デブでキモヲの僕が、春の妖精と結ばれる可能性は何%ありますか?

四拾 六

第1話

彼の名は「太田 太」

身長168cm 体重120kg超。



「名は体を表す」と言うが、彼は・・・・太っていた。

身体を動かすのも億劫、辛い、と言うような歩き方をして

学生鞄を右へ左へと繰り返し持ち直しながら、吹き出す汗を何度も拭っている。


そんな彼の後ろを、華奢な体に腰まで伸びたプラチナの髪を揺らして懸命に追いかける影がひとつ。


彼女は彼の名を呼びながら懸命に走っているのに、彼は丸く大きな耳にイヤホンをして音楽を聴いていて

全く気付かない。

そして彼女の声は、普通より小さく、その体躯も彼に比べれば二回り小さかった。




「・・って、まって、太田く・・・、まってぇ・・・」



太田の歩みが止まる。

彼女の声が届いたのではない。

ただの信号待ちだ。


「太田く・・!・・・・太田君っ」


彼女が覚悟を決めて大きな声で叫んだのと、彼が聞いていた音楽が終わったのが同時、そんな瞬間。



運命の瞬間。



彼女は今だと覚悟を決めた。



「太田君!好きです!付き合ってくださ」ピッポー・・ピッポー・・・・・青信号を知らせる音が鳴る。

太田は彼女に気づかず歩き出す。


そして今日も彼女はその場に取り残された。












「太田君!す・・好きです!付き合ってください!!!」


放課後の校門前。


彼女は太田の前に立って、今度こそ渾身の「告白」をした。


「え?」


太田は左右を見て汗をぬぐう。

女子生徒たちが「マジで?」「ブー太とか?!ウケる」と笑いながら通り過ぎてゆく。


「拙者の事でござるか?」


太田は短い指で自らを指すと、少女は顔を真っ赤にしてうつむいた。


「ああ、罰ゲームの類でござるな、よかろう、拙者でよければいくらでもお付き合いしますぞ」

「え?!」

「それでは」


さっと手を上げると太田は彼女の横を過ぎて歩き出す。



「え、ほんとn・・・・嬉し・・・え?ちょっと、ちょっと待ってよ!太田君~!」


そして彼女は今日も太田を追いかけるのであった。










「家までついてくるとは、最近の罰ゲームも大変でござるなぁ」

「ちが・・罰ゲームじゃ」


太田の家の前・・・やっと気付いてもらえた彼女-彩音レイラ-は顔を赤くしながら訴えるが

太田は「ふぅ」とため息をつき、玄関の前に自分の鞄を置いて座り込んだ。


「え!太田君?!大丈夫?!!!」

「我が膝は通学だけもでも常人の3倍は負担がかかる故、こうして休むのでござるよ」

「・・・・つかれちゃったって事・・?おうちに入って休む?」


レイラの、プラチナの髪が揺れる。



「君が帰ったら家に入るでござる、故、早く帰ってくれぬか?」

「え!あ・・・・」


しゅんと下を向いてうつむくレイラを見て、太田はもう何度目かになるため息をついた。

ただ疲れて息が上がっているだけなのだが、レイラは拒否だと感じて俯いてしまう。


「それとも、まだ何か条件があるのでござるかな?」

「・・だから・・・私・・・・」


何度も何度もこうして告白しているのに、太田は「罰ゲーム」だと言って信用しない。



「罰ゲームなんかじゃありませんっ、私、本当に太田君の事が好きなのに・・・どうして・・・っ」


レイラの涙が春の軟風に舞う。

そこでやっと太田の表情が変わった。


「どうしてわかってくれないの!ばかっ!!」


踵を返して走りだすレイラの後ろ姿に、太田が手を伸ばす。


「ま、待つでござるよ!!」


太田が「よっこらせ」と言いながら体を起こす「やれやれ・・・でござるなぁ・・・」










「まっ・・まっ・・・・て・・・・はぁ、待つで・・・ござ・・・・・ヒィッ・・・ヒィ~」



レイラが走り去って30分、太田は帰ってきたはずの学校の校門を通り過ぎ、立ち止まり、「こ、こちらに・・・来たとおもっ・・・」


「ひぃ・・・ひぃ・・・」そのまま座り込んでしまった。

彼にしては走った方だ。


学校は部活帰りの生徒たちが帰る時間で、「はぁはぁ」と息を荒くしながら座り込んでいる太田を見ては

「うわブー太じゃん」「何あれ、キモー」「近づかない方がいいよ・・」「通報した方がいいんじゃない?」

生徒たちはそんな事を言い合いながら笑って通り過ぎて行く。


中には座り込んで項垂れている太田の頭を鞄で小突きながら、「邪魔なんだよデブ!!」と笑う男子もいた。

「きったねーブー菌ついたんじゃね?」「うっせバァカ!!」「ぎゃはっはは!!!」




太田は何も言わず、暫くするとゆっくりと立ち上がった。



「ねぇ、アンタ」

「え?」




振り向くと、短髪でいかにも気が強そうな女子が太田を睨んでいる。



「レイラの話、聞いたの?」

「・・レイ・・・ふぅ・・・レイ・・ラ・・・と言う名でござるか・・・」

「その喋り方キモいから止めろ!」

「ふぅ・・・、はぁ・・・・うむ、レイラ殿の話なら、この太田、しっかりと聞いたでござるよ」

「やめろってーの!!!」

「ふぅ・・拙者・・・その、レイラ殿を探しているのでござるよ・・・、彼女・・・まるで「春風の妖精」のように

軽やかに走り去ったでござるゆえ・・」

「レイラに何かしたの?!!」

「何かしたのでござろうな」



バシン!!ぷるん・・・っ・・・・!


