あべこべ彼女

ホマネコンティー

第1話「理想違い」

春、僕らは、俺らは、大学生になった。彼女が出来た。みんな僕の彼女が理想の彼女だと言う、みんな俺の彼女が理想だと言う、けど、俺らからしたら、僕からしたら、全くもって理想が違う、何故みんな羨むのか分からなかった。僕はある日、俺はある日、自分の理想の相手と出会った。この物語は、理想違いの二人から始まる、自己中心的な話しだ。これから起こっていく物語はもしかしたら貴方に不快な思いをさせるかも知れない。それでもいいと言うなら、是非、この話を最後まで読んで欲しい…。



葛井 新」編

(くずい しん) 


朝7時40分


葛井

「うーわやっべ!もうこんな時間じゃん!」


僕は急いで大学に行くために服を着て、支度をした。


葛井

「ヤバイヤバイ!!」


僕は洗面台に行き、顔を洗い歯を磨いた。


葛井

「え…っと時間は…っと」


僕はスマホを手に取り時間を確認した。


葛井

「は?!8時?!まずい!今出ないと絶対に間に合わない!!」


僕は朝ごはんを食べるのを忘れて大学まで走った。


「は…は…間に合った」


何とか大学にたどり着いた僕は一限目の講義を受ける為、大学の門を通って大学内に入ろうとした。そこに、木の裏から黄色と黒色の縞々のオフショルダートップスに、薄い赤色のミニスカートを着ていて、明るい橙色の髪色にセミロングの可愛らしい女性が僕に気付き近づいて来た。


可愛らしい女性

「しーんちゃん♪おはよ♪」


僕は一目で誰かか分かった。


葛井

「お、茉里おはよ」


この子の名前は花奈源 茉里(けなげ まり)名前通り健気で一途で可愛くて優しくていつも明るくて、ほんと!自慢の彼女だ。オマケにオシャレでスタイルも良くて、この豊満な胸!!皆んな理想の彼女だと言ってくれる。


葛井

「茉里、ずっとここで待っててくれたの?」

花奈源

「うん!」

葛井

「先に行ってくれてても良かったのに」

花奈源

「行かないよ〜、だってしんちゃんと約束してたから♪」

葛井

「そっか、ごめんな、それとありがと」

花奈源

「ううん、ほら、早く行かないと講義に間に合わないよ?」

葛井

「お…ちょ、茉里」

花奈源

「行こ♪」


僕は茉里に手を掴まれてそのまま教室へと向かった。教室に着いた茉里と僕はいつもの様に右の後ろから3番目の窓側の席に座った。


花奈源

「間に合ったね♪」

葛井

「うん、良かった」


安心した僕はため息をついた、それと同時にお腹が鳴ってしまった。


グゥ〜

葛井

「あ…ヤバイ」


僕はすっかり朝ごはんを食べ損ねた事を忘れていた。そんな時小声で茉里が僕に話しかけてきた。


花奈源

「はい、しんちゃん、これ」

葛井

「え?」


茉里は僕のお腹が鳴った音を気にしてくれたらしく持ってきていた薄いピンク色のチェーンが着いた鞄に入っていたお菓子をくれた。


葛井

「茉里!ありがと、ほんと助かる」

花奈源

「ううん、まだあるから、また鳴りそうになった時はいつでも言ってね♪」

葛井

「分かった」


茉里にはいつも助けてもらってばかりだ。そう言えばこの席で初めて茉里と出会ったんだ

っけな懐かしい…。


葛井

「すいません、隣いいですか?」

花奈源

「…どうぞ」

葛井

「ありがとうございます」


あの時の茉里は、一見今とは違って静かな女の子だと思ってた。


葛井

(やべー、シャーペン忘れた)


そんな時だった…横から優しく俺に声を掛けてくれた。


花奈源

「良かったら」

葛井

「あ、どうも」


茉里は優しい微笑みを浮かべて俺にシャーペンを貸してくれた。ここから僕と茉里が仲良くなっていったんだよな。茉里、出会った頃とは変わって明るくなった。それとも、元から明るかったのかな…そんな事を考えているうちに講義が終了した。


