第9話 悪魔の揺り籠
エメラルドシティ12区ー。そこは、大量のドールの進攻で、今や廃墟と化していた。
とある崩れかけた高速道の橋の下で、街灯がチカチカ点滅していた。その街灯のが点在してある広場の端向こう側から、母親と10歳位の少年が談笑しながら歩いている。すると、街灯の点滅は益々速くなっていくー。しかし、二人は気にも泊めずに喋り続けている。
その様は一見、異様であった。人間は食い殺されたり避難するなどして、殆どもぬけの殻と化した広場の中で、表情一つも濁さないどころか、楽しく盛り上がっていた。それが逆に異質に見え、その様は不気味にすら見えるのだ。
二人が広場の中央に差し掛かった頃、いきなり母親の頭から湯気のような物が吹き出し、小刻みにカタカタ揺れ始めた。
少年は違和感を感じたようだ。そして揺れは次第に強くなっていく。湯気も沸騰したかのようにフツフツ強くなっていった。
「お、お母さんー?」
母親の身体は粘土細工のようにグニャグニャ変形し、少年にもたれ掛かった。少年は身体をガクガク震わせ、後退りした。
母親の身体はスライムの様に崩れ膨張し、再びグニャグニャ変形させると、蜘蛛の様な姿を形どった。
ーそれは、ドールである。 蜘蛛の様な姿をした全長5メートル程のドールは、口から糸のようなスライムを吐き出し、少年にべっとりと巻き付いた。そしてカチカチ口を鳴らし、ぱっくり口を開けた。
すると、二人の背後の暗闇の向こう側から、アクアブルーのオーラを纏った
そして落ちていく少年を、女子高生の様な格好をした少女がキャッチした。
「オクタビア、待ち伏せしたかいがあったね。」
「リリー、後は私が時間稼ぐから!」
「了解!」
「ーお母さん。」
少年は、錯乱して、瞳を小刻みに揺らしている。リリアンは、その様を見て憐れんだが唇を噛み締め、少年を抱き抱えながら、忍びのような素早い身のこなしで遠くへ避難した。
オクタビアは
オクタビアの持つ
「早く向こうに逃げて!」
少女は少年を下ろし、そう叫ぶと再び駿足でニソウの槍を携え、ドールの方へ向かった。
そして桃色のオーラを纏うと、突風の様な歯切れの良い剣さばきで、ドールを4つに切り刻んだ。
すると、4個のブロックはカタカタ揺れながら襲いかかる。切断された部分はボコボコ泡をたて、再生し始めた。再びひとつの塊になり、蜘蛛の姿を形した。
「何なのー?コイツー」
オクタビアは
「ホントに図太いよね!」
リリーと呼ばれた少女は槍ファルカタを振り上げクロスさせると、
槍から火花が飛び散り、そこから細い無数の線が発生した。その無数の線は幾何学模様を描きながら絡まり、次第に大きくなり大蛇の様な形態に姿を変えた。大蛇の姿をした炎は、火力を強め、包み込んだ。
ぶくぶく沸騰し、溶けていくー。
リリアンの持つ
ーが、しかし、溶けたはずのドールは再びボコボコ音を立てて再生し、元の姿に戻った。
「また、再生?」
リリアンは、呆気に取られ、身体をがくんと下げた。
異様に不気味で静かな沈黙が、流れる。すると、オクタビアは少年の方を向いた。さっきまで泣いていた少年はピタリと動きを止め、頭をがくんと下げていた。
ー何故、あの少年は逃げないのー?
