第2話 よーしよしよし
「餌だよー」
「……」
部屋に入った私をじっとこっちを見てる。
見てる?
目が虚ろで、見てるのか分かんないけど。
「あーん」
「……」
「おいしー?」
「……」
「そっかー」
部屋を出る。
さって、仕事行く準備しないと。
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「えー、今日からこの部署に配属になった松原くんだ」
「松原
「教育は……永野君。任せてもいいか?」
「はい。わかりました」
「よろしくお願いします!」
めんどくさーい……
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「永野先輩って下の名前なんて言うんですか?」
「……永野明日香です」
「じゃあ、明日香先輩ですね! よろしくお願いします!」
「はぁ……よろしくお願いします」
胸見ながら言われてもなんも感じないけど。
そんなにこれが気になるかい?
ここ、猿を雇ったんかい?
「明日香先輩って若いですよね~、いくつなんですか?」
「はい。今日の分です」
「あの」
「まずはお願いします。こまめに確認しますので、ミスがありましたら修正お願いします。松原君の席はあそこです」
「はい。わかりました!」
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ここはそこまでブラックじゃないんですよ。
新人教育をするとですね、その分今日の分が減るんです!
やったね!
「明日香先輩、ここなんですけど!」
でも、こいつは、はずれ。
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「お疲れさまでしたー」
「お疲れさまでーす」
さ、かえろー。
「あの、明日香先輩」
「どうかしましたか?」
「この後暇ですか? どこか行きませんか?」
「ごめんなさい。家に帰るので」
「いいじゃないですか~。どこか行きましょうよ」
「帰らないといけないので。失礼します」
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「ただいまー」
今日はお刺身。
まー、お湯掛けちゃったらお刺身じゃないかもだけど……
「……んー」
もしかして、このままでも食べるかな?
お刺身以外混ぜてっと。
「餌だよー」
「……」
「これ、食べれるー?」
「……」
んー、だめそーかな。
「ごめんね、こっちだけ食べてー?」
「……」
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「餌だよー」
「……」
反応ナッシング……まって。
私、老いた?
わぁー……まじかー……
似たようなこといってた父さんばかにしてたじゃん……
「今日休もっかな~」
「……」
「なんてね」
今日もお仕事頑張りますよー。
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「あっ! 明日香先輩、おはようございます!」
「おはようございます」
松……原君。
あっぶな、名前覚えだせないところだった。
なんか今日そういうの多いなー……
「今日もお綺麗ですね」
「ありがとうございます」
めんど。
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「おつかれさまでしたー」
今日も終わり!
何やってたかよく覚えてないけど、しっかりやったはず!
やってなかったら部長とかが気づくだろうし、大丈夫!
「あ、明日香先輩! 今日は」
「松原君、ちょっと来てくれるかー?」
「あ、はい」
ナイスだよ、課長!
では、私はすたこらさっさと。
……ドロン、の方がまだ若いかな?
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「ただいまんb」
どうした、今日?
やっぱ疲れてんのかな?
てなわけで。
「おちゃけー!!」
あっしたはおっやすみ~
でも、飲む前に~
「あれ?」
ん~?
一つ、ない?
ゴミ箱にもない。
……
「もしかして……?」
扉を開ける。
いつもと同じくただ座ってる。
顔を近づけて、目を合わせる。
実際には合ってないから合わせようとしてるだけ。
「おさしみ、たべた?」
「……」
「んー……」
やっぱりこたえてはくれないけど……
まあ、もう3か月だもんねー。
そっかぁ……
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「餌だよー」
「……」
「あのね」
顔を近づける。
やっぱり目は合わない。
「もしおひるごはん食べるなら、キッチンに置いてあるからね」
「……」
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「あれ……永野先輩?」
「何ですか、日立さん」
この子は私の一つ?下の日立紗々ちゃん。
私の一年後に入社してきたんだけど、本当にまじめな子で大好き。
「何かいいことでもありましたか?」
「いいことですか」
何かあったかなー?
というより、そういう表情してるってことー?
むにむに。
……若さ欲しい。
「いえ、ごめんなさい。何でもありません」
「そうですか」
困ったことがあったら頼ってねー。
無言でアピール。
ういんくぱちぱち。
多分伝わったことないけど。
###
「明日香先輩」
「なんでしょうか」
「これなんですけど」
んー、だめぽ。
時間はー?
