デニス・ムーア太郎
人間代表
第1話
さて、金銀珊瑚に瑠璃瑪瑙、如意棒真珠に打ち出の小槌と鬼ヶ島から獲れるもの残らずもらって返ってきた桃太郎、じいさんばあさんと仲良しこよしで裕福な世活を送っていた。そこにやってきたのは鬼ヶ島の鬼の残党、頭の切れる緑鬼である。この緑鬼、桃太郎が一人で川辺をぶらついていたところにいきなり声をかけてきた。
「やい桃太郎、その後はどうだい」
「やや、お前は鬼ヶ島の。どうだいとはなんだ、復讐に来たのではあるまいな。村にちょっかいかけるってんなら容赦しねえぞ」
鬼ヶ島の鬼どもはほうぼうの国を荒らして財宝を集めたと聞いていた桃太郎、小さな村など襲われればそれまでと警戒し、腰の刀に手を伸ばす。
「待て待て早とちりをするな、俺は鬼ヶ島からは追い出されたのさ。お前が島を荒らしたせいで、島は貧しくなっちまった。それで腕っぷしの弱いのから間引かれてんだ。自慢じゃねえが俺は喧嘩が弱い。そんで真っ先に追い出され、流れに流れてたどり着いたは隣の山、今はそこで細々狩猟採集生活よ」
「人から奪った財宝で食いつないでおいて俺のせいとはなんだ、そもそも隣の山から何の用だ。」
「なに、お前が俺たちの財宝を正しく使っているかが気になってな」
「奪った宝で遊び暮らしたような野郎に言われたかねえや。俺が手に入れた宝だ、俺が好きに使って何が悪い」
「いやいや、まあ、それはそうだ。悪かったよ、好きにつかやいいさ、好きに。邪魔したな、俺は帰る」
さっきは威勢よく緑鬼を突っぱねた桃太郎だったが、こんな言われ方をされると相手が鬼でも気になって仕方が無い。碌なことを言うような連中ではないと頭では分かっていたものの、ついうっかり緑鬼を呼び止めてしまった。
「おい待て、俺の使い方が間違ってるというのか」
自分を呼び止める声を聞いた緑鬼、にやりと笑った後すぐに神妙な顔を作って振り返る。
「お前、再分配を怠っているんじゃないかい」
桃太郎は面食らってしまった。さいぶんぱいだと。一度も聞いたことがない言葉だ。しかし相手は腐っても鯛、間引かれても鬼、弱みを見せるわけにはいかない。この場はハッタリかましてごまかした方が良さそうだと桃太郎は考えた。
「さいぶんぱい、なるほど、さいぶんぱいか。小癪な鬼め、俺がさいぶんぱいをしないわけがなかろう。そりゃもう、いただいた財宝の隅から隅まであますことなくさいぶんぱいしておるわ」
嘘がばれぬようあいまいな話で茶を濁そうとした桃太郎だったが、そこは頭の切れる緑鬼、桃太郎の知ったかぶりを見抜くのに、それ以上言葉を交わす必要はなかった。
つづく
デニス・ムーア太郎 人間代表 @ningen_daihyo
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