短髪の女子に、思い切り頬を叩かれた太田だが「・・!いったーーーー!!!!」と手を押さえたのは女子の方だった。


「拙者、顔の贅肉も半端ではござらぬ故・・・通常の攻撃は効かぬ・・その手、捻挫などしなかったでござるか?

大丈夫か?」


微塵も揺らぐことのなかった太田の方が心配して彼女に近づこうとするが、足は止まったままだ。


「っ・・・大丈夫よ!これくらい!!それよりレイラに何かしたなら謝ってよね!!」

「勿論、そのつもりでござる。彼女の居場所を知らぬか?」


はぁ、とため息をついて彼女が呼ぶ。

「・・・・・・・・・・・・・・・レイラ・・・」


校門の影から、レイラが顔をのぞかせた。


「おお!レイラ殿」「殿?!!」


レイラは顔を真っ赤にしてまた校門の影に隠れてしまった。

太田はゆっくり歩き出すと、レイラの前で頭を下げた。


「じゃ、私行くから。ちゃんとやんなさいよね!レイラ!」

「う、うん・・ありがとう可児ちゃん・・」


友達に手を振るレイラの前で、太田はまだ頭を下げたままでいる。


「あ、あの・・太田君・・追いかけて・・きて・・くれたの・・?」

「無論、拙者・・婦女子を泣かせてしまった故、こうして謝りに来た次第でござるよ」

「そ・・そんな・・・、私も・・・バカ・・なんて言ってごめんね・・もう頭上げて?」

「拙者の事は何とでも言ってくれて構わぬ。・・許してくれるか?」

「勿論よ!」


これでやっと、想いが伝わった。

そんな幸せな笑みで太田と見つめあうレイラ・・・。


「ふぅ、なら一安心でござる。婦女子を泣かすと母上に叱られてしまう故」


にこっと・・・太田も満面の笑みで答えて。


「それでは、拙者はこの辺で!先ほどの女子にはきちんと作戦遂行した事を伝えるでござるよ?ではさらば」


スッとレイラに背を向けて帰途に向かう大きな背中を見ながら

レイラは・・・


「どーしてこうなるのよ~」と夕日に向かって叫んだ。







「もう、あきらめた方がいいんじゃない?」


可児のり子は、携帯の向こうで泣きわめくレイラにもう何度目かになる提案をした。


「いや!絶対あきらめない!だって、だって・・好きなんだもん~!!!」


このやりとりはもう何度目か数えるのをやめたのり子は、ベッドに寝転がると「はいはい」と相槌を打って

「なんでよりによって太田なのよ、あいつデブでオタクでキモいって・・」

「キモくなんかないもん!!!可児ちゃんだって知ってるでしょ?!」

「・・・はいはいはい・・・」

「でも、なんで太田君はあんなに・・、私の事嫌いなのかなぁ・・・」


しゅんとなる声を聞くと、その表情もわかる・・・だから。


「レイラを嫌いな男なんかいないよ!」と強く言い放つ。


「レイラはモテまくりでしょ?!」

「・・そうかなぁ・・・」

「そうだよ、レイラは鈍いんだよ・・そういう所も可愛いんだけどね」

「もぅ・・可児ちゃんは意地悪なんだから!」

「はいはい・・もう寝よ、また明日頑張ろうね!」

「・・ぅん・・・・ごめんね・・・、じゃあ・・・おやすみなさい」


通話をOFFにして、ベッドに大の字になって大きく伸びをする。




「・・確かに・・太田君って卑屈すぎるんだよ」目を閉じて思いだす、初めて会った日。

まだ小学生で、小学生の頃から「デブ」「キモオタ」とバカにされていた彼。


でも彼はいつも静かで、そして誰にも関わろうとしなかった。

悪口を言われても、暴力を振るわれても。


苦笑いで濁す訳でもなく、ただ単に耐え忍んでいる訳でもなく、無関心に見えた。

勝ち気で正義感の強いのり子は、太田をいじめる男子を注意した時も


そんなのり子を止めたのは太田の方だった。


それから口も聞いていない。

ただ同じ学区なので、中学も高校も一緒になって、今に至る。



高校に入学した時、誰もが目を奪われたのが、高校から日本に転入してきた・・・今や親友のレイラだった。

クォーターで、髪は白銀のような金髪に、青い瞳。

身長が150㎝もなくて、まるで妖精のようだと誰かが言いだして

レイラは一躍学園の有名人になった。


彼女に告白する男子も多かったが、勿論彼女を妬む女子も多かった。

