チョコレートはそのままに 11
「なあカツヤ、セミをかわいそうだと思うか?」
「うーん」
「よく言うだろ。一週間しか生きられないって話」
「人間は本当に勝手だよな。土の中にいた何年もの大事な期間を、無かったことにするなよって、俺がセミだったら言いたいね」
「お、意外だな」
「あ、でも、土から早めに出てきちゃったオスはちょっとだけかわいそうかもな。どんなに大きな声で鳴いて力をアピールしたって、誰も聞いちゃいない。誰にも出逢えずに死んでいくんだ」
「あと、ひっくり返ったセミを蹴飛ばしちゃった時とかな」
コウジはなぜか嬉しそうだ。
「そうそう、そういう時は死んでてくれて良かったって思っちゃうな」
「はは、かわいそうだ。でもなあ、メスのほうがもっとかわいそうなんだぜ」
「そうかな」
「そうだよ、アピールも出来ないんだぜ。誰かに会いたくても、そいつを呼べない。そいつが鳴かなきゃ近くにもいけない」
一瞬の沈黙の後、カツヤが両手を叩いた。
「蚊はどうだろう。かわいそうなのは」
「オスだな。たった今、カツヤが殺したそいつはオスかもしれない。人間の血を吸うのはメスだけだ」
「それは申し訳ない。カマキリは」
「オスだ。食われちまうんだぜ」
「人間は」
コウジは苦い顔をした。
「わからん」
「わからんよなあ」
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