ファンタジーは突然に 軽量版

皆木 亮

第1章

第1話

「アナタみたいな童貞どうていぜんとした人は、ガッつきそうだから却下。」



 それがオレ、片瀬将かたせしょうの通算一〇七回目のゲームセットの合図だった。





 今年で大学二回生。単位たんいも、そこそこ。バイトも、そこそこで、悠々自適ゆうゆうじてきひとらし。



 足りない物は、ランデブーしてくれる可愛い相棒だけで、それをんがために色々と奮闘ふんとうしては見ているのだが……。結果は、いつも、こんな按配あんばいなワケで……。





「あは…あはは…そう…残念だなぁ…。仕方ない、これ以上、さらったら、ガッついているのを前面に押し出すワケで…。まあ、あきらめるか……。うん、あきらめるからさぁ、せめて、この件は、どうか御内密ごないみつに。」



 右目と両手を合わせて閉じ、舌をペロっと出して見せて、せめて軽く流せる様に仕向けて見る。




 百戦ひゃくせん錬磨れんま撃墜げきついおうならぬ、百戦ひゃくせんフルボッコの撃墜げきついされおうのオレが、幾多いくたの戦場を駆け抜けて得た答えの一つだ。



 しつこく食い下がって籠城戦ろうじょうせんを繰り返した場合、”恋愛こくさい条約じょうやく”を無視むしした戦犯せんぱんとして、向こうも法律を無視して『早く殺してくれ』と叫びたくなるエグい虐殺ぎゃくさつを行なってくるのさ。





「わかったわ、口外こうがいしないであげるから、良い友達で行こうね。」



 そうして、一方的なドッグファイトでオレを撃墜げきついした対戦たいせん相手あいては、野鳥やちょうたちがいこう、冬の海辺の公園というファンシーな戦場を早々に後にした。





 海辺と言っても、浜があるワケではない。

 水深すいしんの深い海の上に、鉄筋てっきんの土台があり、その上に公園があるのだ。



 一応いちおう転落てんらく防止ぼうしのネットはってあるが、まかり間違って、ネットをやぶって公園のさくを越えて落ちてしまうと、海のド真ん中に落ちてしまうのだ。



 しかし、そんな危険なデメリットも、この街の多くの利点の中では、かすんでしまう。





 ここ、樽中市たるなかしは、海の上にある、『海と共に暮らすモデル都市』という売り込みの、水上都市だ。



 海を埋め立てるのではなく、えて海を残し、海中にある鉄筋の土台の上に建物を建て、その下に広がる海を楽しもうというのが、この街の基本コンセプトだ。





 市は、本土と繋がっている市の中心である繁華街はんかがい地区ちくの中央区。



 直接本土とは繋がってないが中央区との交通網こうつうもうが大変整っており、中央区に比べて安価な住居が多く建てられているため居住者きょじゅうしゃの多い西区。



 そして、本土や他の地区との交通網こうつうもうに不備はあるものの、その分の支出を、多大な数の工場を備える事と、ただ工場を乱立させるだけよりも遥かに大きく街の発展に貢献するため、工場の従業者たちを多量に受け入れる工場地区用アパート街を用意し、労働する人員を近隣に確保した上で、各労働者たちの活動時間を円滑に分ける事で、数多あまたに建つ工場を二十四時間稼働させ、結果、市の中心たる繁華街の中央区にも遥かに優る程に市の利潤を高水準で生みだしている南区。



 大きく分けて、この三つの地区に、この市は分かれている。





 この市の最大の売りは、海との共生きょうせい生活せいかつ出来できる事だ。



 市の建物は、繁華街はんかがいや、工場地区のアパート街すら含めて、全ての民家にいたるまで、多階層たかいそうではなく一階建てばかりであり、全ての建物にガラスりのゆかの部屋が最低一部屋は有り、建物の下方に広がる海の中の様子を二十四時間、好きなだけ堪能たんのうする事が出来できつくりにっていて、まさに海と共生する事が出来できる。



 多階層たかいそうの建物の無い市のその構造により、本土の団地だんち地区ちくなどに比べれば、繁華街はんかがいや住宅街などどころか工業地区アパート街ですら割高い感はあるのだが、海を好きなだけ堪能できるこの作りにより、市の住民どころか本土からの人気も高い。





 市の都市部の中央区だけでなく、各地区に、ショッピングモールなどもあり、海との共生という売り以外の、生活の利便性りべんせいという点でも、この街はすぐれており、入居にゅうきょ希望者きぼうしゃは後を絶たない。



 かく言うオレも、中央区にある大学への通学が住宅街の西区から片道五分で済むという交通網こうつうもう利便性りべんせいと、商店の多さという生活の利便性りべんせい、そして、海と共にるというデートスポットとしても優れた立地にかれ、中央区の大学に合格した上、この市が入居者を募集した去年に、高い抽選ちゅうせん倍率ばいりつをクリアし、西区のアパートの一つに住めるようになり、この市の住民の一人となった。





 それからは、学校とバイトの空き時間を見繕みつくろっては、ドンドンと、この樽中市たるなかしの各所のデートスポットに、大学で知り合った女の子たちをデートに誘っては、ランデブーを決め込み、告白というバズーカ弾を放ちまくったワケだが……。



 まあ、いつも、この通りなんだよねっていう……。

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