花奈源

「はー、やっと終わったね」

葛井

「は〜、疲れた〜」

花奈源

「んふふ、あ、そうだ、茉里ね、今日しんちゃんにお弁当作ってきたんだ♪」

葛井

「ほんと?俺の為に?!」

花奈源

「うん!次の授業まで時間あるし、よかったら…食べて欲しいな♪」

葛井

「食べる!そうと決まれば早く学食行こ!茉里!」

花奈源

「うん!」


僕は茉里と大学が運営している食堂に向かった。だが、途中で茉里がトイレに行きたいと言い、僕は仕方なく待つ事にした。しかし、僕の腹のうめき声は収まる事を知らないらしく、それを我慢できずに茉里を置いて先に食堂へと向かう事にした。


葛井

(ごめん茉里!僕はもう我慢できない!)


食堂へ向かっている最中、曲がり角から見覚えのある姿が見えた。僕は思わず足を止めた。向こうもどうやら僕に気づいたらしく足を止めた。


葛井

「お!大ちゃん!」

見覚えのある人物

「ん?おお!新!」


そこにいたのは、僕の高校生だった頃の唯一の友達で親友の下翠 大介だった。


下翠

「久しぶりだな、新」

葛井

「久しぶり!大ちゃん!」

下翠

「新、見ないうちに大分変わったな、髪、金にしたんだ」

葛井

「うん、まー、大ちゃんは相変わらずイケメンだね」

下翠

「ふ、あんがとな、つか、高校以来だな」

葛井

「そうだね、お互い違う専攻だもんね」

下翠

「うん…」

葛井

「…あ」


久しぶりに会った俺らは少し気まずい雰囲気だった。話を続けようと大ちゃんに話しかけようとしたその時、大ちゃんがきた曲がり角から神々しく女性が現れた。


葛井

(はっ!)


その女性は、透き通るような綺麗で長い黒髪に、端麗な顔立ちをしていた。僕は彼女に見惚れていた。女性は大ちゃんの元へ近づいてきた。そして大ちゃんに話しかけていた。


謎の女性

「大介?」

下翠

「ん、あー、わり」


どうやら、その女性と大ちゃんは親しげな仲らしい。すると女性は僕に気づき、大ちゃんに僕の事を話している様だった。しかし、僕はそんな事を気にしている暇は無かった、何故なら、今、僕の理想とも呼べる人物像がそのまま現実に、目の前に…い!る!か!ら!だ!!!!!!。


葛井

「だ、大ちゃん、そちらの方は…何方ですか?」

下翠

「あ…、わり、そうだよな」


大ちゃんは咳払いをした後、隣にいる女性について説明してくれた。


下翠

「俺と同じ学年と専攻で、えっと…ま…その…彼女の静香南 月華(しずかな つきか)」

葛井

(か!彼女?!大ちゃんの?!)


大ちゃんの彼女さんは僕にお辞儀をした後、丁寧に自己紹介をしてくれた。


静香南

「どうも、大介君と同じ専攻の、静香南 月華です、よろしくお願いします」

葛井

「ここ、こちらこそ、よよ、よろしく、おね、おね、おね、お願いします!!」


僕は頬を赤らめながら静香南さんにお辞儀をした。


葛井

(声も素敵だな〜静香南さんって、そうだ!静香南さんが丁寧に僕に自己紹介をしてくれたんだ、自分も言わないと)


当然、目を合わせながらなんてできるはずもない僕は、右手を頭の後ろに回しながら大ちゃんの腰あたりを見て自己紹介をした。


葛井

「あ、葛井 新って言います、よろしくお願いします」


僕が自己紹介を終えると同時に背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。僕は自分の名前が聞こえて来る方を向くとそこには茉里が、右の頬を少し膨らませて怒っている様だった。


花奈源

「もー!置いてくなんて、酷いよしんちゃん」

葛井

「あ!ごめん茉里」


僕はすっかり茉里を置いていった事を忘れていた。


花奈源

「もー!!…ん?」


茉里は大ちゃん達に気づいたみたいだ。僕は茉里の事を紹介しようと、大ちゃん達の方を向いた。


葛井

(あれ?今)