陰湿ないじめや嫌がらせを辞めさせようと間に入ったのは、やっぱり正義感の塊のようなのり子だった。



しかし、レイラはのり子の思っていたような「か弱い妖精」などではなかった。


いじめや嫌がらせにも堂々と立ち向かい、時にはのり子と共に

嫌がらせををする相手と、髪を引っ張り合う喧嘩までして見せた。


嫌がらせは今のところ収まっている・・しかし・・・


「相手が悪いよ」のり子が独りごちる。


高校でも、その体型や趣味をからかう生徒が多い太田を好きになってしまったレイラは

またもや一躍有名人になっている。


しかもレイラの恋心は本気で。

太田はそれを罰ゲームの類だと勘違いしているらしい。


「ま、そうなるよね・・・」


太田の気持ちになって考えてみれば、今まで散々その手の嫌がらせも受けてきた太田の事、

今回の告白が真剣だなんて思わないだろう。


またあの無関心な目で、レイラを見たのだろう。


「くわー!勿体ない!相手はあのレイラなのに!!太田のバカッ!!!」


のり子は太田の代わりに枕を殴りつけた。






「ただいまでござる」


やっとの事で家にたどり着いたのは7時前で、「ふーちゃん!おかえりなさい」と心配そうに

出迎えたのは太田と顔も体型もそっくりな母親だった。


「どうしたの?玄関に鞄だけ置いてあって、部屋にも居ないからびっくりしたんだから」

「ちと、学校に忘れ物がありまして、心配かけたでござるな、申し訳ない・・それより母上今日の夕食は何ですかな?」

「ふーちゃんの大好きな唐揚げとハンバーグと豚の生姜焼きよ」

「おお、それはありがたい、拙者腹が減って死にそうでござるよ、はっはっは!」

「そうね、もうこんな時間だし、今日はおやつも食べてないんだから沢山食べてね!」


二人で玄関からキッチンへ続く廊下を歩くとミシミシと音がして

「やだもぅ!またお父さんに「廊下が抜ける」って怒られちゃう!」と母親が笑うから、太田も笑った。






次の日。

お昼休み。


レイラは校舎3階の「部活棟」の一室の前に立っていた。

他の部室とは明らかに違う、倉庫のような狭い部屋の扉には「ゲーム・アニメ研究会」と張り紙がしてあった。


「ここだ」

手にしたお弁当を持ち直し、軽くノックをする。

返事はない。


のり子からの話だと、太田は昼休みは大体ここに居るらしい。


「あの、すみません、誰かいませんか?」何度かノックをしてみたが。何の反応もないので

そっと扉を開けてみる。



「あの」


「矢張り今期の一押しはもうこれで決まりでござるな」

「ふぅ・・やっと決まったでござるな!では、拙者から考察を・・」


狭い部屋は暗くて、その中では2人の男子が神妙な面持ちで話をしている所だった。



「あの・・・」レイラがそっと声をかけると

「!!!!ふぇありぃー殿!」

「!!!合法ロリ殿?!」


ふたりは驚いたように立ち上がり、部屋の隅まで逃げるようにして手を取り合って座り込んでしまった。

二人とも同じような髪型に、メガネ姿で双子のように見えた。


「あの・・・」


「いやいや!我らは部活の一環として活動しているだけでして!」

「非認可でござるが、こうして日夜アニメやゲームの話を、純粋にですな!あくまで純粋に!」


「あの、太田君がここに居るって聞いたのですが・・」


レイラが尋ねると、二人は少しほっとしたように立ち上がった。



「おおお太田殿でしたら、弁当一つでは満足できなかったようで」

「いいい今、購買にパンを買いに行っているでござるよ、もう帰ってくる頃でしょう」

「そ、そうですか・・」


二人はレイラの明らかに落胆した表情を見て、少し考えた後に・・・


「よ、よよよ・・よろしければ・・、ここで待ちますかな?」

「よ、よよ・・・・よろしければ・・・でござるが・・・」


と控えめに提案して来た。


「いいんですか?」


ぱっと笑顔になったレイラを見て、二人は安心したように頷いた。

その時。



「おお!太田殿!噂の妖精殿が・・」

「太田殿!わざわざ訪ねて来てくださいましたぞ!」


レイラが振り向くと、太田が少し離れた場所に立っていて、レイラは太田の元に駆け寄った。


