その56 原因不問
生徒の自殺を
朝礼で知らされた
校長の報告によれば
特進クラスに在籍する
出席皆勤の生徒で
学校は楽しいと言い
将来は教師になることを
目標にしていた
その日は三者(生徒・保護者・担任)面談の日で
順番を待っていた彼は
面談をすっぽかして
母親を残して下校し
自殺したのだ
〈原因はよくわからない
憶測でものを言わぬよう
注意してもらいたい〉(校長)
〈自殺という言葉は
学校に落度があるように聞こえるので
使わないでもらいたい〉(教頭)
両親の前で
畳から頭を上げられなかったという担任は
葬儀の会場で
あの子はきっとここにいて
今は後悔していると思います
と母親から声をかけられたことを報告し
ほっとしたような顔をしていた
〈その後、学校に対して
責任追及や非難の声はありませんが
気を緩めることなく
生徒一人一人に対して
手落ちのない指導をしてもらいたい〉(教頭)
その日、私はたまたま
生徒が自死したホームにいた
下りの一番ホームはここだと気づいて
ホームの端に行き、線路を覗きこんだ
生徒は椅子に鞄を置き
線路に降りたという
線路の傍らには二メートル幅の草地がある
十分逃げられるのだ
轟音とともに
生徒を撥ねた特急電車が走り抜けた
小柄だったらしいその生徒は
線路の真ん中にいたという
驀進してくる電車
ちょっと横に飛べば助かったろうに
彼は動かなかった
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