一瞬だったけど、大ちゃんが茉里を見て驚いていた様に見えた。多分気のせいだろう、大ちゃんは、そういう…驚く様な反応は絶対にしない、というか、見た事ない。


花奈源

「しんちゃん?」

葛井

「あ、ごめん、考え事してた」


茉里は小声で僕に聞いてきた。


花奈源

「ねー、しんちゃん、この方達は?」

葛井

「あ、そっか」


僕は茉里に大ちゃんと静香南さんの事を大雑把に説明をした。茉里はすぐに理解をしてくれた。


花奈源

「なるほど〜、しんちゃんの友達とその彼女さんね」

葛井

「そんなとこ」


茉里と僕で話していたところに、大ちゃんが声を掛けてきた。


下翠

「なー、新」

葛井

「ん?」

下翠

「その子は?」

葛井

「ん?あー、僕と同じ学年と専攻で、僕の彼女の…」


僕は、茉里の名前を言おうとした時、茉里が自分から自己紹介をし始めた。


花奈源

「花奈源 茉里って言います!よろしくお願いします!!」


茉里は笑顔で大ちゃん達に言った。


下翠

「あ、どうも、俺…」

花奈源

「下翠 大介君だよね、さっきしんちゃんから聞いたよ、よろしくね♪」

下翠

「あ、よろしく」


流石は茉里だ、初対面の人への対応が違う。明るく、笑顔で、なるべく相手に不快な思いをさせない様に振る舞う。やっぱり、茉里には敵わない。その時、僕はある事を忘れていたそれは…。


葛井

(まずい!!静香南さんに見惚れて、忘れてた!…このままじゃ、今ここで腹を鳴らしてしまう、そんなの静香南さんに聞かれたら僕は!僕は!)


僕はお腹に力を入れて、なんとか鳴らない様に抑えようとした。茉里は僕のしている事に気付いたのだろうか、僕の右腕を両手で掴んできた。


花奈源

「しーんちゃん♪ほら、早く食堂行かないとでしょ?」

葛井

「え?あ、そうだね」

花奈源

「大介さん、月華さん、私達、失礼しますね♪」

葛井

「ちょ…茉里…、だ、大ちゃんまた!」

下翠

「お、おう」


茉里は僕の腕を離さずにそのまま食堂へと向かった。僕は食堂に向かっている最中ある事を考えていた。


葛井

(そう言えば静香南さんって意外と身長高いよな、大ちゃんが178cmって言うのを高校の頃教えてもらったから、それで、大ちゃんの目線の少し下くらいってことは…170?くらいか?)


自分勝手に考えていた僕。気づけば食堂に着いていた。僕と茉里は円形のテーブルが置かれた二人用の席に座りそこで茉里が作ってくれた弁当を食べる事にした。


葛井

「開けていい?」

花奈源

「うん!いいよ♪」


茉里は、両手を顎に乗せながら嬉しそうに僕の事を見ていた。そして、僕は弁当の蓋を取った。


葛井

「うわ…すげぇ…」


弁当の中身は、僕が好きな唐揚げや卵焼き、アスパラのベーコン巻きなどが入っていて、さらに白米の上には桜でんぶがハート型に置かれていた。


花奈源

「どお?」

葛井

「凄いよ茉里」

花奈源

「ほんと?」

葛井

「うん、僕が好きな物が沢山」

花奈源

「しんちゃんが喜んでくれると思って、一生懸命作ったんだ♪」

葛井

「ありがと茉里、嬉しいよ」

花奈源

「ふふ♪」


僕は、少し恥ずかしくなりながらも茉里の作ってくれた物を食べた。


葛井

「凄く美味しいよ、茉里は料理が上手だね」

花奈源

「しんちゃん…そんなにいってくれるなんて…茉里、嬉しい♪」

葛井

(でもやっぱ、このハート型は少し恥ずかしい)