すると、少年の身体は小刻みに揺れていた。彼女はそれを怪しみ、
「ーリリー、本体は向こうの少年!コイツは分身だよ!」
すると、少年の身体がカタカタ揺れ、口もぱっくり開いた。首が長く延びカクカク揺れ、そしてジグザグに変形した。両腕が延びると、黒く変色し、蟹の脚の様な形状になり、二人目掛けて襲い掛かる。触手はジグザグと激しく鞭のように振動しながら二人を捕らえようとした。
そして、激しい地響きがおき、地面がぐらついた。すると、少年の姿をしたドールはけたたましい高笑いをすると、ギザギザしたは歯と舌をのぞかせた。舌からは涎が垂れている。
二人はジャンプをしながら触手をうまく避け、標的目掛けて突進する。
二人はそれぞれ力を発動すると、槍を少年の額に突き刺した。
「ギャハハハは!」
高笑いと地響きはは益々強くなっていくー。少年の口から黒い炎をはきちらし、そこから吸い込まれるほどのとてつもなく重い気圧と異臭を放った。
「リリー、足りないよ。」
「くそう。あと少しなのにー。」
二人は懇親の力を振り絞るが、少年の高笑いと気圧は益々強くなっていく。
ーその時、少年の背後の暗い茂みの中から茨の様な
ー彼は、おびたたましい悲鳴を上げ、そして粉々になった。
「「サラ!」」
茂みの暗闇の方から、サラは姿を現した。
「いつの間に居たの?」
リリアンは、槍を下ろすと目をビー玉の様に丸くした。
「遅くなったわね。大事な用を終わらせてきた所よ。」
茨は緑の炎を放ちながら、次第に小さくなっていく。
「ルミナ?ー?あの子、どうなったの?」
オクタビアは
「大丈夫よ。ドールにはなってない。」
そう聞くと、二人は安堵の溜息をついた。
「所で、何で最近になってから、何でクロスが動きはじめたんだろう?最近までずっと大人しかったよね。魔王石を取り戻すにしてもー」
リリアンはキャンディの包みを開け、口にほうり込み、ボリボリかじっている。
「天野マコトが覚醒したらしいわ。」
サラはそれを気にまもとめずに霧の向こう側に浮いている、おぼろ月を眺めながら、淡々と話しはじめた
「え、天野マコトー?あの、魔王の生まれ変わりのー?だから動きがー。」
普段は純真無垢で天真爛漫なオクタビアが急にシリアスな面持ちになった。
「今、その子、何処にいるの?」
リリアンは飴を全部かじり終え、悠長に二個目の包みを開けながら、聞いた。
「エリアムとベロニカを助けた後、急に消え去ったらさしいー。まあ、無害だけど、アリエル側に寝返ったら、終わりだわね。そうならないように、メリッサとエリアムが彼の行方を探ってるわ。」
サラは冷めた顔をしている。その瞳はまるで、奥深い底なし沼の真理にたどり着いたかの様である。
「アリエルって、エリーの敵じゃん。あの、双子の妹さんもドールにされちゃったし。ーせめて
オクタビアは、声のトーンを下ろし、腕組をしていた。
「無理よ。アリエルには『黄衣の王』がついてるんだもの。」
サラは以前として冷めた口調で話していた。
「『黄衣の王』ー?それ、最悪じゃん。」
リリアンはまた別の棒付きキャンディの包みを開けながら、眉をしかめる。
「そうよ。最悪ー。」
サラは、物憂いそうな目をしていた。そして、オクタビアはハッとした。
「ねえ、アリエルってクロスと敵同士だよね?もしかして、クロスはアリエルに対抗するために天野マコトを覚醒させたのかもー」
「それは、有り得るかもねー」
「やるせねーよな。」
時計塔の屋上から、ルミナはぼんやり景色を眺めていた。ルミナにとって、時計塔は一番心を解放される場である。その時計塔には、いつの日からか猫が住み着いているのだ。
他者に対して一切心を許さず、弱みを見せない彼女だが、この猫の前では何故か弱みや赤裸々な気持ち、ありのままの自分をさらけ出せるような感じがしている。凍りきった心を解かしてくれる、そんな親友のような存在となっていたのである。
今まで自分の周りの物達が次々となくなった。産みの親ー。育ての親ー。親友ー。そして、かつての愛した男ー。もしかして、自分と関わった者は不幸になる運命なのではと思わざる終えないー。子供のころから自分は周囲と違っていたー。周囲は自分をおぞましい化け物でもー、悪魔でも見るかの様な顔つきで、見てきた。今までずっといろんな人から邪険に扱われたのはは日常茶飯事であった。今まで、何人もの仲間が亡くなる事もあった。そんな事もあってか、仲間は次第にルミナと距離を置くようになったのだ。ルミナは常に一人であった。心に氷の鎧を着ていたのだ。ルミナはそういった恐怖と対人嫌悪かから次第に他者との関わりを避けるようになっていった。アルファになり仲間が出来たが、親友と愛した男の死から益々対人に置ける恐怖と嫌悪感が加速されてしまっていた。心の疲労感からくるものと、仲間をもうこれ以上失いたくはないー。誰も不幸になってほしくはいと言う思いが強かった。時々、寂しく感じる事があったが、自分には本当の仲間なんているはずもないし、周りのの幸せの為には自分が身を引くべきなのだと心をドライアイスの様にカチコチに凍らせ、わざと他人にキツく当たり、人を遠ざけた。それが今でも変わらないー。ルミナは他の仲間達より戦闘能力も格段につよいー。しかし、何で自分だけがこんななんだろうかと、不思議に感じることが多いー。それもあってか、彼女は益々孤立するようになる。
