第20話 邪神復活の日
「がはっ! げほっ、うぐっ」
青苑は槍で突き刺され、刃に切り裂かれ、鉛の雨に打たれる。死神となった彼は死なないが、生者だった頃の記憶を魂がまだ覚えているので、攻撃を受ける度に激しい痛みが襲う。反撃しようにも、見習いの彼は魔法を二回使った程度で疲弊しており現状の打開は難しい。
「可哀想ですね、まだ戻れる可能性があるというのは。どれだけ苦痛に苛まれても終わりがないのだから」
「へっ。この程度、まだまだっ……」
天使は死なないと知っていながら楽しむように青苑をいたぶり、それはまるで時間稼ぎのようであった。事実アルトが戻ってくるまで続けるつもりであり、チートアイテムを回収されないように足止めをしているのだった。青苑はただ耐えるしか出来ないが、心のどこかで希望がまだ潰えていないと確信していた。
研究室から弾き出されたリリアンは、なるべく人目につかないようにこっそりと建物の影を隠れるように移動していた。【敵意察知】のスキルを使って周囲を観察するが、おかしなことに今まで自分たちが向けられていた敵意が消えているのだ。隠れるのをやめて恐る恐る大通りへ出ても、監視の眼はなく誰にも指を刺されない。ウィズダムだからこそなのかと考えていたが、ただの僧侶として接してくる街の人々の態度に、リリアンは戸惑うばかりだった。
(どうなっているのでしょう……?)
スキル発動状態を維持したままあてもなく街を彷徨っていると、魔導列車の終着点、巨大なターミナルに見知った反応があった。リリアンはあっと息を呑み、反応のある方へ走り出していった。
「リリアン!? 無事だったのか!」貨物列車の最後部から降りてきたばかりの、草まみれのライオネル一行がそこにはいた。ライオネルとリリアンは抱き合い、お互いの無事を喜んだ。
「あのバカに変なことされなかったか?」二人の間にフレイヤが割って入る。
「いいえ、私は大丈夫です。優しい方に助けていただきました。ですが、その人は私を逃すために窮地に陥っていて……私、助けてあげたいのです!」
「しかし、神より授かった力は後少しで切れてしまう。今乗り込めば、帰ってこられないかもしれないぞ」
武器や防具が纏っていた光は徐々に弱くなっており、ダグラスはリリアンが無事だったのだから早くウィズダムを脱出すべきだと主張する。
「なら、私一人だけでも助けに行きます!」リリアンは目に涙を浮かべて走り出そうとする。
「おいおい待てよ、皆で行ったほうがいいに決まってる。リリアンの恩人なら俺たちの恩人だ」
「……残された時間はあまりない。手早くやるぞ」
「全くダグラスは心配しすぎなんだよ、来たら来たで全員ぶっ飛ばしてやりゃいいんだって!」
一行は全力で走り研究室へ入ったところで、光は消えてしまった。ダグラスの不安は的中し、施設内の警報装置が一気に作動する。警備用のウィンドサーファーに追いかけられるようにして、一行はアルトの部屋に滑り込んだ。警備服を来た男性が、触手で持ち上げられ壁や床に叩きつけられている最中だった。羽の生えた女性、すなわち天使が人間に危害を加えているなど信じられないといった様子で、フレイヤとダグラスは思わず閉口した。
「その人を離せ!」
ライオネルは天使のほうが悪人だと不思議と理解していた。警備員の男性にも、どこかで出会ったことがあるような気がして、迷いなく剣で斬りかかると触手はスパッと切れて塵となった。天使は再生しようと試みるが、切れた部分が元に戻らない。
「これは勇者のスキルではない神の力……まさか」
「へっ、おカミにお前らが外からちょっかい出してることは報告済みだぜ! さあ帰った帰った!」
青苑はニヤリと笑い、人差し指を指して勝利を宣言した。
「くっ、覚えていなさい! 所詮人間は欲望の塊でしかないのですから!」
悔しそうに歯ぎしりしながら、天使は去っていった。
「ありがとう、君らのおかげで助かったよ」青苑は警備帽を深めにかぶり直し、あえて目を合わせないようにして言った。
「どこかで、会った気がする」とライオネルが言うと、「夢の中かもな。それよりも」青苑は立ち上がり、空間から大きな袋を取り出して、ガチャ装置やスキルボード、ログインボーナスで得たものを回収してどんどん詰めていった。
「それは?」ライオネルが尋ねると、「本来この世界にあっちゃいけない物さ」と青苑は軽く返した。
「けど、こっちのは、君たちのものじゃないのかな」
隣の部屋には、アルトが持ち去っていったライオネルたちの持ち物がそのまま放置されていた。
「うおー! アタシの獲物たち!」
「剣と杖もそのままか。売られていなくて助かった」
フレイヤとダグラスは自分たちのアイテムを取り戻したことを喜び、リリアンも愛用の杖を取り戻しようやく安堵の笑みを浮かべた。ライオネルは勇者の剣が無いことにやはりあれだけは……と思ったが、取り戻せた礼を言おうと振り返ると、青苑の姿はもうなかった。
「けど、これで一つ片付いたな。やっぱ愛用品じゃないとテンション上がんないぜ!」
ライオネル一行は装備を元通りにして、持てるだけのアイテムを持って研究所を脱出しようとした。
そこへ地鳴りが響き、研究所内は侵入者以上の緊急事態だと館内放送が流れた。慌てふためく研究員たちに紛れて外に出ると、これまでに見たことがないほど禍々しい暗雲が立ち込めていた。アルトが本当に邪神を復活させてしまったのだと、皆言わずとも理解していた。
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