その後も僕は夢中になって茉里の弁当を食べた。


花奈源

「美味しそうに食べてるしんちゃん見てると、茉里、幸せだな〜♪」

葛井

「茉里の旦那さんになった人は、毎日茉里の作ったお弁当が食べれるから幸せだね」

花奈源

「え!!!」


僕の意識せずに出た言葉に茉里は顔を赤らめて戸惑っている様だった。そして、僕は聞こえなかったけど、小声で何かを言っていたと思う。


花奈源

「…茉里の旦那さんになれる人は…もう…決まってるもん…」


僕は茉里の弁当を食べきった。


葛井

「ご馳走様でした」

花奈源

「はーい♪」

葛井

「ありがとうね、茉里」

花奈源

「ううん、しんちゃんがまた食べたいって思ったら茉里に言って、茉里毎日でも作ってきてあげる!!」

葛井

「ありがと、じゃあ、またお願いしようかな」

花奈源

「分かった!今度はもっとおっきなお弁当にしんちゃんの好きな食べ物いーっぱい入れて来るからね♪」


茉里はいつになく上機嫌だった。いつも明るい茉里だけど、褒めるとなぜか途端に奥手になる…ま、そんな所が可愛いんだよな。茉里と楽しく会話を続けていると周りから小声で僕達の事を話しているのが聞こえてきた。


周りの声

「あれさ、茉里だよね」「うん」「茉里って確かさ、半年前に…」「うん、私も聞いた事ある」「あれ、茉里ちゃんじゃね?」「相変わらず可愛いな」「つか、茉里ちゃんといるやつ、あいつって」「あー、釣り合わねーよな」「それな、前にあれだけのことがあったのにな」「よく、茉里ちゃんもアイツと一緒にいてやれるよな」


周りの声が段々と僕達にも分かるくらい聞こえてきた。茉里の表情が段々と暗くなって行っていた。


葛井

「茉里、外いこっか」

花奈源

「え?」

葛井

「ほら、気分転換に、外で一緒に歩こ」

花奈源

「う、うん」


僕は茉里の手を取り校舎を出た。茉里と外で歩いていた。


葛井

「ぇほ…ぇほ」

花奈源

「しんちゃん、大丈夫?」

葛井

「うん、大丈夫、心配ないよ」

花奈源

「ほんとに?」

葛井

「うん、ほんとに大丈夫だから、ね」

花奈源

「うん…」


その時、僕のポケットに入っていたスマホの通知音が鳴った。


葛井

「ん?」


スマホを見るとそこには大ちゃんからのメッセージと表示されていた。僕は茉里にバレない様にスマホの連絡アプリ「loin」を使って大ちゃんに返信をした。


【loin内やり取り】


大ちゃん

「今日の放課後、また会えないか?ちょっと話したい事があって」

自分

「放課後?いいよ」

大ちゃん

「じゃあ、放課後、裏庭のベンチで待ち合わせで」

自分

「分かった」


僕も唯一の友達である大ちゃんとはもっと話したかったし、茉里に内緒にしても別に問題は無いと思った。午後のチャイムが校内に鳴り響き、外を歩いていた僕と茉里は次に行われる授業に行った。


夜、7時30分


眠気を我慢しながら授業を受けていた。その時、チャイムが鳴り今日ある全ての授業が終了した。


葛井

「はー!やっと今日の授業終わった」

花奈源

「お疲れ様」

葛井

「うん、茉里もお疲れ」


僕と茉里は一緒に大学内の玄関まで行った。


花奈源

「そうだ、しんちゃん」

葛井

「ん?なに、茉里」

花奈源

「今日、茉里のマンション泊まりに来る?」

葛井

「いいの?」

花奈源

「うん」

葛井

「じゃあ、そうしようかな、今日朝起きれなかったから、茉里がいた方が安心だ」

花奈源

「もー、でも、頼られるのは嬉しいかな♪」


茉里のマンションに行くのはこれが初めてじゃない、と言うか自分のマンションに居るよりも茉里のマンションに居ることが多い。


葛井

「じゃあ、茉里先行って待ってて、僕は色々と準備した後、行くから」

花奈源

「分かった、あ、部屋何処か…分かるよね?」

葛井

「うん、5階の左端から3番目だよね」

花奈源

「そう、なるべく早く来てね…しんちゃんといっぱい過ごしたいからさ」

葛井

「え?うん、分かった」


茉里は小声で喋る事がたまにあるから不思議だ。


花奈源

「じゃあ、また後でね♪」

葛井

「了解」


茉里は機嫌が良さそうに歩いて行った。


葛井

(よし!って、しまった、予定してた時間より少し遅れてる急がないと、大ちゃん、もう来てるよな、きっと)


