左府くんを自殺に追い込んだ人たちが許せないから今から殺します。
荒川 麻衣
第1話
なんでこんなことするのよ?
私たち、友達だったじゃない?
友達。
友達ねぇ。
あなたがたはそれを目撃する。その女の手の中には。目玉が2つ。
そして、あなたは聞くことになる。
呪いの言葉を。
「それ、魚の目玉じゃないよ。
よくできた、ゼラチンでできた偽物。
か、本物の人間の眼ん球。
これは映画の撮影なんかじゃない、
リアル、なんだよ。
あなたが知っている幻影の良い子ちゃんな私は、
あなた方が何を言ってもゆるしてくれる聖人君子!で、
優しくて誠実でいじられても何されても反応しない。
私の家族がそれでどれだけ迷惑したことか。」
あなたはそれにこう反応する。
「だってそれはあなたの責任でしょう!
世の中には舞台に出たくても出られない人間がいて!
あなたは恵まれているじゃない!
私、出たくても親に止められたんだもん。
私だって出たくて出たくて仕方なかったし、オーディションに出たかったのに」
無邪気に、そう言う。
高校生には、そう言った若さ、馬鹿さとも言う、残酷さと無邪気さがある。
小、中、高とテストで100点取るのが当たり前の優等生たちは、押し付けがましく、恩着せがましく、自分たちが正解だと信じて疑わない、無垢な魂。けして少年院に入ったことがない、罪を犯したことがなく、親は両方そろっていることが多い、養父母ではなく実の両親に育てられ、施設育ちではなく、おのれの地面の下に死体が埋まっていることを知らない。その地面は死体を埋めてできたものだ。
海面の埋め立てにはゴミ、廃棄物が使われると言う。
では、全国にある干拓地には何が埋まっている。古墳の下には。なぜ、人身御供、ひとみごくうが必要なのか。人間の遺体は、土台建築に最適だからだ。だから、神社の下には無数の白骨死体があって、ガイコツたちが堅牢な土台を築いていると言われている。この無垢な瞳たちは、生贄そのものなのだよ。
「誰」
声が聞こえる。私は、その声を消した。
声を消すには、ひとつしか手段がない。
人を死体につくりかえる、簡単な作業だ。
グランギニョル。残酷な、タイタスアンドロニカス、シェイクスピアの時代、悲劇とは。
登場人物が死ぬことを意味する。
つまり、これは悲劇なのだ。
私は、これから、あなたがたを消す。
「消すって何。私たち」
ああ。君たちは知らないのか。
目の前にいる君たちは、いつだって忘れっぽい。
「あなた、誰」
誰って。この前あなた方が殺した相手の双子だよ。
「双子??見た目、全然違うじゃない」
ああ。君たちにはわからない、通じないから、これから死ぬ君たちにプレゼントを送ろうと思う。
この日本には、世界にも珍しい、双子の劇場があって、そのひとつが東京グローブ座、そして、この、水戸市にあるのがアクターズ劇場。屋内型のグローブ座、シェイクスピアの時代の様式で、海外にも滅多にないか、あるかどうかは知らないけど、少なくとも、本家のグローブ座と違って全天候型。そう言う意味では、能舞台と似ている。能の舞台は昔、屋外だった。
歌舞伎は最初は女のみのストリートダンス、屋外だったがそのうち、テント、いわゆる小屋で演じられるようになった。
シェイクスピアと歌舞伎は同じ時代の生き物で、しかしながらシェイクスピアの国は男性だけで演じられたあの様式を放棄し、歌舞伎だけが男性だけで演じる、という様式美を継承した。そうだ、最初の歌舞伎踊りは出雲お国だから、女性だけによるアイドル活動がいつの間にやら美少年だけに、そして、いくつかの時を経て野郎歌舞伎と若衆歌舞伎を合わせた独自の美しい美を作り上げ、僕はここにいる。
「女か、お前」
私、男よ。左府くんは親友でね。
左府くんと私が並び立ってニコニコと話していると、左府くんと付き合っているんじゃないか、という噂が出たこともあるけど。仕方ないじゃない、世の中の人は私が見た目の性別が女子だけだと言う理由だけで、見た目が男な人間と、見た目が女が人間とが2人並んでいるだけで、私たちが付き合っている、と噂して。左府くんが追い込まれて死んだのは、あなた方のせい。
左府くんが時々東城から地元に帰ってきたのは、私に会うためじゃない。
実は左府くん、弟がいたんだよ。その弟がいるのを公表していなくて、その「弟」、と会うために来ていて。私と付き合っている、という噂さえなければ、左府くんは今でも生きているはずだから。
私、自殺に追い込んだ相手を探し当てたの、この前さ。
身体を売ったわけじゃないのよ。
精神的にペラペラしゃべり出すの、みんな。私がペラペラと秘密を打ち明けたら、罪を告白してくるの。仕方ないじゃない、そう言う星に生まれついたのだから。
自殺じゃなくて、他殺だって、泣きながら訴えたから、泣き止まないから抱っこしてあげたの。高い高いしてあげたら、いつの間にか泣き止んでいたわ。
左府くんの自殺を、学生新聞部のあんたらは、面白おかしく書き立てた!
左府くんは、左府くんはそんなんじゃない。
東城と冲城を行ったり来たりしていたけど、東城になんか染まったりしなかった。
芸能記者さんと違って、学生新聞は勝手だから。
一面、左府くんの死亡について紙面を埋めるなんて、はっきり言って、狂気の沙汰でしょ。
殺したくなかったんだけど。
ほら、先日、自殺促進法が生まれたじゃない。
だから、あなた方は、ここで自殺するの。
私と一緒に。
集団自殺って奴。
だって、左府くんの自殺をあんなに騒いだんですもの。
自殺を望んでいるあなた方に、死をプレゼントしてあげる。
だから、一緒に死のう?
左府くんを自殺に追い込んだ人たちが許せないから今から殺します。 荒川 麻衣 @arakawamai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます