第3話一緒にお風呂3
誰かと一緒にお風呂入るなんていつぶりだかわからなくて、銭湯なんて言うのも行かないし、昼間も夜ご飯の時も緊張しちゃってどうすればいいかって戸惑ってた。
お姉ちゃんに不審がられたけど、とりあえずお姉ちゃんに先に入って貰って、後から入るのにドキドキしっぱなしで。
って言うか、どうせならお姉ちゃんと入りたい。
そりゃあ、時雨だってお姉ちゃんより大人でスタイルも良くて、胸が大きいって訳じゃなくても、美人で髪も長いから憧れるけど、お姉ちゃんの優しさからはほど遠いんだから。
お姉ちゃんになら、あんなとこもこんなとこも洗われても全然平気どころか、ご褒美ですけどってなもんなのに。
そうして、お姉ちゃんが出て来て、お姉ちゃんが飲み物を入れて部屋に引っ込むのを待って、わたし達はお風呂場に向かった。
「ささ、お嬢さま。脱いで下さい。はあはあ」
鼻息荒いのもどうも危ない気がするんだけど、やはり人に肌を晒すのはかなり恥ずかしい。
「先に脱いで入っててよ。恥ずかしいから、ここで見られるのヤダ・・・・・・」
「了解です! 何と奥ゆかしいんでしょう。ではお先に失礼して」
そう言って脱いでいく時雨の肌は、やはり太陽に当たらないから、日本人なのに相当白い。
だからちょっと羨ましくもあるけど、どこか病人めいてもいて、少し可哀想だなとも思ってしまう。
肌って太陽からビタミンなんかも吸収するらしいけど、吸血鬼の場合は必要じゃないんだろうか。
それも気になっている内に、さっさと脱いで入って行ってしまう。
いやしかし、本当に綺麗だったな。
はあ、どんどん意識しちゃってるけど、どうしてこんな事になってるんだろうか。
そしてわたしも服を戸惑いながら脱いでいく。緊張して生唾を飲み込むのだけど、何だか現実感がない。
こんなのでお姉ちゃんの裸なんて見ちゃったらどうなってしまうのか。あんな女でもこんなにドキドキしてるのに。
最後のクマさんパンツを脱いで、戸を開ける。
「・・・・・・お待たせ。あ、中入ってるんだ。わたしも入るね」
何故この女がいるのに中に入ろうとしているのか。それはこう言う訳だ。
だって、お姉ちゃんが趣味で真っ白の温泉の元を入れているから、これなら浸かってしまえば体が見えないではないか。
「自分から近くに来てくれるなんて感激です。ささ、失礼して」
言った傍からお触りして来る! 禁止って言ったはずなのに。
いや、うん?
なんか確かめるようにねっとり触られてる感じで、変な感触だよこれ。
「細いですねー。もうちょっと肉付きを良くした方が健康的でいいですよ。うん、やはりここはまだ発育してないですねー」
わわわ! 胸! どこ触ってんだ!
「アンタ、どうしてそんな事してんのよ。お触りは禁止だって言ったでしょ」
ふふふと余裕の笑みを崩さないので、こちらがたじろいでしまう。
って言うか、眼鏡外してるから、微妙に見えない。
「何、これは身体測定みたいなものですよ。もっとちゃんと採寸もしたいですけど、そうしたらお洋服とか作らせて頂けます? しかし健全なようで安心しました」
うう。膨らみのある胸が二つ、目の前に。
そして、少しぼやけている美人の顔がすぐ傍に。
髪はまだ括っているから、後でほどいて洗うのだろう。わたしもそうしてる。
そこまで長い訳ではなくて、それでもまだまだ伸ばしてる最中なんだけど。
「じゃあ、お湯から出るから、体、他の所洗ったら、お願いね。もう変な事したのは、水に流すから」
「お風呂のお湯だけにですか。上手いです!」
誰もシャレで言ったんじゃないんだけど。そう言う時雨を無視して、わたしはタオルに石鹸を擦っていって、それから念入りに体を洗う。
どこか几帳面な性格が表れてるのか、わたしはいつも凄く丁寧に洗うのだ。
だから、上手く背中が力を込めて洗えないのがもどかしくて仕方ない。
それが解消されるのなら、こんな風に変態とでも一緒に入るのもいいのかな。
わたしがお尻とかの裏側を洗う為に立ち上がって洗っていると、可愛すぎですブラボーと言う声が聞こえて来て、頭痛くなりそう。
どうして一挙手一投足何にでも萌えてるんだろうか、このお姉さんは。
お姉さんとはもっと余裕を持っていると思っていたけど、これはお姉ちゃんだけの優れた美点だったんだろうか。
「ほら、してくれる。背中届かなくて、結構大雑把だから、結構垢溜まってるかもしれないけど」
「お任せ下さい。それも私の勤めですよ。何なら、素手で優しく綺麗に洗って差し上げましょうか」
「変なオプション付加しようとせんでいいの! 普通にしてよ、お願いだから」
