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リトビエ王国がなくなり、新たな国が興った知らせは

大陸全土に広がっていった。

いち早く広がったのは、元リトビエ王国周辺国である南大陸の国々である。

元リトビエ王国の周辺には三つの国がある。

塩の国ドラムピ王国

魚の国シェグニテ王国

砂の国ヒュノウミ国


東に位置するのがリトビエ王国よりやや小さいドラムピ王国である。

この国は、別名塩の国と呼ばれるほど塩の生産に特化している。

国のほとんどの海岸は塩田になっており、

港町では毎日大量の塩を積んだ船が出て行く。

その流通量は凄まじく、大陸ほぼ全域にこの国の塩が

出回っているといわれていた。

このドラムピ王国の南にある小さい国がシュグニテ王国である。

この国は元リトビエ王国とドラムピ王国で挟まるように位置していた。

シュグニテ王国は魚の国と呼ばれており、南大陸で一番漁業に盛んな国だ。

しかし、実際のところ魚食を好む人はあまりおらず、

近年は海魔獣狩りが盛んである。海魔獣の肉をドラムピから仕入れた塩で加工し

長期保存用として冒険者や内陸部に輸出していた。

元リトビエ王国の西を少し行くと砂漠が広がっている。

砂漠が始まるあたりからヒュノウミ国といわれているが

明確な線引きはされていない。

ヒュノウミ国は砂の国といわれている。その名の通り国土の大半が砂漠だ。

砂の国だから砂の輸出をしているというわけではない。

砂の国の輸出されるのは金である。

金の鉱脈が非常に多く、この国では金は鉄より安く取引されていた。

彼らが金との交換で欲しいものが塩である。

砂漠で採れる物は少なく、住んでいる生物は虫ばかりだった。

地中に潜む魔獣ジャイアントビリカルワーム。

砂に擬態する魔獣サンドスコルピオ。

岩山の洞窟や空洞に住んでいるデッドスパイダー。

これらがヒュノウミ国を代表する魔獣たちである。

魔獣の肉も食べられるとはいえ、砂の民もこれらを食べる気にはなれなかった。

そこで彼らは羊やヤギの遊牧を行うことで生活するようになった。

さて、そんな三つの国はリトビエ王国がなくなり新たな国が台頭したことを

間者と商人から聞き驚いた。

どこか小さな国ならあり得る話だが、大国では珍しい。

北の帝国の侵略の間違いでは?と何度も確認を取ったほどだ。

未だ新たな国からの使者は来ていないため、三つの国の王は互いに連絡を取り合い

急遽集まることにした。


波の音だけが聞こえるとある場所で3人は互いに顔を合わせた。

護衛は数える程しか連れてきておらず、周囲を固めさせてある。

会合を提案したドラムピ王が始めに口を開いた。


「大変なことになった」


顔をしかめながらドラムピ王に答えるヒュノウミ王。


「大変なのはわかっている。問題はどうするのかだ」


「どうしようもできないのでは?あの大国を制したのです。

我々がどうあがいても勝てる気がしません」


二人に対し弱気な発言をするシュグニテ王。

この国の中で彼が一番下だった。


「そもそも侵略なのかもわからん。突然現れたのだ」


「革命でも起きたのでは?あの国は王が変わった途端だいぶ様変わりしましたし」


「あり得る話だ。しかし、商人どもの話と大きく食い違う」


「彼らは何と言っているんです?」


「そもそも大きな暴動一つ起きなかったそうだ。

いつもの王国と帝国の戦いが終わった時には国が変わっていたという」


「馬鹿な早すぎる」


「王は暗殺でもされたので?」


「いや、王は国が変わった後も生きていたようだ。

ただ、新たな王が付いた後王都の民衆の前で処刑された。

今でも王都でさらし首にされている。愚かな王の末路という看板と共にな」


「どうやったのかさっぱりわからないが新たな王に会わないことには

今後どうするか決められませんな」


「その新たな国と王の名は?」


「アルファノア国。国王はジン・アルファノアというらしい」


「聞き覚えがありませんな」


「まったくです」


「今のところアルファノア国から使者は来ていない。

まだ、国内がまとまってないのだろう」


「では、このまま静観ですか?」


「いや、静観はまずい。ここは我らから挨拶して新たな王を見極めよう」


「賛成」


「わかった」


その後会合は他愛のない話題に移っていった。

ひとしきり話した後、解散となった。


「会合を開いた意味があまりなかったな」

ヒュノウミ王は国に帰る途中、そう呟いた。

三か国が足並みを揃えるという認識の確認くらいだろう。

少なくともドラムピ国とは一緒に歩んでいかなかければ困る。

ドラムピ国とヒュノウミ国。この二つの国の懸念は交易にあった。

リトビエ王国を含む四つの国の交易する場所がリトビエ王国だったからだ。

金と塩の売買の中心地の消失は避けたいというのが二つの国の本音だった。






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