約束の花束をあなたに
桜餅爆ぜる
第1話 『出会い』
「__あなたはどうしてここに?」
誰も寄り付かない<迷いの森>と呼ばれる、深い森の中。
見上げるほど高い木の前でしゃがみ込んだ、フードを目深に被った黒いローブ姿の少女が問いかける。
だが、その問いかけられた者は答えることが出来なかった。
「ねぇ。あなたはどうしてここに一人でいる?」
二度、少女は問いかける。返事は泣き声で帰ってきた。
木の下にいたのは布で包まれた、一人の赤子。
赤子は何かを求めるように泣き続け、小さな手足を布の下でモゾモゾと動かしている。
まだ生まれて二月も経ってないであろう小さな小さな赤子に、少女はソッと手を差し出した。
「あなたも、一人?」
少女の手が優しく赤子の頬を撫でる。
赤子は少女の細い指を小さな手で掴み、力一杯握りしめていた。
まるで助けを求めるように、孤独から逃れるように。
求めていた温もりに、しがみつくように。
少女は頬を緩ませると、赤子を抱き抱えた。
「私も一人。奇遇ね?」
年端のいかない少女はその見た目からは似つかわしくない、まるで老婆のように落ち着いた笑みを浮かべる。
抱き抱えられた赤子は少女の温もりに落ち着いたのか泣き止み、ジッと少女の顔を見つめていた。
赤子の空に似た蒼色の瞳と、少女の赤色の瞳がぶつかり合う。
まだ生まれたばかりの赤子には、はっきりと少女の顔が見えていないだろう。
それでも、赤子はジッと黙って小女を見つめていた。
「私以外、ここに人はいない。まだ小さなあなたをここで見捨てれば、獣に食い殺されてしまう」
少女はそう言うと、赤子を抱き抱えたまま立ち上がる。
「だから、ここで出会ったのも何かの縁。あなたが自分で自分の生きる道を見つけるまで、私が面倒を見てあげる」
少女は握り込んだ手を伸ばし、パッと広げた。
その手からハラハラと色とりどりの花弁が舞い踊る。
そして、花弁が地面に落ちると、そこから一本の長い杖が伸びていった。
まるで地面から生えたように現れた杖を掴んだ少女は、片手に抱えた赤子に笑いかける。
「__この<花の魔女>が」
ふわりと風が吹くと、目深に被っていたフードが取れる。
宵闇のように深い黒色の長い髪。
血のように赤い瞳。
まだ幼さを残した、綺麗な顔立ち。
素顔が露わになった少女__花の魔女は杖に腰掛けると、またふわりと風が吹いた。
杖に乗った花の魔女は風と花弁と共に浮き上がり、空へと舞う。
迷いの森に住むと言われる、花の魔女。
百年近く生きる、永久に若く死なないとされる魔女の一人。
悠久の時を生きる花の魔女が、迷いの森に捨てられていた赤子を拾ったこの時から、物語が始まる。
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