僕は大ちゃんとの約束をしていた裏庭のベンチへ向かった。予定より少し遅れていたので早歩きで行く事にした。約束の場所に着いた僕は、大ちゃんを探した。ベンチはいくつもあった、そこに一つだけ街灯が照らしていたベンチに大ちゃんらしき人物が座っているのが見えた。僕は急いで近寄った。


葛井

「はぁ…はぁ…ごめん遅くなって」

下翠

「いや、わざわざ来てくれてありがとう」

葛井

「ううん、僕ら友達じゃんか」

下翠

「ふ、そうだな」


僕は大ちゃんの隣に座った。


葛井

「それで、どうしたの?」

下翠

「実わさ…新に言いたい事があって」

葛井

「言いたい事?」

下翠

「ああ、新にしか頼めない」

葛井

「ぼ、僕に、しか…」


大ちゃんがこんな真剣になっている表情は初めて見た。僕はきっと大ちゃんが大切な事を伝えてくれるに違いないと友達として親友として期待した。


下翠

「新、俺と彼女を交換してみないか」


大ちゃんの想いもよらない言葉に僕は嬉しさを感じた、何故なら僕自身も同じ事を思っていた。


葛井

「大ちゃん…いいよ!!」

下翠

「本当か?!」

葛井

「うん!!」

下翠

「新…お前が友達で本当によかった」

葛井

「僕もだよ大ちゃん」

下翠

「いやさ、最初は断られると思ってた、こんな誘い…乗ってくれる奴なんて居ないって思ってた」

葛井

「何言ってるんだよ大ちゃん、水臭いじゃんか、僕ら親友だろ」

下翠

「新…お前ってやつは」

葛井

「僕さ、今日理想の女性が現れて、それが大ちゃんの彼女さんの静香南さんだったんだ」

下翠

「新、俺も同じだ、新の彼女の茉里ちゃん、俺は茉里ちゃんの様な明るくて可愛くてアウトドアな子が本当に理想だったんだ」

葛井

「そうなの?!僕は静香南さんみたいな、クールで美人でインドアな人が理想だったんだ!!」


僕に理想の女性を話してくれた大ちゃん、この時僕は、本当に大ちゃんが友達で良かったと思った。


下翠

「新!!」

葛井

「大ちゃん!!」


そこで、僕らはある約束をした。


下翠

「それじゃあ、今度の日曜日にお互いの彼女に相手とデートをして欲しと頼み込む、決して彼女にはバレてわいけない…それでどうだ…新」

葛井

「了解、任せて」


僕と大ちゃんは二人、契約の握手を交わした。



「下翠 大介」編

(げすい だいすけ)


朝、7時20分


下翠

「は〜、寝み〜」


朝、学校に向かっている俺、大学にしては早よな、俺もそう思う、正直言ってダルい。そんな事を考えているうちに大学に着いちまった。俺はいつも通り、右端の後ろから2番目の窓側の席に座った。


下翠

「は〜あ、眠い、ったく、朝はえーんだよ、いっつも」


朝早く起きた俺は機嫌が良くはなかった。そんな時、俺の横から誰かが話しかけてきた。


謎の声

「おはよ、大介」

下翠

「は〜、あ?」


誰かはすぐに分かった。


下翠

「あ、おはよ、月華」


そう、俺の彼女の静香南 月華。


静香南

「隣、座ってもいい?」

下翠

「おう」

静香南

「ありがとう」

下翠

「ん、は〜」

静香南

「んふ、眠そうだね」

下翠

「ねみーよ」

静香南

「あ、そうだ、ねー大介」

下翠

「ん?どした?」


月華は、肩にかけてきていた水色と紺色が合わさった可愛らしいハンドバックから本を取り出して俺に見せてきた。


静香南

「これ、昨日発売されてたんだ」

下翠

「ん?」


その本の表紙には「巣立ちの記憶」と書かれていた。月華は俺に嬉しそうに本の紹介をした。


静香南

「これね、私の好きなシリーズの新作なんだ」

下翠

「そう…なのか」

静香南

「うん」


いつもは静かな月華だが、今日は何やら機嫌良いみたいだ。でも、俺は正直小説とかは好きではない、だから、いつも楽しそうに俺にすすめてくる月華には申し訳がない。


静香南

「私は昨日で読み終わったんだ」

下翠

「え?!早いな」

静香南

「それでね、大介にも、是非この本、読んで欲しいの」

下翠

「え、俺が…でも俺小説とかそういうの」

静香南

「やってもないのに分からないって事あるでしょ?小説もそれと同じで、読んでみないとその面白さには気づけないと思うの、そう、小説って、つまらないと思われがちだけど、実際に読んでみるとね…」