「良かった!太田君と一緒にお弁当食べようとおも」

「ここには二度と近づかないで欲しいでござる、さらば」


レイラの言葉をぴしゃりと遮って、太田はレイラの側を大げさに避けるように回って

部室へと消えた。

後には・・呆けた顔でお弁当を抱えるレイラ一人が取り残された。









「・・いささか・・可哀想ではござらぬか?」「良かったのでござるか??」


メガネで瘦身の昆ノ宮源一・同じくメガネで瘦身の源二・・双子の同級生に言われて

太田は購買の余り物のアンパンを3つといちご牛乳のパックを机に置くと

「どっこらせ」と狭い部屋の、狭い机とパイプ椅子の間に体をねじ込むようにして座った。



「言ったであろう、あの子は罰ゲームをやらされているのだ、今日は部室に行けとでも言われたのであろう」


あんぱんは二口で消えた。

そのころには次のあんぱんに手をかけつつ太田は続ける。


「例えそうでなくとも、拙者にかかわればからかわれる対象になろうて・・・、なのでこれで良いのでござる」


「・・・確かに我らは日陰者・・」「いや、兄者、我らには3次元など不要の世界!2次元が来い!というレベルでござるよ」


「ふふ・・」あんぱんを食べ終えた太田は可笑しそうに笑う。


「拙者、こうして趣味を同じくする者と出会えて、昼食を共にするようになってから毎日楽しいのでござる。

・・出来ればあの子にも明るく楽しい高校生活を送って欲しい、ただその一心でござる」



「太田殿」「太田殿」


「さて、今期の覇権アニメの話でござったな!大いに考察しようではないか!」

「御意にござる!」「ござるよ!」


はははは!と明るい笑い声が響く部室。

廊下にはもう誰も居なかった。









「二度と近づくな・・・・か」


とぼとぼと部室棟を後にするレイラは太田に言われた言葉を繰り返す。


「ショック・・だな・・、もう・・嫌われちゃったのかな・・」


じわりと視界が滲む。

こぼれそうになる涙をぐっと堪えた。


「確かに・・・しつこくしすぎたのかも・・」

「反省しなきゃ・・・・、謝らなきゃ・・・・・」

「でも・・・・聞いてももらえないだろうな・・・・」

「っ・・・ぅぐ・・・、どうしたら・・いいんだろうっ・・・・っ、ひっ・・・」


堪えていた涙が後から後から零れては廊下に落ちた。

今日はお弁当を多めに作って来た。

勿論太田に食べてもらうためだ。


こんな事をしたのは生まれて初めてで、メニューや彩を考えるのに3日も費やした。

やっと納得できるものが出来たから、今日こそは!と挑んだのに。



「あっれー、フェアリーちゃんじゃーん」



刺々しい声に顔を上げ、制服の袖で涙を乱暴に拭った。


相手は6人。

全員女子で。

全員がレイラにいやがらせをしていた生徒たちだ。


のり子のおかげもあって暫くは大人しくしていた彼女達は、また「楽しいおもちゃ」を見つけたように

にやにやと笑いながらレイラのまわりをぐるりと囲んだ。


「何の用?そこをどいて!」


レイラはキッと正面の相手を睨んだが、相手は数で勝っている事と、のり子が居ない事に余裕を感じているのだろう

まだにやにやと薄笑いを浮かべてレイラを見下している。


「ぶー太に振られたんだって~?可哀想ね~?」

「・・・っ」

「あんな、デブでキモくて臭くてキモい奴のどこがいいのよ!それともあんたデブ専なの?!」


周りから一斉に笑いが起こる。


「こんな!」ガシッと頭を押さえつけられた。


「ウチらが髪染めんのも禁止されてんのに、ハデな髪色しやがって!!」

「ハーフか何かしらないけど、その目もどーせカラコンなんでしょ!」

「ツケマなんかしちゃって!色気づいてもチビはチビだよね!あ、ブー太みたいなロリコンには需要あるんだ!」


髪を引っ張られ、頭を押さえつけらえ廊下に膝をつく。

それでもお弁当箱だけはしっかりと胸に抱えた。


「なにそれ」その仕草を見逃さなかった一人に弁当箱を取り上げられる。

抵抗したが、肩を蹴られて廊下に倒れた。








お気に入りにアニメの話をしていたら、もう午後の授業の始まる時間になってしてまった。


「楽しい時間はあっと言う間でござるなぁ」「全く全く!」双子の後に部室を出た太田は楽しそうに笑う。

