第45話:飛鳥、メイド雪ちゃんを堪能する?

 急遽決まった飛鳥のお泊り。

 さっきまではノリノリだった彼女も、二人きりになった途端緊張しだしたのか、動きが硬くなっていた。


「…飛鳥様、如何されましたか」

「ふえ!? あ、いや何も…というか、それ続けるの?」

「メイドですので」

「…すごい、ほんとになりきってる。雪、将来は役者さんとか、それこそ声優なんかいいんじゃない?」

「…そう、ですね。まあ検討はしてみましょう」

「あはは、うん! それじゃ早速ご奉仕して貰おうかな。よろしくね、メイド雪ちゃん」

「だから変なあだ名を付けないで下さい」


 そんなことを話しながら、何をしようかと考える。実際ご奉仕といっても、何をしたらいいかなんて素人のボクにはわからないし。


 ここは素直に、飛鳥にして欲しいことを聞こう。


「飛鳥様。私に何かして欲しい事がありましたら、お申し付け下さい」

「うん。…そうだなぁ、じゃあ先ずはご飯作って欲しいな。お腹空いちゃった」

「はい、かしこまりました」


 キッチンに立って、早速料理を始める。


 さて、今日は何にしようかなぁ。



 ―――私は飛鳥が料理している姿を眺める。


(何度見ても、可愛いなぁ。しかもメイド! 生徒会の人達はいつもあの雪を見てるんだよね)


 なんて羨ましい。けど仕方ないよね、雪の単位が掛かってるんだもの。


 …それはそうと、雪って結構何でも出来るよね。家事全般も勉強も運動も。

 ただ歌姫だからってだけじゃ無い。その可愛い見た目と優しい性格、一度決めたらどこまでも真っ直ぐに突き進む。そういう姿勢を常に見せるからこそ、モテるんだろうな。


「…こないだも告白されたんだよね」


 夏、一度雪を諦めて新たに始めようと決意したとはいえ、そういう話を聞いちゃうとやっぱり焦る。


 今日は頑張ってアピールしたいけど……。


「メイド雪ちゃんのご奉仕の前には、太刀打ち出来ないよね」


 今日だけは、彼……いや、彼女に甘えることにしよう。



 ―――絶品と言えるほどの料理を堪能した後、お風呂を済ませてリビングに戻る。


「雪、髪乾かして欲しいな」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 ソファに座ると雪が後ろに立ち、ドライヤーでゆっくりと乾かしていく。


 …それにしても。


「なんだか手慣れてるね」

「一応歌手をやってる頃から、見た目にも気を使っていたので。それに偶にですが、夕様にもやって差し上げていたので」

「…なるほど」


 ……夕さんか。

 そういえば、夕さんは雪のことどう思ってるんだろう。保護者とはいえ、血が繋がってるわけでも無いし、普通に恋の対象になるよね。


 逆に雪がどう思ってるのかも気になる。


 二人は何年も前からずっと一緒に暮らしてるし、お互い想いあっていても不思議じゃ無いよね。


「…飛鳥様、どうかされましたか」

「……え? あ、ううん。なんでも無いよ。それよりありがとね」

「いえ。他には何かございますか?」

「うーん、そうだなぁ……。あ、マッサージして欲しいな。最近ちょっとだけ肩が凝っちゃって」

「ふふっ。かしこまりました」


 私はソファにうつ伏せになる。

 雪は今と反対側に来て、私の横に膝をつく。


「では、始めますね」

「う、うん。お願いします」


 グッと程よい力加減で肩を揉まれると、それが気持ちよくてつい変な声を出してしまった。


「んぁ……んん……はぁ。それ、すっごく気持ちいい……あふ」

「もう少し力を抜いて下さいね」

「う、うん……ふぁ」


 そうは言うけれど、本当に気持ちよすぎてついつい力が入ってしまう。


 雪はそのまま肩から背中までやってくれた。というかこれも手慣れてる。


「ん…これも、夕さんにやってあげてたの?」

「はい。まあ最近は出来ていませんが、結構自身はあります」

「ふぁぁ……ん〜、すっごく上手ぅ」


 その後も20分近く掛けて丁寧にマッサージをしてくれた。

 ようやく終えると、私は完全に蕩けきっていた。


「ふぇぇ〜。気持ちよかった〜」

「ふふっ。なら良かったです」

「うん。雪は大丈夫? 疲れてない?」


 そう言いながら雪の手を取って少し揉むと、ちょっと筋肉が張っていた。


「あ、硬くなってる。今度は私がやったげるね」

「え、いえ。ですが…」

「いいからいいから」


 私が雪の手を優しく揉んであげると、雪は気持ち良さそうにした。


「………っ、ふぁ……んっ」

「…………」


 なんだろうか、イケナイ気分になりそうだ。

 雪の悶えるのを必死に堪えようとする姿と、耐えきれずに少し漏らしてしまう声で、なんだかドキドキしてきた。

 けど、続けてみたいという好奇心が勝り、私はお構い無しにマッサージを続けた。



 私のマッサージも終了した頃には、雪はダウンしていた。


「あ〜、ご、ごめん雪。やり過ぎちゃった?」

「……はぁ…はぁ、いえ…大丈夫です」

「あまりそうは見えないけど」


 そんなに気持ち良かったのだろうか。もしかして私にもマッサージの才能があったりして。


「…ふぅ。ほ、他には何かありますか?」

「ん〜。特にはないかな。それより雪、そろそろいつも通りに戻っていいよ」

「…あ、そう? じゃあ着替えてくるね。ついでにお風呂も入ってくるよ」

「いってらっしゃーい」


 雪がリビングから出ていくと、私はソファに寝転がった。


「……はぁ〜。それにしても…ほんと、気持ちよかったなぁ。なんだかちょっぴりお嬢様になった気分」


 今日は遊べて良かった。雪もみんなも、なんだかんだ楽しそうにしてくれてたし。

 こういう日がこれからもたくさんあるんだよね。


 そう思うと、これからの日々が楽しみになってきた。



 ―――ところで。


「…雪のお風呂……覗いちゃおうかな…」


 グヘヘ、とヒロインらしからぬ顔をしながら、良からぬことを考える私だった。

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