狼と猫

雪 ノ 猫

第1話

 ふたさわ学園がくえんは三年間クラス替えのない中高一貫校である。そんな二季沢の中等部に通う小高こたか佳孝よしたかは三年生。他の中学生が高校受験へ必死に頑張る年度。にもかかわらず彼はいつも通り、男友達と三人で早川はやかわ美嘉みかに嫌がらせをしていた。

「早川ってチビだよな~」

「ホントになー」

「けど胸はそれなりにあるんだよなー」

「おいおい、本人がそこにいるのに言ったらダメだろぉ~?聞こえるじゃねーかぁ!」

「えー?別によくね?」

「それもそうだな!」

「「「ははははははっ!」」」

 ――とまあ、こんな感じで。

 美嘉は目に涙をためて、肩を震わせている。

 美嘉の回りに人が集まってきた。

「美嘉、あんなゴミの言うことなんて気にしなくていいよ!」

「ありがと……」

「早川は良い奴だよ!ゴミ孝なんて無視して良いから!俺が代わりに謝る!すまん!」

「君は悪くないよ……ありがとう」

 美嘉の顔に笑顔が戻った。花が咲いたような雰囲気に、集まったクラスメート達は和んだ。

 美嘉はその優しさとルックスの良さから男女共に人気だ。クラスの妹的存在。

「あいつら、美嘉のこといじめやがって……私達の美嘉を傷付けるなんて!」

「あり得ない!」

「無視だよ、無視!授業中当てられても答えなんて教えてやらない!」

「俺も手伝う」

「私も!」

「ウチもやる」

「こっちも無視する!」

「……僕もやる。早川さんをいじめるなんて最低だ」

 美嘉をいじめている佳孝たちはクラスメート全員から影で敵視されていた。



 ◆◆◆



 折しも六月。前期の中間テストがあった。

 今日はそのテストが帰ってきたのだ。

「うっわぁやっちまった」

「佳孝どーしたよ」

赤点三十点だ」

「お前~、再テストだな!イヒヒッ!」

 そう、進学校のここ二季沢学園では、中学生でも赤点を取ると再テストがある。それで不合格ならば夏休みの補講に強制参加させられる。

「えー別によくね?どうせ補講受けるだけだ、ろ……って、え!?」

 黒板に張ってあった補講の日程表。三年前に亡くなった祖母の法事と補講が被っている。

「佳孝~?よ~し~た~か!どうしたお前、おかしいぞ?」

「あ……いやぁ、すまん、何もない」

「ふ~ん?そうか」

(ばあちゃんの三回忌じゃねぇか……絶対行かねぇと……!)

 そんな佳孝達を無視してクラスメート達は美嘉へ質問へ行く。

「美嘉は何点……凄っ!九十八点!?他もほぼ百点じゃん!」

「え、えへへ……」

「ここどうやったの~?私分かんなかったんだ……」

「ここをこうして――」

 美嘉が友達の一人に解説していると、あっという間に人が集まってきた。

「早川すげぇな。……あのさ、ここは?」

「それはね~……」

「えーじゃあこれは?」

 美嘉はそれぞれの質問に答えていった。

「美嘉~!ありがとう~!!」

「ふふ、どういたしまして!」

「早川、サンキュー。助かった」

「また分かんないところあったら聞いてね!」

(ふーん、美嘉って頭良いんだな……)

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