は、心なしか潤んでいる。
「いやっ……もちろん本当に困ったときは助けるけど、俺を最初から頼るのは違うかな。しっかりと自立する力は持ってもらわないと」
でないと、つくしちゃんがどこかのグータラ幼馴染のようになってしまうからね。
「でも、今加志子さんに言ったじゃないですかー。本当に困った時は、気軽に言ってねって」
「
つくしちゃんを溺愛しているご両親のことだ。
可愛い
「それなら仕方ないです。なら私は、日頃のストレスを芳樹さんに聞いてもらって、甘えさせてもらうことにします!」
そう言って、今度は芳樹の胸元辺りに頭を置いて、スリスリとマーキングするように擦りつけてくるつくしちゃん。
つくしちゃんの大胆な行動を見て、かっしーは目を丸くして
「ごめんねかっしー、見苦しいところを見せちゃって。普段はこんな子じゃないんだけど……」
「い、いえ平気っすよ……。ちょっと驚きましたけど」
大丈夫だと手を横に振るかっしー。
「部屋を見させてくれてありがとうねかっしー。それから、エントリーシートの記入頑張って」
「う、うぃっす……」
誤解を生む前に、寮の案内へ戻ることにする。
「ありがとうございましたー!」
きらきら笑顔でお辞儀をするつくしちゃん。
芳樹はそのタイミングでしゅるりとつくしちゃんに掴まれていた腕をすぽっと抜き取る。
「ほら、つくしちゃん。次のところ案内するからついてきて」
「はーい!」
何事もなかったかのように、二人はかっしーの部屋を後にする。
目をぱちくりさせながら呆然と立ち尽くすかっしーを置き去りにしたまま、芳樹たちは次の場所へと向かった。
◇◇
この時、去り際につくしちゃんがタイミングを見計らって、してやったりの顔をしながらウィンクをかっしーへ向けていたことは、芳樹は知る由もない。
つくしちゃんが女子寮の住人たちへ火に油を注いでいっていることに、芳樹は全く気付いていなかった。
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