第32話 菜っ葉①
学校の帰り道、いつも通る橋のたもとに女の子が座っていた。背格好から小学生高学年位か。その足元には白いビニール袋にいくつか置いてある。
「あの、野菜買ってください。」
か細い声で言われたわたしはあらためて女の子を見る。半袖短パン姿で木枯らしが吹き始めたこの秋の夕暮れでは見ているだけで身震いする。
「野菜?その袋の?」
「はい。500円です。」
確かに白いビニール袋に黒マジックで500円と書いてある。ビニール袋は結構パンパンで結んである口から葉っぱが覗いていた。
「何の野菜なの?」
「あの……菜っ葉の詰め合わせです。」
座った彼女は見上げながら説明をしてくれた。菜っ葉って何だろう?わたしは財布の中身を確認すると1,063円入ってる。
「じゃあ1つ。」
1,000札を出す。
「おつり無いんですけど……」
おつり、無いんだ……。
「2つ買ってください。」
彼女は膝をついて両手を地面に付けて見上げる。必死さが伝わってきた。でも、お小遣いが無くなるなぁ。迷っていると彼女は更に切り出す。
「3つ1,000円でいいです。」
お得感が増した!
「いいの?3つだと1,500円なのに1,000円で。」
「はい。お願いします。」
凄く嬉しそうな表情にわたしも釣られて微笑んでいた。わたしは女の子に手を振ってその場を離れる。入れ違いにチャラそうな男とすれ違う。
「おい、売り上げ出せ。」
「竜二さん。」
あの子の知り合い……みたいだけど、お金渡してる。
「お、7,500円か。うまくやったじゃねーか。草売りはもういいから、夜の準備しな。」
「あの、アナタはその子の何ですか?」
お金を無造作にポケットに入れながら男は振り向く。あからさまに不機嫌な表情でわたしをマジマジと見回す。
「お客さんだよね?3つも買ってくれたのね。どうも。」
「1,000円で3つにしてもらったんですよ。優しい子。で、何でその子からお金取ったの?」
竜二と呼ばれた男はその子の胸ぐらを掴む。
「幸子……テメェ、馬鹿かぁ?算数もできねぇのかよ!?」
「ごめんなさい。」
この子は幸子って名前か。残念ながら名前負けするタイプかな。明らかに怯えていた。
「暴力?大人げ無いんじゃない!?」
「ねえちゃん、そういうことはさ、金払ってから言えや。1つ500円だから3つ1,500円。あと500円足りねえよ。出しな!」
どうしよう、あと63円しかない……。
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