「そうでござるなぁ・・放課後もご一緒したいのでござるが、拙者家の都合で・・」


申し訳なさそうにする太田に「いやいや、好きな時に来て下され!」「勿論好きな時間に来て下さればいいいのでござるよ!」

双子に挟まれるように廊下を歩いていると、廊下の踊り場でレイラを囲む女子達を見て、三人は思わず身を隠した。




「どどどどどどどど、どうするでござるか太田殿ぉ・・」「太田殿ぉ・・」


「助けに行く」


階段に隠れてその様を見ていた双子は驚いて太田を振り向く。

まさかそんな判断を太田が下すとは思わなかったからだ。


「でででで、でもしかし・・数も圧倒的に不利」「それにあの女子どもは鬼神の如き強さでござるよ・・・?」


「大丈夫、行くのは僕だけでいい。ふたりは急いで階段を下りて「生活指導の田村先生」が来たって大声で叫んでくれる?」


いつものような「武士」のような語り口調ではない太田にも双子は驚いたが、それだけ太田に余裕がないのを感じた。


「しかし・・我らにそのような・・」「・・・太田殿・・・我らはその・・・」


「怖かったらそのまま教室に行っていいよ」


太田は立ち上がる。

双子を見る事も無かった。


「作戦なんてものじゃないんだ。ただ・・見てても気持ちがいいものでもないから・・出来れば見ないでほしい、ただそれだけだから」














「やめて!」


中身を暴かれ「何これ!まさかーぶー太に作ってきてあげたのぉー??」


「返して!」


立ち上がろうとしても、肩を押さえつけられて立ち上がれない。



「食べてもらえなかったんだーー、ざーんねーん!」


弁当箱を逆さまにして中身が廊下に零れ落ちる。


「やめ・・・っ」

「日本ではねーモッタイナイって精神があってねー?」

「ぐっ・・・!」


後ろから肩と頭を押さえつけられ、廊下にばら撒かれたお弁当の中身に押し付けられる。


「憧れのぶー太様には食べてもらえなかったけどぉー、捨てるのはモッタイナイでしょ!」

「ぜーーんぶ食べなきゃね!」

「トンカツとか入ってんじゃん。共食いさせる気だったのー?フェアリーちゃんえぐーい!!」

「ほら喰えってんだよ!!!」



「待てぃ!!!!」



ドスン!と階段から廊下に飛び降り、修羅場真っ只中に飛び込んだのは太田 太。


「な・・」女子達が思わずレイナから離れる。


「ふんふん・・・何やら良い香りがするでござるなぁ・・やや!こんなところに弁当が!拙者弁当は別腹でござるゆえ

頂いてもよろしいかな?」


「・・太田・・く・・・」


ソースやご飯粒で汚れた顔のまま、涙をこぼして、太田を見つめるレイラには一瞥もくれず。

太田は廊下にばら撒かれたおかずのひとつに手を伸ばす。



「やめ・・・」



「うむ!美味!」


「てめぇ!ブー太!!!!」


女子の一人が叫ぶ。


「ブタはブタらしく!這いつくばって喰えってんだよ!」

「ほら!てめーも!!!」


またレイラを押さえつけようとしたのを「待たれい!」と言葉で制し、太田は言われた通り廊下に四つん這いになって

弁当を食べ始めた。


「やめ・・てよ!もうそんな事しなくていいよ!太田君!!!」



「ギャハハハ!!!写メしてグルチャでまわそうぜ!!」

「ウケるー!ほら、フェアリーちゃんもこっち見て!ピースしなよ!!」



レイラは顔を覆って泣き始めた。


「ぶってんじゃねーよ!!」腕を掴まれて汚れた泣き顔を撮影された。

無理やり指をピースの形にされてまた撮影された。



「私の事はなんとでもすればいいよ!太田君には何もしないで!!」

それでも、太田は弁当を食べるのを止めない。


「太田君もそんな事しないで!!もうやめて!!もう・・近づかないからっ・・・謝るから・・・っ

太田君!太田君!!!」





「ややややべーー!!!!!生活指導の村田だーーー!!!!!」

「ここに居たらやべーーー!!!!!部室取り上げられるーーー!!!!!!!!」



大声で叫びながら、双子が階段を駆け下りて行く。


『すまぬ太田殿!!!我々にはこれしか!!』『弱き我々を許してくだされぃ!!!!』