そんな昔ー、ルミナの養母はダークネスじゃないのかという噂があったが、真相は定かではないー。ただ、一つ確実に言えることは、養母はとてつもなく強く、そして不思議な力で自分のことを確実に脅威から守ってくれるて言う事である。養母は厳しい人であったが、今思えば、厳しさのなかには愛情で満ちあふれていた人なのだと言うことである。しかし、何故自分と距離を取りたがり、あんなに厳しかったのかは定かではない。
眼下にはメリッサとエリアムの姿がある。二人は何か話ながら歩き、そして従者の運転する車に乗る。
「ー仲直りしないの?しばらく会えなくなるわよ。
振り向くと、そこにはサラがいた。
「ーいいんだ。何かあいつ、苦手でさぁー。そいで、また怒られちまった。私は堅苦しい奴が大の苦手なんだよ。」
ルミナは口からタバコの煙を吹き出しながら、ぼんやり下の景色を眺めていた。
「あら、彼女、いつもあなたの事を気に掛けてるわよ。あなた達、旧知の間柄でもあるでしょ?それに、ドール化が進んでるんじゃないの?」
サラはルミナの右隣に来ると、手すりにもたれ掛かる。ルミナはハッとする。
「ーどうしてそれをー?」
「知ってたわよ。とっくの前からね。」
「何だってー?」
「だから、こうやって彼女、あなたとクロスを引き離そうとしてるでしょ。近づけない様にね。」
「だから、それがおせっかいなんだよ。はぁー、面倒くさい奴ー。」
ルミナはズボンのポケットからタバコを取りだしくわえると、ライターでカチカチ火を燈した。
「はい。これ、例の抑える薬だから。」
サラは上着のポケットから青緑の液体の入った小瓶を取り出し、ルミナに手渡す。
「おい、そう言えばお前ー、私を助けた時、シエルを殺さなかったなー。お前の事だから、サクッととどめを刺すものとばかりにー。」
ルミナは煙りをはきだし溜息をつきながら、遠くを眺めているー。
「馬鹿ね。出来たら苦労しないわよ。」
サラも一緒に空を眺めている。
「そうだよなあ。これでも一応、仲間なんだからな。」
「それもあるけど、彼女のバックに何か気配を感じてね。手出しがしづらかったのよ。それに何か紅いオーラに守られてる気がしてー。」
「ー心当たりは、あるのか?」
「ー私、昔対峙した事かあるわ。紅のシルクハットとコートの、謎の女ー。」
「おい、まさか、ソイツはダークネスじゃないだろうな?」
「ーそのまさかよ。」
サラは黒目を細めた。
「その事ー、他に知ってる奴はー?」
「メリッサと、エリアムと、まあ、グループのメンバーは殆ど知ってると思うわ。」
「何で、私に黙ってたんだ?」
ルミナはかっとなりサラの方を向いた。
「あら、その事、あなたが自分自身でよく分かってる事なんじゃないの?あなたは、暴走機関車だもの。」
サラはショートボブの黒髪をかきあげた。
「ーでも、あいつ《シエル》の事は言うべきだったぜ。」
ルミナは薬を飲み干し、声のトーンを急に落とした。
「だったら誓って。もう二度と勝手に単独で動かないで。」
「ー」
ルミナは無言で下の景色を眺めていた。
ーいいかい。お前の名前は今日から『ルミナ』だー。あと、私の事はあまり他人に話すんじゃないよー
その事は、養母がよく言っていた言葉だ。
ルミナは幼少の頃ー、養母と深い森の中の丸太の家で暮らしていた。
ルミナは外出を規制される事が多かった。半ば監禁されていたかのような感じもしたが、がー、それは今となって分かるような気がするー。私は化け物なのだー。強すぎるのだー。異常者だからなのだー。だから、周囲から、傷つけられないよいに養母は自分の事を守ってくれていたのだと、
しかし、そんな堅苦しい日常の中にも平和で安らぎの時間があった。
初めて友達ができた時である。彼女はアルファの卵であり、戦闘見習いの立場なのだと言っていた。彼女に、自分もアルファになりたい、一緒に戦いたいと言っていた事があったが、彼女は頑なに首を横に振った。
ールミナには、幸せになってほしいー。私のようにはなって欲しくはないー。
そう言ったのを覚えている。その意味が良く分からなかったが、その後、自分がアルファになったとき、その意味が痛いほど良く分かるのである。
そんなある日、養母は呪文を唱えた。
ーイア・イア・ハスターー
すると、その瞬間養母は青紫の炎を纏いながら、無言で命を落とした。それは、どんな意味の呪文だったからはっきりとは覚えていない。何で養母はその呪文で命を落としたのかは分からない。しかし、養母は何か大切なものー、自分の絶対に譲れない確固たる信念を守るために自分を犠牲にしたのだ。
そういう気がしてならないー。
ルミナは養母が亡くなった時、何か硫黄の様な腐負臭がしたのを覚えている。うるおぼえだが、黄色い服を来た化け物がふわりと宙を舞い、黄金色の炎を纏い風に乗って何処かに消えたのだったー。
ソイツのせいで、養母が亡くなったのは確かなのだがー、顔は布で隠れていて見えなかった。ただ、印象的だったのは、布には赤い風車のような模様が印されてあったということだ。メリッサやサラに聞いても彼女達でさえ、知る手掛かりが掴めないのであるー。
ー黄色い服を着た化け物ー。それは、通称ー、『黄衣の王』であるー。
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