月華は俺に小説の素晴らしさを語ってくれた。けど、俺の耳には入ってこなかった。


静香南

「…なんだ、だから、大介にも読んで欲しいの!」

下翠

「ん…分かった、後で読んでみる」

静香南

「ほんと?!よかった、後で感想聞かせてね」

下翠

「お、おう」


こんなキラキラした目で俺に勧めてくる月華は初めて見た。


下翠

(流石に、断りきれないよな)


俺は月華から貰った本を持ってきていた鞄にしまった。そして、丁度いいくらいにチャイムが鳴り授業が始まった。


昼、12時40分


チャイムが校内に鳴り響いた。午前授業の終わりのチャイムだ。


下翠

「は〜、疲れた」

静香南

「大介」

下翠

「ん?」

静香南

「私、図書館行きたいな」

下翠

「お、そうか、いってら」

静香南

「…大介は何するの?」

下翠

「俺は、お腹空いたからコンビニでも行こうかな」

静香南

「私も一緒に行く」

下翠

「え、でも、さっき…」

静香南

「…それは、私もお腹空いちゃってたの忘れてて…」

下翠

「お、そうか」

静香南

「…うん」


無理して合わせてくれてるっていうのは分かってる。けど、月華は俺に勿体無いくらいの女性だ。綺麗だし、顔も整ってるし、スタイルもいいし、胸も大きいし、それにいつもいい匂いがする。一緒に歩いてれば、すれ違った男どもはみんなして、必ず振り向く程の美貌を持ってる。どうして俺なんかの彼女になってくれたのかって思うほど。みんなに理想の彼女だと言われ、羨ましがられる。けど…。そんな事考えながら月華とコンビニへ向かおうとしていた。俺は、月華との歩幅を考えずに歩いていた。月華との空いた距離を気付かぬまま向かってしまっていた。出口付近の十字路、俺はそこを通っている最中だった。すると、右側から、大きな声で俺を呼ぶ声が聞こえてきた。俺は、聞き覚えのある声に反応し、右を向く、そこにいたのは俺と高校からの付き合いがある、葛井 新がいた。どうやら俺の名前を読んでいたのは新だった様だ。新と最後に話したのは、高校卒業した時以来で、二人とも会ってなかったせいか、余り会話が弾まなかった。そこに、置いてきてしまっていた月華がやってきた。


静香南

「大介?」

下翠

「ん、あー、わり」


月華は、俺に新との事を聞いてきた。


静香南

「ねー、大介、そちらの方は?」

下翠

「あー、俺の高校時代の親友みたいなもん」

静香南

「そうなんだ」


月華を見た時、新は恥ずかしそうにしていた。新に月華を紹介した後、月華は丁寧に新に挨拶をしてくれた。新も月華におどおどしながらも挨拶をしていた。見た目は変わった新だけど、中身は余り変わっていないのを見て俺は、少し微笑みを浮かべた。そんな時だった…、新の背後から、光り輝く様に現れた女性。その女性は新に近寄っていき、新と仲が良さそうに話していた。俺は、そんな彼女に見惚れてしまっていた。そして、この時思った…。


下翠

(こ、この世に自分が描いた理想の女性がいたなんて…)


その女性は俺に、笑顔で丁寧に自己紹介をしてくれた。


花奈源

「花奈源 茉里って言います!よろしくお願いします!!」

下翠

「あ、どうも、俺…」

花奈源

「下翠 大介君だよね、さっきしんちゃんから聞いたよ、よろしくね♪」

下翠

「あ、よろしく」


なんて可愛い子なんだ。月華とは違って、明るくて可愛くて女の子らしく、アウトドアなイメージが、俺が描いていた理想像の全てに当てはまっていた。俺は人生で初めてときめきという物を知った。しかし、その時間はあっという間だった。茉里ちゃんは新を連れて俺らから離れて行った。