双子の必死な声に、さすがの彼女たちも狼狽えて「もう行こう」「飽きたわ」と口々に言いながら階段を下りてゆく。

午後の授業の予鈴が鳴る。


「っ・・なんで・・・っ・・こんな事っ・・するの??」

「・・・・」


太田は廊下に散らばった弁当の中身を大方片付けて「腹が減っていたのでござる、馳走になり申した」とぺこりと頭を下げた。

そして弁当箱や、投げ出された箸箱や巾着袋をゆっくりとひとつづつ片付けてゆく。



「顔を洗って、午後の授業に出るでござるよ?遅刻してしまう」

「・・・それは太田君も一緒でしょ?」

「せっかく頂いたお弁当でござるから、綺麗に洗ってお返しするのが礼儀」

「・・・・・いいよ、そんなの・・・っもう・・捨てて・・・」

「・・・そうでござるか・・・、ではそう致そう」

「・・・ごめんなさい、余計な事して・・」

「いや、」

「・・・・ごめんなさい、二度と近づかない・・・・から」

「それが賢明でござるよ」

「さようなら」


レイラは立ち上がると廊下を駆け下りて行った。




その後ろ姿を見て。


「本当に・・妖精みたいだな・・・」


と呟く声は、声にはならず・・・・

太田廊下を掃除する為に立ち上がった。





学校からの処罰で、太田は1週間の停学処分になった。

本来は女子たちが罰せられるべきだが、その女子グループの中に学校に圧力をかけられる

人物がいたようで、例の事件は


「太田が無理やりレイラから弁当を取り上げ、廊下にぶちまけていた所を助けに入った女子達に

報復として弁当を食べるように言った」


という事実を大きく捻じ曲げられたものになっていた。

クラス中にバラまかれたレイラの写真は、女子達に感謝のピースサインで応えた一枚として面白おかしく拡散されていた。


「あんたの事だから職員室に乗り込むのかと思ったけど・・・」


のり子は机に突っ伏しているレイラのつむじを指先でつつく。


「そんな事しても無駄、誰も私のいう事なんか信じてくれないもの」


白銀の髪を黒く染めるように言われたのも、あの事件のとばっちりのようなものだった。


「私・・なんとなく・・太田君の言ってた事わかるな・・・」


「何かすればするだけ、言えば言っただけ、相手は悪意で返してくる・・・・周りにもとばっちりが行く可能性もある。

だから、何もしない、言わない、誰も近づけないのが一番いいんだよ・・・・太田君はそれを知ってたから

私も遠ざけたんだ、遠ざける事で守ってくれてたんだ」


「・・・・あいつはさ、何も要らないって、勘違いしてんじゃないかな」

「・・・・・」


レイラは顔をあげた。

真っ赤に泣きはらした目でのり子を見る。


「今のあんたと同じでさ、でも、本当になにも要らないの?」


「好きな気持ちを諦めて、友達作るの諦めて、段々それが普通になって」


「誰も近づかないように変な言葉遣いして、でも優しくて、いざって時には助けてくれたのに、何も感じてない太田君もあんたも」





「欲しくない訳ない、友達も、恋人も、勇気がなきゃ誰かを助ける事も出来ないのに、そんな事すら「何でもない」って思ってる。

思い込もうとしてる。」


廊下に這いつくばって、ばら撒かれたお弁当食べるなんて、普通出来ないよ。凄い事なんだよ。


バカみたいに好き好き言って一か月もあいつを追いかけまわす事だっ、その間どれだけいじめられたり嫌がらせされたり、笑われたりした?それでも諦めなかった事も凄い事だよ。



わかってるのかな。



「それで、二人とも「何もありませんでした」って顔で居るのが・・」


そこまで言って、のり子は気づいたようにぽんと手を叩いた。




「あぁ、そうか、私、むかついてんだ!」

「へ?!」


のり子がレイラの頬を両手で挟む。


「太田君は昔からああだったけど、レイラまで簡単に髪染めたり、カラコン入れたり、型にはめられても抵抗しないのが、むかつく!」


「ら、らってぇ・・・」


「私はねぇ!あんたが儚げな美少女だったから、嫌がらせされてるのを助けてあげたと思ったの、でも本当は頑固で負けず嫌いだってわかったから友達になれたの!それが何よ、一度「近づくな」って言われたくらいで引き下がって!」


