第1話吸血メイド三つ星時雨3

 髪を乾かして、コーヒー牛乳を飲んで、はーこれからどうなるのかと、ぼんやり悩み事の深さに絶望してる間に、厚かましいあの女もお風呂に入って来て、これから尋問と言う所。

 被告の弁解を聞いてあげようじゃないの。


「それで、まず一つ。何であんな事、いきなりしたのかしら」


 少しでも気まずそうな顔でもすればいいのに、時雨はポッと顔を赤らめて、そうですねーとか言っている。そっちが恥ずかしがる状況じゃないんですけどね。


「それは、お嬢さまが魅惑的すぎて、惑わされてしまうからですよ。チャームの魔眼でもここまで効くかどうか」


 それってわたしが可愛いって直球で言ってるのかな。そんな事言われたら、段々こっちが恥ずかしくなっちゃうじゃない。そんなの言われた事ないもん。


 男子なんか、眼鏡なの馬鹿にする子もいて、コンプレックスがあるくらいなのに。眼鏡の子って、男子女子問わず不人気だしさ。


「そんな褒め方してもだ、駄目なんだからね。これからはそんな暴挙に及ばない事」


「え、じゃあ許可を取れば吸っていいんですか。舐めていいんですか?」


 ぶっ。何を言うのかな、このメイドさんは。お風呂上がりで色っぽい、大人の女性の魅力を見せても、そんな言い訳通用しないんだから。


「そんな訳ないでしょ! 血を吸わなきゃ死ぬ訳じゃないんだし。って、え? 死なないよね?」


 手のひらで丸マークを作る時雨。大丈夫なのか。


「そこの所は、実は吸血鬼互助組合って所から、色々な種類の物を通販で買えるから、最近は襲ったりしなくても大丈夫なんですよ。便利な時代になりましたねぇ。ああ、食事も人間と同じように取れますしね」


 ふーん、どう言う仕組みか知らないけど、ニッチな需要に応える産業もあったもんね。で、こっからの話も聞いておかなきゃ。


「それでね。アンタ、昼間も外を出歩けるんでしょ。それってどう言う仕組み。あ、そう言えば、何とかウォーカーって言うの聞いた事ある様な」


「ああ、デイライトウォーカーですね。残念ながら、わたしはそんな高貴な力は持ってません。だから、この能力が身につくまでは、夜間のバイトしたり、勉強は夜間学校やら家庭教師で賄ったり、物凄く大変だったんですよ」


 へー、それでこの人、何だか肌が普通の大人より白いのか。って何だって。


「能力って何よ。そんなバトル漫画みたいな」


 ふふふー、とちょっと得意顔の時雨。うーん、なんかムカつく。


「何でもスピリットって言う名前の能力みたいですよ。ローリン・ストーンって言う、なんかよくわからない現象に選ばれた人が、その固有能力を手に入れるんだそうです。発現した時に祖母に教わりました」


 何それ。ますますバトル漫画っぽいじゃん。ちょっとわたし興奮しちゃうかも。

 それって、なんか能力名叫んでバーンとやったりするんでしょ。


「凄い! で、アンタの能力は?」


「せっかちですねー。ってお嬢さま、こう言う話好きなんですね。意外です。もっと正統派の文学少女ってイメージでしたから」


 はよ言わんかい、じれったいなぁ。


「まぁまぁ、言いますから。

と言っても、私のスピリット能力なんて大したもんじゃないですよ。ごほん、それならいいですかね。名前は〈オン・リフレクション〉。

影を操って、自由に障害物があるみたいに日陰の様なのを作る事が出来るんです。これで日光を遮ってるんですよ。

私の場合は、部屋にいつの間にか綺麗な色の石があって、それに触れてたら、母に呼ばれて、そうしてる内にどこかに行っちゃったんですけど、その後に高熱が出て、それで生死の境を彷徨って、体調が良くなったらこれが使えるようになってたんです。どうです、しょうもないでしょう」


 ははー、なるほど。日光を影で遮る。そんな事って本当に出来るのかな。


 例えば、木の陰にいたら防げるけど、そう言う物体による影と同じ現象を能力で出せるって事かな。確かにそりゃわたしが想像してる様な、血みどろのバトルには使えないや。


 あ、でも吸血鬼の力はあるんだから、かなり戦えるんじゃ? それに何だか寝込んでから、能力が使えるようになるって、不謹慎かもしれないけど凄く漫画っぽい。


「なんか期待してるようですけど、私はお嬢さまをお守りするくらいなら請け負えますが、そんなバトル漫画の主人公みたいなのは無理ですよ。身体能力が少し高いくらいですから」


 何ともまぁ、それじゃどこかの刺客とやり合ったりとかは?


「いやいや、ヴァンパイアハンターとかもいるでしょうけど、滅多に遭遇しませんよ。あっちもお仕事として割に合わないんじゃないですか?」


 そっかー。じゃあ何か。これからも普通に接していいって事よね。

 って、ちゃんとした通販がもうあるんなら、わたしの血を吸う必要はやっぱりないんじゃない。


「それなら、わたしの血を吸わないで、ちゃんと買って飲んでね。あんなの何回もされちゃ、身が持たないわよ」


「そんなー。お嬢さまの血は極上です。保存された血には、生の味を知ってしまったら、戻れませんよぉ。給料からお小遣いあげますからー」


 う、それは魅力的な提案だ。それよりもあの感触もネックなんだけどな。


「・・・・・・ねえ、あのムズムズして変な気分になるのは何とかならないの。痛くないのはいいけど、ああいつも頭に血が上る様な事されるなら、許可出来ないよ」


「ははぁ、お嬢さまエッチですねー。あれは快楽を与える物質を出す事で、血を吸う時に痛みとか恐怖を和らげる効果があるんで使った方がいいんですよ」


 そ、そうなの。

 でも首に毎回噛み付かれたら、学校で見つかった時にどう言い訳すればいいのやら。って誰がエッチだ。


「ご安心下さい! これからは見えない場所から吸わせて頂きます。お腹でも腕の深い所でも太股でも」


 あ、やっぱりこいつ変態だ。自分の欲望を隠す気なんてまるでないな。


「いい。エッチな部分からは吸わない事。お腹なんて駄目に決まってるでしょ。腕からにしてよね」


「それでは、許可して頂けるのですね! はー、ありがたい言葉入りました! ちゃんと録音もしましたので、なかった事には出来ませんよ、ハート」


 ハッ、しまった。語るに落ちるとはこの事か。ってハートじゃないわよ。


 可愛い子ぶってもアンタにどうこうされるのを、むざむざ手をこまねいているわたしじゃないんだから。


「はー、お嬢さま。眼鏡かけると、よりピシッとして可愛いですねー。流石です!」


 頬を擦りつけて来る時雨。

 もう、何でこんなにいきなりスキンシップ取って来ちゃう訳?

 何が流石なのか意味わからないし。あ、こら腰に手を回すな!



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