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海外の留学は、短く終わった。
全力で唄った結果は、不適格の判定。歌ではなく、喋れないことが不適格の理由になった。喋れなければ、歌以外のコミュニケーションに支障が出るから。そういう、吹けば飛ぶような理由。
それでいいのだと、思う。夢を叶えるのは、才能があって、その上で努力を惜しまない人間。わたしには、喋るという才能が、なかった。それだけ。
ただ、努力が、変なところで認められた。
歌声を聴いたと言って、なぜか海外のプロデューサーではなく、同じ国のサウンドメーカーの人が会いに来て。あなたの歌を支援したいと、かなり押し気味にプレゼンテーションしてくる。
すぐに帰国する運びになって、他の夢破れた留学生と一緒に飛行機に乗った。みんな、努力してきた人たちだから、仲良くなった。帰ってからも仲良くしようと思った。喋れないわたしにも、やさしく接してくれた。指輪のことも訊かれたので、想い人がいるのだと伝えたら、みんな、にやつきながら応援してくれた。
そして、彼が死んだことを知った。
大きめのニュースとして報じられたらしい。発電所に落ちるはずだった雷を、身を挺して違うところに落とした街の英雄。そうやって、
彼が、もういない。
それだけが、事実。神様なんて、いないのだと思った。
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