「かにひゃ~ん・・」


「私、そんなの許さないから!レイラも、太田君も!」


「れもっ・・・どうひゅればいいの〜・・」





「それは自分で考えなさい!」



最後にレイラの軽く頬をつねって、のり子は自分の教室に帰って行った。

レイラは両手で頬を押さえて・・・・・泣きながら、笑った。










放課後、今度はノックもせずに扉をあける。



「うぉ!ふぇありぃー殿!」「合法ロリ殿!!」


矢張り双子は双子らしく、手を取り合って部屋の隅に移動した。



「こんにちわ、私、彩音レイラって言います。一年生です」


レイラはペコリと頭を下げた。

その髪色はプラチナに戻っていた。


「ここここ」「ここここ、んに・・ちわ・・でござる・・・我々も・・一年でござる・・・よ?」


どもりながらも挨拶を返してくれたふたりに、レイラは笑顔で応えて、

「あの時は助けてくださってありがとうございました!お礼が言いたくて来ました」

と、もう一度頭を下げた。


「そそそ、そんな・・礼などと・・・」「我々・・結局・・太田殿・・・友に何もできなかったでござる・・今回の謹慎の件も・・」



双子はあちこちに視線を泳がせながら、消え入りそうな声で「・・・そ、その髪は・・」「だだだだ、大丈夫でござるか?」


「ままま、また、あの鬼女どもにいやがらせを・・」「さささ、されはしないだろうか・・・・?」


レイラは少し驚いた顔をして、笑った。


「ふふっ、だって、染毛が校則違反なら、こちらの方が正しいわ!私は何も悪い事していませんって校長先生に直談判したの!」


「・・・ししし・・しかし・・・・」「あのような写真もバラまかれて」

「気にしないわ!あれは私ではないもの!そんな事より!!」



レイラは二人の元に行くと手を差し出した。


「太田君の家に行こうと思うの。一緒に行きませんか?」


双子は、顔を見合わせて・・・・・暫く戸惑って・・・・・



「行く!」「俺も!」と立ち上がった。







「まぁまぁまぁまぁ!まぁまぁ!ふー君のお友達?!まぁまぁ素敵!さぁどうぞ上がって上がって!!!」


太田の母親は本当に嬉しそうに、3人の名前も聞かない、言わせない勢いで3人を太田の部屋へ促した。


「すぐにお菓子持っていくからね!まってて!すぐに持っていくから!!!!!」


太田の部屋は2階で、3人が階段を上る間も何度も「お菓子!持っていくから~!」と嬉しそうな声が聞こえる。


「優しそうなお母様ね」

「ええ全く」「全くでござる」


3人はふと目があって・・・笑いあった。


太田の部屋の前、レイラが先頭を切ってその前に立つと、ゆっくりノックした。

返事は無いが、レイラは微塵も戸惑うことなく扉を開けた。


「レレレレイラ殿!いきなり扉をあけるのは」「漢と書いて「男」にはデリケートな時間も・・・」


部屋には太田が勉強机に座っていてこちらを振り向いていた、呆けた顔をして。


「こんにちわ!太田君!そして、あの時はありがとうございました!」

レイラが頭を下げる。


「助けてもらえて・・本当はとても・・・・嬉しかったの」



「拙者助けてなど・・」


「太田殿!」「太田君!!!」


双子も頭を下げる。


「逃げてごめん!怖くて・・逃げて・・」「ごめん!何もできなくて・・太田君が・・謹慎なんておかしいのに、何も言えなくて・・・・」




太田は・・・・・・・・・・・・

一度勉強机に向き直ると「ふぅ」と息を吐き。



「どうしたでござるか・・皆のもの。謹慎など拙者何も感じてはおらぬし、誰かを助けた覚えも、拙者が誰かを責める権利も・・・」

「これ!太田君が休んでる間のノートね!」


レイラは太田の机にノートを置く。

そして、部屋を見渡して



「わー!可愛いお人形が沢山ある!コミックもたくさん!読んでもいい?!!」


双子は目くばせする「我らがコレクションとは比べ物にならぬが・・ここは所謂「オタク」の部屋」「レイラ殿が引いてしまうのでは・・」



二人が、太田が何が言うより先に、レイラは手にした漫画本をペラペラとめくる。


「触らないでほしいでござる!それは・・」

「私、太田君がこのコミックの話をしているの聞いて、本屋さんに探しに行った事があるんだ~、

タイトルが難しくて見つけられなかったけど!」

「だから、それは・・・触らない方が・・」

「どうして?」


レイラが不思議そうに尋ねた時、部屋の扉が開いて

スナック菓子やジュースを大きなトレイいっぱいに載せた母親が入ってきた。



「さぁさ、どうぞ、沢山食べてね!あ!よかったら夕飯も食べく?!」

「母さん!!」



太田は母親の背中を押して部屋の外に出た。



「あらあらどうしたの?ふーちゃん」

嬉しそうな母親の顔を見て、戸惑って・・・太田は言葉を絞り出す。


「あの・・人たちは僕に関わると、学校で嫌な事言われたりされたりするんだよ、だから」

「・・ふーちゃん・・・」

「だから・・僕の家に来たとか、僕の・・・母さんのご飯食べたなんて知れたら・・・バカにされて・・・・・」



母親の瞳に涙がにじむのを、太田は辛そうに唇をゆがめて見ている事しかできなかった。





「そんな事、ありません、絶対!」



レイラは部屋の扉を空け放って、彼女にしては大声で断言した。



「おばさま!私の事、覚えてらっしゃいませんか・・?」

「え?・・・」


母親は少し考えて・・ぱぁっと顔を輝かせた。


「あぁ、そうね、もっと子供だと思ってけど、大きくなって~、あの子よほら!ふーちゃん!