んー。
「続きはやっておくので結構です」
私はいい上司なのです!
「え」
見て、神様!
目の前の……新人君。
感激して言葉も出ないみたいですよ!
これだけ善行しておけば何かいいことありますよね!
恵みください恵み!
「悪いですよ! 自分でやりますので大丈夫です!」
「結構です」
かーえーれー、かーえーれー。
「終業時刻が近づいています。このままのペースじゃ終わらないので、一部はこちらに回してください。やる気ではなく、現実的に終わる量だけ手元に残して、あとはこちらに回してください」
「そんな」
「時間がないのではやくしてください」
おわるかなー?
###
「ただいまー」
めっちゃ急いで帰ってきた。
もうダッシュダッシュ。
久しぶりにこんなに走ったかもー。
でも、太ってません、私。
えらい!
「ん……」
ちょっと減ってる。
そっか。
「これでいいやー」
せっかくだし。
私のご飯はいいとしてー……
「どーしよ」
混ぜない方がいいかな?
そろそろ歯も弱っちゃうよねー。
今更だけど。
「ちょっと、ちょぉっとだけ」
いつもより荒く?
形が残るくらいに。
「えさだよー」
「……」
いつもどおり返事はなし。
でも、ちょっと反応したような?
どーだろ。
「あー」
「……」
スプーンで口に入れる。
……
「いけそー?」
「……」
大丈夫かな?
もうちょっと見よっかな。
###
「いってきまーす」
今日もお仕事です。
つらいなー。
まだ電車の中だけど帰りたい。
ごろごろしてたい~。
この時間は全然座れないから余計疲れるし。
もっと席増やせばいいのにー……
「あの」
もしそうなっても席増やした分、人も増えて結局座れないのかな?
もっと分散しろー。
地方いこう地方。
老後はどっか自然の中で暮らしたいなー。
地元に戻るのもいいかも。
こっちでお金稼いだら後はのんびり……
「あの、すみません」
目の前の人が話しかけてきた気がする。
若い?
私とおんなじくらいの男の人。
「私に話しかけていますか?」
「はい、あなたです」
私らしいよ。
勘弁してほしいよね。
「なんでしょう」
「あの、この前、大丈夫でしたか?」
「?」
なに、これってナンパってやつ?
きゃー、どうしよー。
なんて。
流石にスーツ姿の人間をナンパする人なんていないでしょ。
いたとしても自分勝手な猿くらい。
……あれ、職場にいるな?
「この前の、その、21時ごろの電車でのことです」
ストーカー?
実際にいるんだ、こういうの。
まー、いないことはないんだろうけど、こんな、身近に?
きも。
「よくわかりませんが」
「ええと、その、困ってらしたようだったので……」
はい?
……あー、もしかして、あの痴漢のか。
えー、無理。
顔なんて覚えてない。
「人違いではありませんか?」
「……そうですね。ごめんなさい、いきなり話しかけてしまって」
「いえ」
んー、こういう場合はお礼とかいうのが普通かな?
でも、別に困ってなかったし……
そもそもこの人かも覚えてないし。
んー、また機会があったらということで。
###
「明日香先輩、今日もこのまま帰るんですか?」
「はい」
「明日香先輩って、帰りにどこか飲みに行くことってないんですか」
「あまり」
鞄に荷物を入れながら返事する。
見てわかんないの、話したくないんですけど。
「あまりってことは、たまに行くんですよね? その時はお付き合いします!」
本当に結構です。
これが迷惑系後輩か、ぜひ滅んでください。
###
「こんばんは」
「……こんばんは」
そっかー……
またの機会っていうか、この時間の電車だといるってことか。
「私は
「電車内ですし、名刺の交換はやめておきましょう」
「そう、ですね」
そもそも、別に知り合いじゃないんだから話しかけてこないでほしい。
かえりたいよー……
###
命からがら、嘘だけど、帰ってきました我がマイホーム。
マンションだしマイホームじゃないかな。
「ただいまー、今日もお疲れ様ー」
自分で自分をねぎらうとかむなしい。
言葉でってのが余計に。
「おちゃけのもっかなぁ……」
扉の閉じる音がした。
もしかして、出てたのかな?
ってことは、聞かれてた?
……えっと、こういう時は病むって言うんだっけ。
病み酒?
ふざけてる場合じゃないわ。
ご飯用意しないと。
私、24歳OLです! 男の子飼ってます! 皮以祝 @oue475869
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