その79 同 上  の2

 2 無言哀歌


カアチャンとは口をきかない

必要事をプツンと言うだけ

余計なことを話しかけても

カアチャンは応じない

カアチャンの拒絶意識は熾烈だ


発端はカアチャンの病状だ

肝臓の数値が悪くなっていると

医院から連絡があった

とカアチャンが告げた

ゴルフから帰ったオッサンに

腎臓が悪い上に肝臓か

不吉な黒風が

オッサンに吹きつけた

明日医院に行って話を聞くと言う

オッサンは途惑いながらも

打ち上げの飲み会に出かけた

やはり気になり

二次会には行かず帰ってきた

一時間後

オレは二次会に行かずに帰ってきたんだぞ

とオッサンは吠えていた

誰も帰ってこいとは言ってない

とカアチャンは言い返した


翌日

医院から帰ったカアチャンに

オッサンは、どうだった、 と訊いた

あんたには関係ない

オタメゴカシに心配するな

とカアチャンは言った

ボタンは掛け違えたままだった

オッサンはムッとした

二人は無言の行に入った


カアチャンが腎クリニックを受診する日にも

オッサンはついて行かなかった

いつも二人で行っていたのに


十日ほどが過ぎて


この男は私がどうなろうと

どうでもいいと思っている!

カアチャンが爆発した

お前が心配するなと言ったんだろ

そう言われたら何も言えんだろう

オッサンは言い返した

(黙っているのはオレも苦しかった

だが、意地を張ってしまった)

あんたは前からそうだった

一緒に診断を聞いていても

何も分っていなかった!

後の食事が目的で

ついて来ていたんだろう

オッサンには不可解な言葉だった


無言は苦しい

思うことを口に出して

返答を得て

何かを思って

前に進む

が日常だったんだよな

生活とは会話なんだな

家族とは会話なんだな

会話が充足と喜びを生む

オッサンはしみじみと思う


義母が居る故の

三人一緒の食事

カアチャンはしきりに義母に話しかけ

オッサンを相手にしない

内側に湧く思いを

語る相手が

オッサンにはいない

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