うちの前で迷子になってた子だわ!そうでしょ!」






そう、あの日。


レイラは来日したばかりの日本で迷子になっていた。

電車までは家族と一緒に移動したのだが、日本の街並みがもの珍しくてあちこちに目を奪われて歩く度に

家族と離れになって、携帯で連絡をとりつつ移動するも、なかなか家にたどりつけなくて・・・・・

日本語も英語もわかる。

それはジュニアスクールで日本語を学んでいたからだけれど、漢字の住所表記は難しい。


親切心で声をかけられる度、自分より体の大きな大人に声をかけられるのが怖くて・・・そんな時・・・。

誰かにつけられている事に気が付いた。


急いで逃げた。

逃げても逃げても大きな影がついてくる。


「日本には「ヘンタイ」が居るから気をつけなさい」と父親に言われたのを思いだす。



涙目で走り続けたその先に・・・



「迷子の子ネコちゃんはあなたね?」


と優しい声がした。


「まいごのまいごのこねこちゃん、あなたのおうちはどこですか?」


耳なじみのあるフレーズに、思わず住所を言って、涙がこぼれてとまらなかった。

その言葉が英語だったからだ。





「あらあらあら、泣かなくてもだいじょうぶですよ、その携帯であなたのお母さんとお話できますか?」


レイナは何度も頷いて携帯を彼女に渡した。



「あらあら、まったく逆の住所に来てしまったみたいね、大丈夫ですよ、このままお話しながらおうちにかえりましょう」


彼女はレイラを安心させるように、携帯を返し、レイラの母親とスピーカーで話をしながら、家まで送り届けてくれた。



「どうして・・おばさまは、私が迷子で困っているってわかったのですか?」


まあるくて温かい手を握りながら尋ねると。


「うふふ・・本当は秘密なんだけど・・」

「・・ひみつ・・ですか?」

「最初はね、私の息子があなたをみつけたの、でも・・、息子は自分の姿があなたを怖がらせてしまうからって、隠れながら

私の家まで誘導してね・・」

「・・・・え!、じゃあ・・」


振り向こうとするレイラの肩をそっと抱いて、彼女は「ないしょ、よ?」と笑った。


「・・どうして?私は彼にお礼が言いたいのです・・勿論あなたにも!」

「ふふふ・・いいのよ・・、息子は恥ずかしがりやなの、そして、誰かが困っていたら助けるのは当然なのよ?」

「でも・・・・・」


「あら!あれがあなたの家ね!ほらママのところにお帰りなさい」


ふわふわの手に促されて、家の前で待っていた母親の胸に飛び込む。

すぐに振り向いてお礼を言おうとしたけれど・・・複雑な道筋に夕暮れも相まって・・・その姿を見つける事は出来なかった。



















「高校は日本の学校に行く事に決めました。それから私、あなたと・・あなたの息子さんの姿を探しました・・・、すぐに見つけましたよ!」


太田はレイラを振り向く。


「だって、私が困っていると、彼はいつも助けてくれたから!」



「確かに彼は恥ずかしがりやさんで、困っている人を見たら放っておけない・・そんな人でした」

「私以外にも、たくさんの人を助けていた・・・見返りなど求めず、遠巻きにそっと・・」

「私は彼の事が大好きになりました!皆は彼に酷い事を言うけど、私にはわからなかった」

「彼は優しさの塊のような人・・・・家族を愛して友達を愛して・・でも」

「・・・・・・・・・・でも・・・・何故か自分の事は愛せない」

「だから私は一生懸命追いかけたのです。」










「私はあなたを愛しています」






そう、伝えるために。



「でも、彼は頑なで、まるで自分を「ハリネズミ」のように感じているのかしら、どうしても「その場」から動けないでいるらしいの」


レイラは頬を膨らませて太田を睨む。


「自分が動けば、私を抱きしめたら、その針で傷つけてしまうと思っているのかしら!」



「!!!」

「だだだ」「だだだき、他のリア充なら許せませんが!」

『太田殿なら!!!全力全裸待機ですぞ!!!!!』


双子のユニゾンが決まり、母親は泣きだし、太田はどうしようも出来ずに。







「太田君・・私、あなたの事が好きです。ずっと好きで・・・・

ずっとあなたの事を見ていました・・・、気持ち悪いかもしれないけど・・・、私の事が嫌いなら諦めたいけど・・

でも、あなたの事を愛していていです・・・許してくださいますか?」




青い瞳に涙が滲む。

太田は慌てて手をジーパンのポケットに手を入れて・・・・そのまま固まる。



「ハンカチ・・貸してくれるの?」


少し首を傾けて、見上げてくる瞳に・・・太田は何も言わずにハンカチを取り出した。


「・・・・・・僕の・・ハンカチなんか・・臭いのでは・・」

「いいえ、いい香り・・」

「・・・・・・・・・・・・・・また、いじめられるのでは・・」

「知らないの?私、結構強いのよ?」

「・・いや・・そんな・・・華奢な体で何を言う!」

「華奢じゃなくて身長が低いだけ!もう少しで胸だって大きくなるわ!!!」

「・・そ、そういう・・事ではなく・・・」

「ふふふふ!!!」



レイラは悪戯っぽく笑った。


「今、えっちな事想像したでしょ!」

「してないっっ!!!!」


「何慌ててるのー?」

「あわててない!!!」


「いつものニンジャ口調はどうしたの?」

「そ、それは・・」



真っ赤になって慌てる太田を尻目に『では我々はこれで!』と双子と、母親が「ニンニン!」と言いながら階段を降りて行く。



レイラは両手を広げた。


「え・・」


「抱きしめて、大丈夫。私は傷ついたりしない」


「・・いや、いや・・・そういう事ではなくて・・・」


「だーきーしーめーてー!!!」


「いやいや・・!そんな事したら・・」


「他に何が心配なの?」



頬を吹くらませて、訝しがるレイラに、太田は上を見て下を見て・・・・・・



「・・・・・れて・・・」


「え?何?」


「その・・・・・・君を壊して・・しまうかもしれないから」


その言葉が終わる前にレイラは太田に抱き着いた。



「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「壊れない・・・から・・・・」


レイラは太田のふくよかな胸に顔を埋めた。



「壊れないから・・・・・・抱きしめて・・・・・・・・」



太田はまた上を見て下を見て、右をみて、左を見て・・・・・・・・・・・・・・・・・

レイラの体に触れないように両手を回した。




それはとある春の日の事。



太田の部屋の勉強机の上には・・・

桃色の巾着袋。

中には小分けの袋に入ったお菓子が沢山つまったお弁当箱が置かれていた。

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デブでキモヲの僕が、春の妖精と結ばれる可能性は何%ありますか? 四拾 六 @yosoji

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