第3話一緒にお風呂2

「お嬢さまの涎なら、ご褒美みたいな物です。いつでも私の顔にでも体にでもお掛け下さって構いません! さあ、唾液を塗って頂けますか」


「馬鹿! そんなのする訳ないでしょ、変態!」


 やっぱりちょっとでも見直したわたしが馬鹿だった。

 こいつは徹頭徹尾、変態的なエッチな女なんだ。

 わたしの事を変な目で絶対見てる。こんな発育も悪いし、まだ女性らしいラインになってない子供の何がいいんだか。


「お言葉ですがお嬢さま。少女には少女の良さがあります。小悪魔的なニンフェットな子も魅力ですし、無邪気で無垢な少女もまた素敵なのです。体がどうとかではありません。少女と言うだけで尊いではありませんか。だからこそ、性的な手出しはしてはいけないのです。セックスに至ってはいけないのです!」


「お腹に手を当ててた人間が何を言う! エッチな気持ちがないとは言わせないわよ。変態女の言い訳ここに見たり!」


 ふーと手を頬に置いて、困りましたねと呟くエロメイド。

 言い返せるなら、言ってみなさいよ。


「そりゃあ、エッチな気持ちにはなりますよ。でもそれで即、行為には至ってはいけないと言ってるんです。合意を得てから、愛し合って年齢相応になってから、お互いの気持ちの通い合う形でしませんと。それにお腹はセックスにはカウントされませんし、未遂みたいなものですよ。いやですねー、エッチって言った方がエッチなんですよー」


 ああ、何でこうも流れるように、自分の言葉を正当化させるのが上手いんだろう。流されないわよ。


「そう言うのも含めてセクハラでしょうが、血はこれからも腕から吸う事。それと朝起こす時は、すぐに起こして。お母さんの頼みか何か知らないけど、レコーディングもしないで」


「そんな事言わずにー。日課になりそうになってるんですよ。それともお母様には秘匿して、私だけの楽しみとしていいんでしょうか。もう待ち受け画像にもしちゃってるんですよ、ほら」


 何と言う事か。わたしの私的領域がどんどん侵されていく。

 この女といつもこれから一緒にいなくてはいけないのだろうか。


「消せ!」


「そんなのしたくありません。あわよくば、お嬢さまに添い寝してお休みからお早うの瞬間までご一緒したいと思ってますのに」


 それ普通は逆に言うんじゃないの。じゃなくて、どうしてこんなにわたしに執着するのか。わたしなんて可愛くもないのに。


「ですから、お嬢さまは私にとって天使みたいなものなんですよ。氷雨さんに写真を見せて貰った瞬間から、恋に落ちてしまったのです。お嬢さまほど眼鏡が似合う、美少女はおりません!」


 手を広げて大仰に身振りをするのは、この女の癖かしら。

 もういい。勝手にして。恥ずかしい事ばっかり言うんだから。


「じゃあ、言っとくけど。漫画読むの邪魔しないでね。あ、能力でわかんないとこ教えてよ」


「お安いご用です! 何なりとお申し付け下さいませ、小春お嬢さま!」


 そう言うので色々これはどうなってるんだとか、これどう言う能力なのとか聞く内に、こいつの説明力が異様に高い事がわかって来た。


 もしかして家庭教師が前職だったりしないよね。

 なるほど、小学生にもわかるように、それも根本的な設定以前の科学的な発想から、順番に懇切丁寧に説明してくれるし、それは学校の先生がする授業より明瞭だったんじゃないかと思うほど。


「ふーん。アンタ、かなり教えるの上手いのね。そんなんなら、わたしもっと勉強とかもこれから教わりたいくらい・・・・・・」


「何故遠慮されるのですか? お嬢さまはこうやって説明すれば理解出来る基礎がおありなんですから、幾らでもわからない事は私の出来る範囲でお手伝いさせて頂きますよ。私も出来る家庭教師には相当お世話になりましたから、困った所もある人でしたが、人から物を教わるのは恥ずかしい事じゃないですし、いい機会ではないかと」


 わたしはでも尚もそわそわする。

 こんな美人に傍でレッスンされるのって、なんかちょっと背徳的な気がするけど、変な漫画とか色々お母さんのコレクションで読んだせいかな?


「だってアンタ、そうしたらあれこれさせろって言うでしょ。それで譲歩しちゃったら、後戻り出来なくなりそうで・・・・・・」


 三点リーダを連続させるわたしにお構いなしに、感動で打ち震えた、みたいに涙を流すのがこのロリコンだ。


「何と、ご褒美をくれるのですか。じゃあ、手を密接にして握ってみたり、マッサージをしてみたり、お風呂で洗ってあげたり、あんな事やこんな事まで私に許して下さると言う?」


「誰がそこまで許すって言った! 何かお手伝いとか、お茶入れてあげたりとか、反対にこっちが肩揉んであげたりとかくらいなら出来るかなって思っただけなのに」


 まだまだこの人の涙腺は止まる事を知らない。

 って言うか、近い、近い!


「そんな事して頂く訳にはいきません。私はメイドですよ。お嬢さまのお世話をするもの。しかし、お嬢さまからのサービスだなんて、何と甘美な響き・・・・・・! この世の天国を見る思いです。それなら、やはり一緒にお風呂にですね」


 どうしてこの女、お風呂にそれほど拘るのか。単に裸が見たいだけ?

 って言うか、お風呂なんてもうどれだけお母さんとも入ってないか。


 それ以上に、お母さんはちゃんとお風呂に入ったり食事をしたりしてるのかな。まぁ、氷雨さんが付いてるから心配はないとは思うけど。


 いやいや、で、何故一緒にお風呂?

 体の成熟を見せつけられて、子供のわたしが羨むとしたら、どう責任を取ってくれるのか。


「それはもう、責任は如何様にも取らせて頂きます。パートナーシップ制度の利用でも、将来的に結婚でも何なりと、お嬢さまのお気に召すままに。さあ、今夜お風呂に、いざレッツバスタイム!」


「ああもう、わかったから。体は自分で洗うけど、じゃあ背中だけ洗いにくいからやってくれるかしら。それ以外は、変なお触りは禁止だからね」


 ふふふニコリと笑って頷く時雨さん。君、ちゃんと本当に理解したんでしょうね。


「当たり前じゃないですか。本気で嫌がる事はしませんよ。痛くしないように注意しますね。あ、頭も洗ってあげましょうか」


「・・・・・・じゃあ、それもお願い」


 本当に大丈夫かな。お風呂だって、そんなに広い訳じゃないのに。って結局、わたし流されてない? わたし自身が大丈夫なのか?



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