静香南

「花奈源さんと葛井君、付き合ってるんだね」

下翠

「そうみたいだな」

静香南

「なんか、大介暗いよ?どうしたの?」

下翠

「いや、なんでもないよ」


正直、新が羨ましかった。俺は我慢ができずにいた。悪いのは分かってる…けど、こんなチャンス二度と来ないと思った。俺は新にスマホの連絡アプリ「loin」で新に放課後に裏庭のベンチに来て欲しいという約束をした。


夜、7時30分


学校のチャイムが鳴り、午後の全ての授業が終了した。


静香南

「はー、終わったね」

下翠

「あー、めちゃくちゃ疲れた」

静香南

「んふ、お疲れ様」

下翠

「月華もな」


俺と月華は、出口付近の曲がり角まで行った。そこで放課後の約束に行く為、俺は適当な嘘を言う事にした。


下翠

「なぁ…」

静香南

「ねー、大介」

下翠

「…あ、ん?どした?」

静香南

「今日、私のマンションに来ない?」

下翠

「え?月華の?」

静香南

「うん、大介が良かったらだけど…」


俺は、月華の誘いに了承した。何故なら、都合が良くなるからだ。


下翠

「じゃあ、色々と準備した後に向かう」

静香南

「そっか、部屋の場所は分かるよね?」

下翠

「おう、3階の左から5番目だろ」

静香南

「4階の右から2番目ね」

下翠

「あ…わりぃ」

静香南

「ううん、いいの…じゃあ、また後で」

下翠

「じゃ」


月華は俺に微笑みを浮かべた後、帰っていった。俺は、新と待ち合わせしていた裏庭のベンチに着いた。どうやら、新はまだ来ていないらしい。新が来るまでベンチに座って、今日出会った茉里ちゃんの事を考えていた。そこへ新が息を切らしながらやってきた。


葛井

「はぁ…はぁ…ごめん遅くなって」

下翠

「いや、わざわざ来てくれてありがとう」

葛井

「ううん、僕ら友達じゃんか」

下翠

「ふ、そうだな」


新は俺の隣に座った。


葛井

「それで、どうしたの?」

下翠

「実わさ…新に言いたい事があって」

葛井

「言いたい事?」

下翠

「ああ、新にしか頼めない」

葛井

「ぼ、僕に、しか…」


俺は新が断るのを承知で言った。


下翠

「新、俺と彼女を交換してみないか」


きっと、俺に幻滅するよな…そう思っていただが、新から返ってきた言葉が予想外だった。


葛井

「大ちゃん…いいよ!!」

下翠

「本当か?!」

葛井

「うん!!」

下翠

「新…お前が友達で本当によかった」

葛井

「僕もだよ大ちゃん」

下翠

「いやさ、最初は断られると思ってた、こんな誘い…乗ってくれる奴なんて居ないって思ってた」

葛井

「何言ってるんだよ大ちゃん、水臭いじゃんか、僕ら親友だろ」


予想外だった新の返答に俺は涙が出そうになるくらい罪悪感と感謝の気持ちが両方が襲ってきた。


下翠

「新…お前ってやつは」

葛井

「僕さ、今日理想の女性が現れて、それが大ちゃんの彼女さんの静香南さんだったんだ」

下翠

「新、俺も同じだ、新の彼女の茉里ちゃん、俺は茉里ちゃんの様な明るくて可愛くてアウトドアな子が本当に理想だったんだ」

葛井

「そうなの?!僕は静香南さんみたいな、クールで美人でインドアな人が理想だったんだ!!」


俺に理想の女性を話してくれた新、この時俺は、改めて新が友達で良かったと思った。


下翠

「新!!」

葛井

「大ちゃん!!」


そこで、俺らはある約束をした。


下翠

「それじゃあ、今度の日曜日にお互いの彼女に相手とデートをして欲しと頼み込む、決して彼女にはバレてはいけない…それでどうだ…新」

葛井

「了解、任せて」


そして俺と新は二人、契約の握手を交わした。

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