第48話 悲嘆と疑問

第七章

『立ちあがれ兵ども!! サー・アンドルーは言う。

おれは少しばかり傷を負った。だが死んではおらぬ。

暫し横たわり、いくらか血を流そう。さすれば起きあがり、また戦おうぞ』

         サー・アンドルー・バートンの歌


しかし僕は、今いる場所にこれ以上とどまることはできなかった。夜明けの光は僕にとって厭わしかったけれどさらに、力強く無垢で無遠慮な日の出について考えると、もう耐えられなかったのだ。ここには僕の顔を冷やす泉などなく、流された苦い涙に、僕の顔はずきずき疼いていた。……それにもしエデンのように清浄な水が流れていたとしても、僕はこの洞穴の泉で顔を洗いたくはなかった。僕は立ち上がり、弱々しくその『墓場の洞穴』を後にした。どこに向かっているのかもわからなかったが、それでも太陽の昇る方へと僕は歩んだ。鳥たちが唄っていたが、それは僕のためにではなかった。あらゆる生き物たちが、おのおの固有のことばで話していた。それらの『世界』は僕になんの関わりもなく、また僕もそれらに注意をはらって、妖精界の『鍵』を見出そうとはしなかった。

僕はトボトボ歩きつづけた。僕を何より苦しめたことは―たび重なる警告を無視した僕自身の愚かさでさえなく―縺れ絡まった内心の疑問だった。どうやってあのような外見の美しさと内面の醜悪さが、隣り合って存在できるのか? …彼女の豹変した外見とその嫌悪の表情を見、彼女にまつわる女神の幻想から醒め、彼女が生きて彷徨い歩く棺桶、人を欺く不実な裏切り者だと知った。だがこれらのすべてにもかかわらずなお、僕は彼女が美しいと感じていたのだ。僕はこうしたことについて深く物思い、その葛藤は軽減されなかったが、まったくの無駄というわけではなかった。それから僕は、自分を救助してくれた人がどういう風にしてくれたのかについて、以下のように推測した。冒険を求めてさすらっているある英雄が、森にはびこるトネリコについて聞き、また直接(じか)にその邪悪を攻撃しても意味がないことを知って、彼の戦斧でトネリコの棲む宿り木、すなわち奴が森で振るう災いの力のもととなる本体の『幹』を叩いたのだ。「まちがいなく」僕は思った。「かの悔い改めた騎士、邪悪が僕に降りかかると警告し、懸命に喪われた誉れを取り戻そうとしている彼が、その同じ悲しみに僕が沈み込んでいた間に、危険で奇怪な『もの』について聞きつけた。そして彼はちょうどあの時トネリコの木のもとに辿り着いて、今まさにトネリコの根元に引き摺られ、腐肉のように埋められ、より深く未だ満たされぬ渇望の糧にされようとしていた僕を救い出してくれたのだ」僕は後になって、その推測の正しさを探り当てた。また戦斧の打撃がトネリコの意識(セルフ)を幹に呼び戻した時、彼は奴とどう渡り合ったのだろうとも思ったが、それについても僕は後に知った。


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