そう言うが早いか、出て来た時雨は、わたしからタオルを受け取ると、背中をごしごしと擦ってくれる。
結構優しい手つきで、それでいて力強いから、安心する感じ。これで変態的な呼吸が後ろから聞こえなかったら完璧なんだけどなぁ。
「ああ、お嬢さまの背中、とっても綺麗ですよ。あ、お尻に蒙古斑があったのも見逃してませんよ。キュートです」
こいつ、どこ見てんだか。
でも、スッと背中を素手で触られて、別にエッチな手つきじゃなかったから、悪い気はしなかった。
何だか安心する。こんなに人とお風呂に入るのって気持ち良かったんだ。
「じゃあ、体流して、頭もしてしまいますねー」
されるがままのわたし。
体にお湯を掛けてくれて、前に回ってそっちも掛けてくれる。
おや? こんな風にされてたら、昔のお姫様にでもなった気分。
ふふ、そうだ。こいつはメイドなんだから、やって貰っても悪い事はないんだ。
でも、まふちゃんが聞いたらどう思うか。冴ちゃんには馬鹿にされそう。
頭にお湯が掛けられて、それからシャンプーでごしごしされ始めたので、わたしは目を瞑った。
いつも自分で洗う時も目は瞑ってるんだ。別におかしくないよね。
「お嬢さま、かなり髪がストレートにサラサラなの素敵ですね。固い性質もありますけど、こんな黒髪は将来に渉って、大事にして欲しいですよ」
なんか言ってる。素直に聞いてやろうじゃない。褒めてくれてるんだしね。
かなり気持ち良くこっちもしてくれるけど、美容師でもないのにこんなに人の髪洗うの上手いなんて、経験でもあるのかしら。
昔に誰かと付き合ってたとか? 別にわたしには関係ないけど。
「さ、流しますから、気をつけて下さいね」
ザザーと熱いお湯が掛けられる。
それで綺麗に洗い流してくれて、わたしは最高の状態と言えたかもしれない。
全部終わってから、ああ先にしておくんだったとちょっと難儀しながら顔を洗う。
その間に、時雨も素早く洗うのだけど、これが大分手際がいいのに手抜かりはなさそうで、流石出来る女は違うな。
浸かってる時間を長くしようと思うにも、体を洗う時間を効率良くすれば、長湯もし放題だしね。
わたしはぼんやりして、その姿を見ていると、頭を洗って濡れた髪がまた凄く綺麗だった。
こう言うのって色っぽいって感じなのかな。
そうして見惚れていると、流し終わってこちらを向いた時雨はニコッと微笑む。
あれ、何これ。
凄くいい顔に見えた。
さっきまでの変態的な笑顔とは違う、凄く切なさも悲しさも何もかも通過して来たのを垣間見せる大人の微笑。
ドキッとして、わたしは無言でそれに何も言えずぽけっとしていた。
「じゃあ、最後に浸かって出ますか。ああ、もう変な事はしませんよ。向かい合って入りましょう、お嬢さま」
え、え? 何だろう、今までと声のトーンが違わない?
これはわたしがどうにかなっちゃったんだろうか。
言われるままに入るも、禄に顔を見る事が出来ない。
胸の辺りが見えるので、下の方は温泉の元で見えないけど、何だか体を見るのが恥ずかしい。
見られてるのなんて忘れてしまっていた。
緊張感から、わたしはバッと立ち上がって、
「も、も、出よう!」
と言うと、そうですねと返事をしてくれたのでホッとしたけど、それから体を拭いてる間も、出来るだけ時雨の方を見ないようにしてた。
だって、直に裸を見たらいけない気がしてさ。
それでシャツを着て、イチゴのパンツを穿いてから、素直さも見せておかないと、と勇気を出す事にした。
「あのさ、わたし長い間、氷雨さんのクールな対応で、家ではそれでも一人でいる事が多かったし寂しかったのかも。だから今日は一緒にお風呂に入ってくれて、その、凄く嬉しかった。大人に体洗って貰うのも久しぶりすぎて記憶にないくらいだしさ。あの、これからも良くしてくれたら、ありがたいんだけど・・・・・・」
ちょっと恥ずかしいどころじゃない! 顔を真っ赤にして、わたしは俯いてパジャマを穿こうとするも、中々上手くいかない。
そこへ声が降って来る。
「大丈夫ですよ。これからはずっと一緒です。いつまでもお嬢さまを見守らせて頂きます。お嬢さまが寂しい時は、いつでもお傍にいますよ。それで、あわよくばそれ以上に仲良くなれたら、うふふふふ、いいんですけどね・・・・・・」
「そうね、よろしく・・・・・・」
「あれ? ツッコミなしですか!」
何も言えなくなってる。
これはこれから、どう言う風に付き合っていったらいいかわからないけど、賑やかになりそうで、少なくとも退屈はしなさそうかな。
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