異世界アカデミー 屋根の上で転生されていきなり襲撃されたが、神様にもらった力で反撃したらなぜかアカデミーと呼ばれるところに入学することになった。

一都

魔法アカデミーと戦士の町

テリート邸にて

第1話 転生と誕生

「愚かな友人テリート、せめて我が剣でお前の首を断とう」

 女剣士カーリスはその手に持つ大剣で弧を描き、テリートの首を刎ねた。



 場所はテリートの館。激しい雨の降る夜に、屋根の上まで逃げたテリートを追った剣士カーリスともう一人で止めを刺した。テリートの首が不気味に、滑稽に宙を舞った。屋根に鈍い音と共に落ちるとくるくると回転しながら転がり2階の屋根から落ちた。



 カーリスは任務達成の高揚感で最初見間違いだと思った。テリートの首が転がりながら光っていたのだ。雨が目に入り過ぎたのかとも思ったが、隣で同じ任務を請け負うパーティメンバーのトウマ・グレンの目が大きく見開いていたため、その視線の先を追った。



「何だ?何が起こってる!」

 カーリスは思わず叫ばずにはいられなかった。



 テリートだった死体は直立不動のまま立っていた。不気味で不自然で超自然的な何かを感じさせた。だが、それだけならまだ良い方だった。テリートだった体を光の線の束が包み込んでいたのだ。その束は人の体の形を模した不気味な化け物にカーリスは見えた。大剣を握る手の指に力が自然に入るのを感じる。



 雨が止んだ。



 雲が裂け、月明かりが零れた。その月光の先にテリートの光った首なし死体があった。そして、それは現れた。



 光の束が消えると、テリートの首なし死体には首も顔もあった。どこからか現れたのか、それとも再生して首がくっついたのか。しかし、その顔にはカーリスは見覚えがなかった。



「どうする?カーリス」

 面倒くさいことが最も嫌いなトウマ・グレンの眉間のシワが深くなっていた。

「簡単なことを聞くなトウマ。もう一度、あの首を刈り取るまでだ!」



 カーリスは言うと、息を長く吐いた。力を籠め、一瞬瞬くと流れるように大剣で弧を描いた。



 ガキン!っと金属音が月光の夜を響かせた。夜空の雲は先ほどよりも大きく裂け、カーリス達を青白く照らしていた。



「誕生の奇跡か」

 一人の女が呟いた。その呟きが聞こえたのか同時にカーリスが舌打ちをした。



「クソがっ!」

 悪態をつきながら、知らない男の首に迫った大剣が見えない壁に弾かれて崩れそうになる体制をカーリスは立て直した。



「おいアティア、誕生の軌跡とはどういうことだ」

 呟いた女にトウマは睨みながら問うた。

 カーリスとトウマ、そしてかつて首を刎ねられた死体から少し離れた場所で見守っていたアティア・ステイスは冷静に口を開いた。



「だから誕生の奇跡だよ。この世界に生まれた命は平等に神の祝福を受ける。あらゆる悪意から守ってくれる。ま、ほんの一瞬だけど」

「誕生の奇跡はわかってる。なんで今なんだ?」

 トウマは苛立ちながら再度問いかける。



「筋肉バカと違ってお前はわかってるんだろ?」

 ポカーンと聞いているカーリスの隣で、トウマはため息を一息つくと、頭を掻きながらアティアに返答した。



「もしかして、転生なのか」

「たぶんね。ま、本人に聞いてみれば?」



 アティアの言葉に、二人の視線が見知らぬ顔の男に集まる。



 男は呆然と立っていた。目の焦点もほぼ定まっていない。ただ、男は攻撃されたことだけは理解していた。



「おい、てめえ。お前ホントはテリートなんだろ?服も同じだしよ」

「いや、一つあり得るのは供物による転生。この場合テリートが生贄になり、つまりテリートの体が消え、この男の体となった。だから顔も違う。まばゆい光を放っていた現象も、文献で見たことがある。転生される時、人の形を模した光を放つと読んだことがある」

「ならテリート自身が転生したかもしれないだろ」

 カーリスは早口で説明するトウマに食って掛かる。

「自分を生贄にして自分で転生なんてできるわけないだろ」



「うるせえ!」

 カーリスは吠える。

「こいつは大罪人テリートなんだよ。今狩らないと犠牲者がまた増える。仲間内からこんなクソを出して、せめて身内で始末するべきだ」

「それはそうだが」

「転生したかどうかも曖昧過ぎる。ならここでこいつを殺すべきだ」

「ならこいつの身柄をアカデミーに持ち帰るのが最善だ。この男もテリートじゃなかったら可哀そうだろ」



 アティアが言い終わらないうちに、カーリスは大剣をもう一度男に振るう。



「何だてめえ」

 カーリスの大剣をどこからともなく現れたもう一人の女剣士ミランヌが自らの剣で受け止める。



「アティア様の話がまだ途中だろう」

「金魚の糞はお呼びじゃねえんだよ」

 ミランヌの行動に満足するように口角が上がるアティアと、カーリスの猪突猛進に頭を抱えるトウマだった。



 もめる四人をじっと見つめる誰も知らぬ男。だが、少なくとも一人は自分に殺意があるのは少し前から理解していた。呆然と月明かりに立ちながらも、男の奥底からある感情が芽生えた。それは男にとって、最初の感情だった。



「生きろ・・」

 男はポツリとつぶやいた。



 最初の変化に気づいたのはアティアだった。

 それは宇宙に漂う星のように。



 輝き溢れる光に驚愕するカーリス。

 まるで流れる雲海の隙間から昇る鳥のように。



 やがて光は柱となり、天を貫くさまにトウマは見とれてしまう。

 そして、七色に輝く光を背に、男は腰にあった元はテリートの物であったであろう剣を抜く。その様子にミランヌは思わず後ずさる。


 

 男は剣をかざす。



「二人ともどけ!」

 トウマは叫ぶと、カーリスとミランヌを押し退け、名も知らぬ男と対峙した。そして、左腕にある仕掛け盾を自分の魔力を通じて展開させる。



「氷塊!」

 トウマの盾から巨大な氷の壁が広がると同時に、男は剣を振り下ろした。



 ガラスのように砕けた氷の破片が、夜明けの光を反射する。光の物体がトウマの盾を粉砕し、そのまま体ごと吹っ飛ばした。



「トウマ!」

 ダイヤモンドダストのように光る欠片が降り注ぐ中で、カーリスはトウマに駆け寄った。



 アティア・ステイスは渦中の中心に赴くと周りを見渡した。陽光が頬を滑る。このままでは収拾がつかないと判断し、アティアは言葉を並べた。



「ひとまず、戦闘は止めだ。みんな落ち着け。一旦フカフカのベッドで寝て頭を冷やそう。私も眠いし」

 最後の最後で本音が出てしまったとアティアは舌を出しそうになったが、なんとか堪えた。



「ふざけんなよ!トウマの仇を取る!」

 勝手に殺すなと声が聞こえたが、カーリスは構わずにアティアを睨みつけた。 



「お前に原因の一つも無いとは言わせんぞ」

 睨むカーリスにアティアは冷たい瞳で返した。幼い顔に似合わない威厳にも似た圧倒される雰囲気に、カーリスは舌打ちで返すので精いっぱいだった。



 アティアはカーリスから目を離すと、光を放った後力尽きたように倒れこんだ男の前に立った。



「さて、どうなることやら・・」

 独り言を呟くと、アティアは月が隠れた後の空に目を向けた。穏やかな日差しが、館全体を包み込もうとしていた。

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