鈴木の日常は良くないことでいっぱい?
古土師 弥生
第1話 殺人鬼①
「合宿ってココでやるんですか!?」
目の前にはどう見ても朽ちた館が立ちはだかっていた。周りはただただ木々が生い茂る。わたし達の後ろには乗ってきたタクシーの後姿……もう小さく、すぐに見えなくなった。山の奥の奥、木々の隙間から見える狭い空は灰色に染まっていた。
「雨が降るな。さぁ、入るぞ……鈴木。」
「え?は、はい。」
先を行く芳賀先輩の後を追って館に入る。館の中は外見とは裏腹に暖かく明かりが灯っていた。暖炉には太い薪が静かに揺らぐ火に焦がれていた。時折木が爆ぜる音が響く。
「先輩、みんなは?」
わたしは暖炉の前の一人掛けソファに座りながら他の部員たちの姿が無いことを問う。
「いないよ。ここには俺とお前だけだ。」
思いも寄らない言葉に言葉を失う。
「二人きりって……部の合宿じゃないんですか!?」
先輩はゆっくりとわたしの前に立ち、両手をソファの手すりに置く。顔がすごく近くにあり後ろに下がろうとするがソファに逃げ場は無かった。
「俺はお前が欲しいんだ。」
「ど、どういうことですか?わたしは先輩にそういう……恋愛感情はありません。」
ニヤリと笑う先輩は後ろのポケットから鈍く光るナイフを取り、わたしの首筋に当てる。わたしは言葉が出なかった。
「もっといい声で叫んでくれて良いんだよ?好きな相手を隅々まで……中まで見たいんだ。いままでもみんなそうなったよ。鈴木も同じになるよ。」
「先輩は一体!?」
先輩は口元をわたしの耳に押し当てて言った。
「安っぽい表現だが……『殺人鬼』になるかな。我慢ができないんだよ。」
ゾクリとした。首のナイフに力が加えられるのが分かる。
ガタンッ!バキバキッッ!!
焚火の微かな音以外聞こえなかった館内に大きな音が響いた。
「何だ!?上から?誰もいないハズだが。そういえば暖炉、誰が火を……。」
天井を見上げる芳賀先輩の胸を強く押し、体制が崩れたところでわたしは入口に走り出す。扉を開けて外に逃げようとしたが鍵が掛かっているのか開かない。
「酷いなぁ、鈴木ィ!思いのほか痛いよ。」
ナイフを手にした先輩が迫ってくる!わたしは入口を諦めて階段を駆け登る。上階に誰かがいるなら助けてもらえると思った。上階は暗く廊下を手探りで進む。後ろから走って近づく音が響く!暗闇を気にせずに先輩が追い付いてきた!!
「いや、来ないで!」
近くの開いている部屋に飛び込み、扉を閉めて鍵を掛ける。
「ハハハハハ。扉を壊したら、次は鈴木を壊したいなぁ。楽しみだなぁ~!!」
扉を強く叩く音とその言葉が重なり続けた。
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